上 下
42 / 98
第二章

13.突然の冷遇

しおりを挟む
 さくらはここにきて四日目を迎えていた。もう流石にアンナとカンナの区別もつくようになり、二人の距離も今までよりも縮まってきた。しかし・・・。

(お腹空いた・・・)

 よく分からないが、昨日から急に食事の量が激減したのだ。今までは食べきれないほどの量が並んでいたのだが、突然に、初めてここで食事したような雑穀スープとパンとお茶だけになった。

 さくらだけならその程度の量でも問題ないどころか、かえって調度よいくらいなのだか、今はドラゴンがいる。傷もすっかり癒えて食欲も旺盛になっているので、これだけの量ではまったく足りなかった。アンナとカンナにお願いしても、悲しそうに困った顔をするだけで、食事の量は増やしてもらえなかった。

(自分で調達するしかないな・・・)

 我慢に耐えかねたさくらは、部屋を出て調理場を探し出し、食料を直接貰ってくることを考えた。もちろん、部屋から出ることは禁じられている。それは、さくらがまだ正式な王妃ではなく、拉致した異国の姫君という立場だからだ。

 さくらは部屋の扉に手を掛けた。それに気が付いたドラゴンがさくらの傍まで飛んできた。そして、出ることは許さないと言わんばかりに、彼女のドレスの裾をくわえて引っ張った。

「大丈夫よ! 少しくらい」

 さくらはドラゴンを抱き上げ、優しく頭を撫でた。

「すぐ戻るからね。もしも、誰か来たらすぐに隠れてね」

 そう言ってドラゴンを床に下ろすと、そっと開けて廊下を覗いた。

(あ!)

 なんとタイミングの良い事か。廊下の奥からアンナとカンナがワゴンを押して、さくらの部屋に向かってきているところだった。そのワゴンにティーポットと果物らしいものが乗っているのが見える。

(なんだ~~、よかったぁ!)

 さくらはホッとして二人を見つめた。まだ食事の時間ではないのに、自分の訴えを聞き入れくれたのだ。さくらはわざわざ用意してくれたことに感謝して、二人を待った。

 しかし、よく見ると二人の様子はどこかおかしい。お茶が乗っているので丁寧に運ばなければこぼれるのに、ほぼ小走りでこちらに向かっている。扉を開けてこちらを見ているさくらに気付いたようだ。さらに急いで向かってきた。

「何をしているの? あなた達」

突然、アンナとカンナの後ろから女性の声が聞こえた。

 二人はピタッと立ち止まり、その声の主の方に振り向いた。そして、その主からさくらが見えないように、さりげなく立ち位置を変えた。
 さくらも二人の仕草に気が付き、慌てて扉を閉めた。それでも、気になって仕方がないので、ほんの少しだけ扉を開き、顔を出さずに外の様子に耳を傾けた。ドラゴンも一緒に耳を澄ませている。

「そのワゴンは何?」

 女性の声が聞こえた。それにアンナとカンナは答えない。おそらく頭を下げてじっとしているのだろう。

「イザベル様の質問に答えないつもりか?」

 今度は男の声が聞こえた。この声は聞き覚えがある。トムテだ。さくらは嫌な予感がして、しゃがんで、扉の隙間からそっと廊下を覗いた。

 アンナとカンナのワゴンの前に、とても派手に着飾った女性が扇を顔に当てて立っていた。その女性が持っている扇は淡く白い光に包まれている様に見えた。その横には、案の定、トムテも並んで立っている。そして、その二人の後ろには、五、六人の侍女が控えていた。

「このワゴンのケーキやお茶をどこへ持っていくつもり?」

 イザベルと呼ばれた女性は、ワゴンの上を畳んだ扇で指した。やはりその扇は白い光を放っている。

「まさか私の言いつけを破るつもりではないでしょうね?」

 光る扇を掌でポンポンと叩きながら、意地悪そうに双子に近づいてきた。

「さくら様のところでございます・・・」

 アンナとカンナは頭を下げ、小刻みに震えながら消え入るような小さい声で答えた。
 次の瞬間、大きな音を立てて、ワゴンの上のケーキや果物などすべて、廊下へ払い落された。

「っ!!」

 さくらはその光景にビックリして声を上げそうになり、慌てて両手で口を押えた。

「あの女に余計な食事を与えるなと言ったはずよ!」

 イザベルは大声で怒鳴ると、持っていた扇でアンナの顔を叩いた。アンナは悲鳴を上げ、両手で顔を押えてその場に蹲った。
 その様子に、イザベルは満足げな笑みを浮かべたと思うと、

「一人にだけ罰を与えるのは公平ではないわね」

 次にカンナに向かって扇を振り上げた。

「止めて!」

 さくらは堪らず、部屋から飛び出した。しかし、一瞬遅かった。振り下ろされた扇はカンナの頬を直撃し、カンナは後ろに倒れかけた。さくらは懸命に両手を伸ばし、何とかカンナを支え、倒れるのを阻止した。

「大丈夫!?」

 さくらはゆっくりカンナを床に座らせると顔を覗き込んだ。顔を覆っている両手の隙間から、頬に真っ赤なミミズ腫れのように膨れ上がった傷が見え、さくらは青くなった。急いでアンナの方にも声を掛け、彼女の顔を覗くと、同じように頬に真っ赤なミミズ腫れが見えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

この度、変態騎士の妻になりました

cyaru
恋愛
結婚間近の婚約者に大通りのカフェ婚約を破棄されてしまったエトランゼ。 そんな彼女の前に跪いて愛を乞うたのは王太子が【ド変態騎士】と呼ぶ国一番の騎士だった。 ※話の都合上、少々いえ、かなり変態を感じさせる描写があります。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

捨てられ令嬢は、異能の眼を持つ魔術師になる。私、溺愛されているみたいですよ?

miy
ファンタジー
アンデヴァイセン伯爵家の長女であるイルシスは、『魔眼』といわれる赤い瞳を持って生まれた。 魔眼は、眼を見た者に呪いをかけると言い伝えられ…昔から忌み嫌われる存在。 邸で、伯爵令嬢とは思えない扱いを受けるイルシス。でも…彼女は簡単にはへこたれない。 そんなイルシスを救おうと手を差し伸べたのは、ランチェスター侯爵家のフェルナンドだった。 前向きで逞しい精神を持つ彼女は、新しい家族に出会い…愛されていく。 そんなある日『帝国の砦』である危険な辺境の地へ…フェルナンドが出向くことに。 「私も一緒に行く!」 異能の能力を開花させ、魔術だって使いこなす最強の令嬢。 愛する人を守ってみせます! ※ご都合主義です。お許し下さい。 ※ファンタジー要素多めですが、間違いなく溺愛されています。 ※本編は全80話(閑話あり)です。 おまけ話を追加しました。(10/15完結) ※この作品は、ド素人が書いた2作目です。どうか…あたたかい目でご覧下さい。よろしくお願い致します。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

処理中です...