ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼

文字の大きさ
上 下
45 / 98
第二章

16.さくらの能力

しおりを挟む
「それにしても、不思議です」

 手当てを終えると、医者は首を傾げた。

「イザベル様の扇には魔術が仕込まれているのです。そのため、あの扇で叩かれると、この双子のように酷く醜く晴れ上がってしまいます。それなのに、さくら様はただのかすり傷で済むとは・・・」

「それだけではありません! さくら様はあの扇を引き裂いたのですよ!」

 一人の侍女が興奮気味に叫んだ。顔は喜びで溢れている。

「そうそう! その後お踏みになっても何ともなかったのですよ!」

 横から別の侍女も口を出した。彼女たちはさくらの雄姿を褒め称えるように、ワイワイと賛同し始めた。 
 しかし、その内容は、扇を「奪い取る」や「引きちぎる」、挙句の果ては「足で踏み潰す」など、到底褒められたものではない。さくらは、改めて自分の行動を言葉で聞くと、なんと酷いものかと、今更ながら恥ずかしくなってきた。

「穴があったら入りたいです・・・」

 さくらは真っ赤になって俯いた。

「何をおっしゃるのです。さくら様は我々の救世主です!」

 興奮気味の侍女がまたもや叫んだ。

「イザベル様の扇は、国王陛下が特別に作らせたものでございます」

 ライラが侍女を制するように前に出てきた。

「国王陛下が?」

「さようでございます。イザベル様は国王陛下の寵妃であらせられます」

(やっぱりね~)

さくらは頷いた。

「あの扇は少し叩いただけで相当な衝撃を受け、イザベル様が念じれば、口が利けなくなったり、目が悪くなったりと、ちょっとした魔術まで使えてしまいます。あの方はその扇をむやみにお使いになるため、恐れて誰も逆らえなかったのです」

「扇を取り上げようにも、イザベル様にしか触れることができない魔術が掛けられていたのですよ」

と医者が割り込んだ。

「それなのに、さくら様はその扇に叩かれても大した傷にならなかった上に、その扇に触れることが出来た。更に更に、壊すことまで出来るとは! 恐らく、さくら様は魔術を回避する能力をお持ちなのかもしれませんな」

(それはないな・・・)

 さくらは心の中で呟いた。もし魔術を避ける能力があれば、そもそも『異世界の王妃』選びの魔術になど掛からないはずだ。

「それにしても」

 医者は頭を振りながらさらに続けた。

「扇が壊されたとなれば、もうこの薬はお役御免ですな。イザベル様の暴力で怪我をする使用人が多くて、知り合いの魔術師に無理言って作らせていたのですよ。イザベル様にバレないように内緒でね。これが高くってねぇ・・・」

「あの~・・・」

 医者の話が終わると、さくらはライラに向かって小さく手を挙げた。

「私の食事が減ったのって、あのイザベル様という人の命令ですよね?」

「・・・」

「国王陛下の寵妃ということは、王妃になろうという私への嫌がらせですよね?」

「・・・イザベル様は、ご自身が第一王妃になれると信じ切っておりましたので・・・」

ライラは申し訳なさそうに答えた。

「あ~、なるほど。ポッと出の私が気に入らないのは当然ですね・・・。それにしても、食事を与えないなんて、あまりにも幼稚というか、何て言うか・・・。いや! 残酷です! 私は囚人ではないのですから!」

 話しているうちに急に腹が立ってきたさくらは、つい語尾を強めた。

「申し訳ございません!」

 ライラは深く頭を下げた。他の侍女たちも習って深々と頭を下げた。さくらは立ち上がると、

「皆さんが見ているだけだったのに、勇気を出して行動をしてくれたアンナとカンナに感謝します。本当にどうもありがとう!」

 侍女たちが自分に頭を下げている中、さくらはアンナとカンナに向かって頭を下げた。その行動に侍女たちは目を見張った。さくらはライラに振り返ると、にっこり笑って言った。

「侍女長様からもお二人を褒めて上げてくださいね!」

「もちろんでございます!」

 さくらの笑みからその場の緊張は解れた。侍女たちはさくらの雄姿の賛美大会から、今度はアンナとカンナの双子の行動と勇気の賛美大会を始めた。

 穏やかな空気はいいのだが、流石にずっと隠れているドラゴンのことが気になりだした。さくらはそろそろ食事がしたいと言い、賛美大会を何とか終わらせ、みんなを部屋から出すことに成功した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...