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第二章
13.突然の冷遇
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さくらはここにきて四日目を迎えていた。もう流石にアンナとカンナの区別もつくようになり、二人の距離も今までよりも縮まってきた。しかし・・・。
(お腹空いた・・・)
よく分からないが、昨日から急に食事の量が激減したのだ。今までは食べきれないほどの量が並んでいたのだが、突然に、初めてここで食事したような雑穀スープとパンとお茶だけになった。
さくらだけならその程度の量でも問題ないどころか、かえって調度よいくらいなのだか、今はドラゴンがいる。傷もすっかり癒えて食欲も旺盛になっているので、これだけの量ではまったく足りなかった。アンナとカンナにお願いしても、悲しそうに困った顔をするだけで、食事の量は増やしてもらえなかった。
(自分で調達するしかないな・・・)
我慢に耐えかねたさくらは、部屋を出て調理場を探し出し、食料を直接貰ってくることを考えた。もちろん、部屋から出ることは禁じられている。それは、さくらがまだ正式な王妃ではなく、拉致した異国の姫君という立場だからだ。
さくらは部屋の扉に手を掛けた。それに気が付いたドラゴンがさくらの傍まで飛んできた。そして、出ることは許さないと言わんばかりに、彼女のドレスの裾をくわえて引っ張った。
「大丈夫よ! 少しくらい」
さくらはドラゴンを抱き上げ、優しく頭を撫でた。
「すぐ戻るからね。もしも、誰か来たらすぐに隠れてね」
そう言ってドラゴンを床に下ろすと、そっと開けて廊下を覗いた。
(あ!)
なんとタイミングの良い事か。廊下の奥からアンナとカンナがワゴンを押して、さくらの部屋に向かってきているところだった。そのワゴンにティーポットと果物らしいものが乗っているのが見える。
(なんだ~~、よかったぁ!)
さくらはホッとして二人を見つめた。まだ食事の時間ではないのに、自分の訴えを聞き入れくれたのだ。さくらはわざわざ用意してくれたことに感謝して、二人を待った。
しかし、よく見ると二人の様子はどこかおかしい。お茶が乗っているので丁寧に運ばなければこぼれるのに、ほぼ小走りでこちらに向かっている。扉を開けてこちらを見ているさくらに気付いたようだ。さらに急いで向かってきた。
「何をしているの? あなた達」
突然、アンナとカンナの後ろから女性の声が聞こえた。
二人はピタッと立ち止まり、その声の主の方に振り向いた。そして、その主からさくらが見えないように、さりげなく立ち位置を変えた。
さくらも二人の仕草に気が付き、慌てて扉を閉めた。それでも、気になって仕方がないので、ほんの少しだけ扉を開き、顔を出さずに外の様子に耳を傾けた。ドラゴンも一緒に耳を澄ませている。
「そのワゴンは何?」
女性の声が聞こえた。それにアンナとカンナは答えない。おそらく頭を下げてじっとしているのだろう。
「イザベル様の質問に答えないつもりか?」
今度は男の声が聞こえた。この声は聞き覚えがある。トムテだ。さくらは嫌な予感がして、しゃがんで、扉の隙間からそっと廊下を覗いた。
アンナとカンナのワゴンの前に、とても派手に着飾った女性が扇を顔に当てて立っていた。その女性が持っている扇は淡く白い光に包まれている様に見えた。その横には、案の定、トムテも並んで立っている。そして、その二人の後ろには、五、六人の侍女が控えていた。
「このワゴンのケーキやお茶をどこへ持っていくつもり?」
イザベルと呼ばれた女性は、ワゴンの上を畳んだ扇で指した。やはりその扇は白い光を放っている。
「まさか私の言いつけを破るつもりではないでしょうね?」
光る扇を掌でポンポンと叩きながら、意地悪そうに双子に近づいてきた。
「さくら様のところでございます・・・」
アンナとカンナは頭を下げ、小刻みに震えながら消え入るような小さい声で答えた。
次の瞬間、大きな音を立てて、ワゴンの上のケーキや果物などすべて、廊下へ払い落された。
「っ!!」
さくらはその光景にビックリして声を上げそうになり、慌てて両手で口を押えた。
「あの女に余計な食事を与えるなと言ったはずよ!」
イザベルは大声で怒鳴ると、持っていた扇でアンナの顔を叩いた。アンナは悲鳴を上げ、両手で顔を押えてその場に蹲った。
その様子に、イザベルは満足げな笑みを浮かべたと思うと、
「一人にだけ罰を与えるのは公平ではないわね」
次にカンナに向かって扇を振り上げた。
「止めて!」
さくらは堪らず、部屋から飛び出した。しかし、一瞬遅かった。振り下ろされた扇はカンナの頬を直撃し、カンナは後ろに倒れかけた。さくらは懸命に両手を伸ばし、何とかカンナを支え、倒れるのを阻止した。
「大丈夫!?」
さくらはゆっくりカンナを床に座らせると顔を覗き込んだ。顔を覆っている両手の隙間から、頬に真っ赤なミミズ腫れのように膨れ上がった傷が見え、さくらは青くなった。急いでアンナの方にも声を掛け、彼女の顔を覗くと、同じように頬に真っ赤なミミズ腫れが見えた。
(お腹空いた・・・)
よく分からないが、昨日から急に食事の量が激減したのだ。今までは食べきれないほどの量が並んでいたのだが、突然に、初めてここで食事したような雑穀スープとパンとお茶だけになった。
さくらだけならその程度の量でも問題ないどころか、かえって調度よいくらいなのだか、今はドラゴンがいる。傷もすっかり癒えて食欲も旺盛になっているので、これだけの量ではまったく足りなかった。アンナとカンナにお願いしても、悲しそうに困った顔をするだけで、食事の量は増やしてもらえなかった。
(自分で調達するしかないな・・・)
我慢に耐えかねたさくらは、部屋を出て調理場を探し出し、食料を直接貰ってくることを考えた。もちろん、部屋から出ることは禁じられている。それは、さくらがまだ正式な王妃ではなく、拉致した異国の姫君という立場だからだ。
さくらは部屋の扉に手を掛けた。それに気が付いたドラゴンがさくらの傍まで飛んできた。そして、出ることは許さないと言わんばかりに、彼女のドレスの裾をくわえて引っ張った。
「大丈夫よ! 少しくらい」
さくらはドラゴンを抱き上げ、優しく頭を撫でた。
「すぐ戻るからね。もしも、誰か来たらすぐに隠れてね」
そう言ってドラゴンを床に下ろすと、そっと開けて廊下を覗いた。
(あ!)
なんとタイミングの良い事か。廊下の奥からアンナとカンナがワゴンを押して、さくらの部屋に向かってきているところだった。そのワゴンにティーポットと果物らしいものが乗っているのが見える。
(なんだ~~、よかったぁ!)
さくらはホッとして二人を見つめた。まだ食事の時間ではないのに、自分の訴えを聞き入れくれたのだ。さくらはわざわざ用意してくれたことに感謝して、二人を待った。
しかし、よく見ると二人の様子はどこかおかしい。お茶が乗っているので丁寧に運ばなければこぼれるのに、ほぼ小走りでこちらに向かっている。扉を開けてこちらを見ているさくらに気付いたようだ。さらに急いで向かってきた。
「何をしているの? あなた達」
突然、アンナとカンナの後ろから女性の声が聞こえた。
二人はピタッと立ち止まり、その声の主の方に振り向いた。そして、その主からさくらが見えないように、さりげなく立ち位置を変えた。
さくらも二人の仕草に気が付き、慌てて扉を閉めた。それでも、気になって仕方がないので、ほんの少しだけ扉を開き、顔を出さずに外の様子に耳を傾けた。ドラゴンも一緒に耳を澄ませている。
「そのワゴンは何?」
女性の声が聞こえた。それにアンナとカンナは答えない。おそらく頭を下げてじっとしているのだろう。
「イザベル様の質問に答えないつもりか?」
今度は男の声が聞こえた。この声は聞き覚えがある。トムテだ。さくらは嫌な予感がして、しゃがんで、扉の隙間からそっと廊下を覗いた。
アンナとカンナのワゴンの前に、とても派手に着飾った女性が扇を顔に当てて立っていた。その女性が持っている扇は淡く白い光に包まれている様に見えた。その横には、案の定、トムテも並んで立っている。そして、その二人の後ろには、五、六人の侍女が控えていた。
「このワゴンのケーキやお茶をどこへ持っていくつもり?」
イザベルと呼ばれた女性は、ワゴンの上を畳んだ扇で指した。やはりその扇は白い光を放っている。
「まさか私の言いつけを破るつもりではないでしょうね?」
光る扇を掌でポンポンと叩きながら、意地悪そうに双子に近づいてきた。
「さくら様のところでございます・・・」
アンナとカンナは頭を下げ、小刻みに震えながら消え入るような小さい声で答えた。
次の瞬間、大きな音を立てて、ワゴンの上のケーキや果物などすべて、廊下へ払い落された。
「っ!!」
さくらはその光景にビックリして声を上げそうになり、慌てて両手で口を押えた。
「あの女に余計な食事を与えるなと言ったはずよ!」
イザベルは大声で怒鳴ると、持っていた扇でアンナの顔を叩いた。アンナは悲鳴を上げ、両手で顔を押えてその場に蹲った。
その様子に、イザベルは満足げな笑みを浮かべたと思うと、
「一人にだけ罰を与えるのは公平ではないわね」
次にカンナに向かって扇を振り上げた。
「止めて!」
さくらは堪らず、部屋から飛び出した。しかし、一瞬遅かった。振り下ろされた扇はカンナの頬を直撃し、カンナは後ろに倒れかけた。さくらは懸命に両手を伸ばし、何とかカンナを支え、倒れるのを阻止した。
「大丈夫!?」
さくらはゆっくりカンナを床に座らせると顔を覗き込んだ。顔を覆っている両手の隙間から、頬に真っ赤なミミズ腫れのように膨れ上がった傷が見え、さくらは青くなった。急いでアンナの方にも声を掛け、彼女の顔を覗くと、同じように頬に真っ赤なミミズ腫れが見えた。
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