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第二章

16.さくらの能力

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「それにしても、不思議です」

 手当てを終えると、医者は首を傾げた。

「イザベル様の扇には魔術が仕込まれているのです。そのため、あの扇で叩かれると、この双子のように酷く醜く晴れ上がってしまいます。それなのに、さくら様はただのかすり傷で済むとは・・・」

「それだけではありません! さくら様はあの扇を引き裂いたのですよ!」

 一人の侍女が興奮気味に叫んだ。顔は喜びで溢れている。

「そうそう! その後お踏みになっても何ともなかったのですよ!」

 横から別の侍女も口を出した。彼女たちはさくらの雄姿を褒め称えるように、ワイワイと賛同し始めた。 
 しかし、その内容は、扇を「奪い取る」や「引きちぎる」、挙句の果ては「足で踏み潰す」など、到底褒められたものではない。さくらは、改めて自分の行動を言葉で聞くと、なんと酷いものかと、今更ながら恥ずかしくなってきた。

「穴があったら入りたいです・・・」

 さくらは真っ赤になって俯いた。

「何をおっしゃるのです。さくら様は我々の救世主です!」

 興奮気味の侍女がまたもや叫んだ。

「イザベル様の扇は、国王陛下が特別に作らせたものでございます」

 ライラが侍女を制するように前に出てきた。

「国王陛下が?」

「さようでございます。イザベル様は国王陛下の寵妃であらせられます」

(やっぱりね~)

さくらは頷いた。

「あの扇は少し叩いただけで相当な衝撃を受け、イザベル様が念じれば、口が利けなくなったり、目が悪くなったりと、ちょっとした魔術まで使えてしまいます。あの方はその扇をむやみにお使いになるため、恐れて誰も逆らえなかったのです」

「扇を取り上げようにも、イザベル様にしか触れることができない魔術が掛けられていたのですよ」

と医者が割り込んだ。

「それなのに、さくら様はその扇に叩かれても大した傷にならなかった上に、その扇に触れることが出来た。更に更に、壊すことまで出来るとは! 恐らく、さくら様は魔術を回避する能力をお持ちなのかもしれませんな」

(それはないな・・・)

 さくらは心の中で呟いた。もし魔術を避ける能力があれば、そもそも『異世界の王妃』選びの魔術になど掛からないはずだ。

「それにしても」

 医者は頭を振りながらさらに続けた。

「扇が壊されたとなれば、もうこの薬はお役御免ですな。イザベル様の暴力で怪我をする使用人が多くて、知り合いの魔術師に無理言って作らせていたのですよ。イザベル様にバレないように内緒でね。これが高くってねぇ・・・」

「あの~・・・」

 医者の話が終わると、さくらはライラに向かって小さく手を挙げた。

「私の食事が減ったのって、あのイザベル様という人の命令ですよね?」

「・・・」

「国王陛下の寵妃ということは、王妃になろうという私への嫌がらせですよね?」

「・・・イザベル様は、ご自身が第一王妃になれると信じ切っておりましたので・・・」

ライラは申し訳なさそうに答えた。

「あ~、なるほど。ポッと出の私が気に入らないのは当然ですね・・・。それにしても、食事を与えないなんて、あまりにも幼稚というか、何て言うか・・・。いや! 残酷です! 私は囚人ではないのですから!」

 話しているうちに急に腹が立ってきたさくらは、つい語尾を強めた。

「申し訳ございません!」

 ライラは深く頭を下げた。他の侍女たちも習って深々と頭を下げた。さくらは立ち上がると、

「皆さんが見ているだけだったのに、勇気を出して行動をしてくれたアンナとカンナに感謝します。本当にどうもありがとう!」

 侍女たちが自分に頭を下げている中、さくらはアンナとカンナに向かって頭を下げた。その行動に侍女たちは目を見張った。さくらはライラに振り返ると、にっこり笑って言った。

「侍女長様からもお二人を褒めて上げてくださいね!」

「もちろんでございます!」

 さくらの笑みからその場の緊張は解れた。侍女たちはさくらの雄姿の賛美大会から、今度はアンナとカンナの双子の行動と勇気の賛美大会を始めた。

 穏やかな空気はいいのだが、流石にずっと隠れているドラゴンのことが気になりだした。さくらはそろそろ食事がしたいと言い、賛美大会を何とか終わらせ、みんなを部屋から出すことに成功した。


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