ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼

文字の大きさ
上 下
50 / 98
第二章

21.滝つぼ

しおりを挟む
 二人が滝つぼ目がけて飛び込んだ後、ゴンゴの兵士や犬たちが走り込んできた。しかし、既にそこには誰もいないことに唖然とした。
 滝つぼを覗き込み、崖に人影が隠れていないかを調べた。犬たちも必死に匂いを追ったが、この先分からないという仕草をするので、兵士たちはこの場所を諦めた。他の場所を探しにその場を後にした。

 一方、ノアはさくらを脇に抱えて滝の裏側に這い上がった。さくらは地面に降ろされると、四つん這いになった。思いきり咳き込み、ゲッゲっと水を吐いた。そして、その場にぐったりと突っ伏した。

 ノアは滝の隙間から外の様子を伺った。追手の兵達が滝つぼや崖を覗いているのが見えるが、滝の裏が洞窟になっていることに気が付いていないようだった。兵士たちが他を探すべく、森の奥へ消えていくのを確認するとホッと胸をなでおろした。

 しかし、まだ難題は山積していた。もうすぐ日が昇る。太陽が完全に昇った時、自分はドラゴンに戻ってしまう。ここでドラゴンの姿になるわけにはいかない。人の姿のうちに、一人ここを出て、密かにドラゴンの姿に戻り、はぐれたイルハンを探し出すしか策は浮かばなかった。  

 ノアは、ぐったりとだらしなく地面に横になっているさくらの傍に近づいた。
 さくらはノアが横に来たことに気付くと、慌てて身を起こした。そして、周りを見渡し、初めてここが滝の裏側だということに気が付いた。

「大丈夫か?」

 ノアの問いにさくらは無言で頷いた。ノアはさくらが自分に緊張していることに気付き、そっとさくらの頭を撫でた。さくらはビクッと体を震わせ、伺うようにノアの顔を覗き込んだ。

「イルハンを探してくる。お前はここで待っていろ」

 ノアは立ち上がると、さくらが何か言おうとする前に、踵を返し滝へ向かった。

 さくらも慌てて立ち上がろうとした時、無意識に滝の反対側を見た。
 そこは奥にずっと穴が続いていて、ゾッとするような暗さが広がっていた。さくらは思わず身震いした。

「ま、待って! 待ってくださいっ!」

 さくらは滝から外を伺っているノアに駆け寄った。ノアは驚いてさくらを見た。

「お願いです! 一人にしないでください! ここなんか怖い・・・です・・・!」

 さくらの目に涙が浮かんできた。自分が一緒に行っては足手まといなことも十分承知している。だが、それよりもこの奥に広がる洞窟の方が薄気味悪い。

 それだけではない、もし追手にここがばれたら? 一人ではとても対処しきれない。それに、もしも自分の知らない場所でノアやイルハンが捕まってしまったら? その時、自分はどうしたらいい? 何の術も持たないのだ。

 いろいろな恐怖や不安が一気にさくらに押し寄せてきて、とても一人きりの重圧に耐えきれそうになった。

 涙をいっぱいに溜めた瞳で訴えられたノアはひどく動揺した。ノアはさくらのこの目にとても弱かった。そして何より、人の姿になってから初めてさくらから言葉をかけられた。人間の姿の自分をまっすぐ見つめているさくらに感動すら覚えた。

「大丈夫だ・・・。すぐに戻る」

 ノアはさくらの頬を自分の両手で包むと、額に唇を押し当てた。自分がさくらにしてもらった時のように優しく。 
唇を離し、さくらの顔を覗くと、さくらは目をパチクリさせて、固まっていた。
 その表情に思わず微笑むと、今度はさくらの頬に軽く唇を当て、

「行ってくる」

と言い残し、滝の横をすり抜けると外に出ていった。


☆彡


 ノアが出ていくのをポカンと見送ったさくらは、そのままその場にしゃがみ込んだ。やっと自分が何をされたか分かってくると、カーッと顔が火照ってきた。

「な、何、あの人・・・」

 さくらはノアにキスされたところを押えて、ぼーっとしていた。恐怖も不安も一気に消えてしまうほどの衝撃的な出来事だった。

「あの人が、陛下・・・。ってことは、私の旦那様・・・?」

 相変わらず、ぼーっとしたまま、しゃがんでいると、洞窟の奥から何か動く気配がした。

「・・・!」

 途端に恐怖がぶり返した。恐る恐る洞窟の奥を見ると、大きな影がゆっくりこちらに向かってくる。さくらは恐怖でその場から動くことができずに、その影を見守った。近づいてくるにつれ、徐々に外の明かりが巨大な生き物を照らし始めた。

 その姿には見覚えがあった。さくらの恐怖はどんどん薄れていき、とうとう目の前に来た時には喜びで叫んだ。

「ドラゴン!」

 それは大きなドラゴンだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編8が完結しました!(2024.7.19)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜 王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。 彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。 自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。 アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──? どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。 イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。 *HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています! ※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)  話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。  雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。 ※完結しました。全41話。  お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

処理中です...