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第二章

21.滝つぼ

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 二人が滝つぼ目がけて飛び込んだ後、ゴンゴの兵士や犬たちが走り込んできた。しかし、既にそこには誰もいないことに唖然とした。
 滝つぼを覗き込み、崖に人影が隠れていないかを調べた。犬たちも必死に匂いを追ったが、この先分からないという仕草をするので、兵士たちはこの場所を諦めた。他の場所を探しにその場を後にした。

 一方、ノアはさくらを脇に抱えて滝の裏側に這い上がった。さくらは地面に降ろされると、四つん這いになった。思いきり咳き込み、ゲッゲっと水を吐いた。そして、その場にぐったりと突っ伏した。

 ノアは滝の隙間から外の様子を伺った。追手の兵達が滝つぼや崖を覗いているのが見えるが、滝の裏が洞窟になっていることに気が付いていないようだった。兵士たちが他を探すべく、森の奥へ消えていくのを確認するとホッと胸をなでおろした。

 しかし、まだ難題は山積していた。もうすぐ日が昇る。太陽が完全に昇った時、自分はドラゴンに戻ってしまう。ここでドラゴンの姿になるわけにはいかない。人の姿のうちに、一人ここを出て、密かにドラゴンの姿に戻り、はぐれたイルハンを探し出すしか策は浮かばなかった。  

 ノアは、ぐったりとだらしなく地面に横になっているさくらの傍に近づいた。
 さくらはノアが横に来たことに気付くと、慌てて身を起こした。そして、周りを見渡し、初めてここが滝の裏側だということに気が付いた。

「大丈夫か?」

 ノアの問いにさくらは無言で頷いた。ノアはさくらが自分に緊張していることに気付き、そっとさくらの頭を撫でた。さくらはビクッと体を震わせ、伺うようにノアの顔を覗き込んだ。

「イルハンを探してくる。お前はここで待っていろ」

 ノアは立ち上がると、さくらが何か言おうとする前に、踵を返し滝へ向かった。

 さくらも慌てて立ち上がろうとした時、無意識に滝の反対側を見た。
 そこは奥にずっと穴が続いていて、ゾッとするような暗さが広がっていた。さくらは思わず身震いした。

「ま、待って! 待ってくださいっ!」

 さくらは滝から外を伺っているノアに駆け寄った。ノアは驚いてさくらを見た。

「お願いです! 一人にしないでください! ここなんか怖い・・・です・・・!」

 さくらの目に涙が浮かんできた。自分が一緒に行っては足手まといなことも十分承知している。だが、それよりもこの奥に広がる洞窟の方が薄気味悪い。

 それだけではない、もし追手にここがばれたら? 一人ではとても対処しきれない。それに、もしも自分の知らない場所でノアやイルハンが捕まってしまったら? その時、自分はどうしたらいい? 何の術も持たないのだ。

 いろいろな恐怖や不安が一気にさくらに押し寄せてきて、とても一人きりの重圧に耐えきれそうになった。

 涙をいっぱいに溜めた瞳で訴えられたノアはひどく動揺した。ノアはさくらのこの目にとても弱かった。そして何より、人の姿になってから初めてさくらから言葉をかけられた。人間の姿の自分をまっすぐ見つめているさくらに感動すら覚えた。

「大丈夫だ・・・。すぐに戻る」

 ノアはさくらの頬を自分の両手で包むと、額に唇を押し当てた。自分がさくらにしてもらった時のように優しく。 
唇を離し、さくらの顔を覗くと、さくらは目をパチクリさせて、固まっていた。
 その表情に思わず微笑むと、今度はさくらの頬に軽く唇を当て、

「行ってくる」

と言い残し、滝の横をすり抜けると外に出ていった。


☆彡


 ノアが出ていくのをポカンと見送ったさくらは、そのままその場にしゃがみ込んだ。やっと自分が何をされたか分かってくると、カーッと顔が火照ってきた。

「な、何、あの人・・・」

 さくらはノアにキスされたところを押えて、ぼーっとしていた。恐怖も不安も一気に消えてしまうほどの衝撃的な出来事だった。

「あの人が、陛下・・・。ってことは、私の旦那様・・・?」

 相変わらず、ぼーっとしたまま、しゃがんでいると、洞窟の奥から何か動く気配がした。

「・・・!」

 途端に恐怖がぶり返した。恐る恐る洞窟の奥を見ると、大きな影がゆっくりこちらに向かってくる。さくらは恐怖でその場から動くことができずに、その影を見守った。近づいてくるにつれ、徐々に外の明かりが巨大な生き物を照らし始めた。

 その姿には見覚えがあった。さくらの恐怖はどんどん薄れていき、とうとう目の前に来た時には喜びで叫んだ。

「ドラゴン!」

 それは大きなドラゴンだった。

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