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第二章
14.光る扇
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突然の見知らぬ女の出現に、イザベルは驚いたようだが、すぐにこの女がさくらと分かると、冷ややかな目でさくらを見下ろした。
「これは、これは。貴女が異世界からの客人でいらっしゃいますの?」
意地悪そうに目を細め、広げた扇で顔を半分隠して、さくらを観察するように眺めた。そして、フンっと鼻を鳴らすと、
「品のない小娘だこと・・・」
と、あざ笑うように言い放った。
だが、さくらはその嫌味をまるっきり無視し、両脇に二人を抱えるように立ち上がると、
「大変! すぐに手当てしよう! 早く部屋へ!」
イザベルとトムテの顔を見ようともせず、部屋に向かおうとした。
その態度にイザベルは言葉を失った。しかし、すぐに自分が無視されたと分かると、怒りで顔が熱くなるのを感じた。
「・・・! 貴女・・・! 一体私を誰だと思って・・・!!」
怒りのあまり唇が震え、上手く言葉にならないイザベルに対し、トムテが口を挟んだ。
「イザベル様、お怒りをお静め下さい。この女はとても育ちが悪いのです。食べ物を粗末に扱い、言葉使いも汚らしい。全くもって下品な女です。伯爵令嬢でいらっしゃるイザベル様が相手になさる価値なぞございません」
以前の仕打ちを根に持っているトムテは、ここぞとばかりにさくらを罵った。
「まったく、このような女がわが国の第一王妃となるなんて・・・。国のためとはいえ、なんと嘆かわしいことか!」
このトムテの大げさで演技がかった言い方にカチンときたさくらはキッと振り返った。
「私が食べ物を粗末にして育ちが悪いなら、この女はどうなのよ? 全く同じことしてるじゃない」
さくらは顎でイザベルを指し、トムテに言い返した。
この態度は、イザベルの怒りを爆発させた。
生まれながらに身分の高い彼女が、見ず知らずの身分の低い女に顎で指されるなんてあり得ないことだ。ましてや「この女」だと! 未だかつて味わったことがないほどの屈辱に、怒りで体中がワナワナと震えた。
彼女は怪しい光を放つ扇を持つ手に力を込めると、つかつかと足音を鳴らし、さくらに近づいてきた。
(殴られる・・・!)
さくらは咄嗟に自分の顔の前で両手をクロスし防御した。イザベルに振り下ろされた扇はクロスした右手の掌に当たった。
「痛っ・・・!」
さくらは右手を押え、ぐっと痛みに耐えた。そんなさくらのことをアンナとカンナは心配そうに両脇から支えた。
暴力を振るったことで、少し気持ちが落ち着いたイザベルは、フッと意地悪そうな笑みを浮かべてさくらを睨みつけると、
「私に逆らわない方がよろしいことを、身をもって教えて差し上げました。今後お気をつけあそばせ」
そう言うと、さっと踵を返した。そんなイザベルをトムテは拍手をして迎えた。
「素晴らしい。イザベル様」
トムテがもみ手をしながらイザベルに近づき、もう用はないとばかりに背中に手を添えて、この場から去ろうとした。しかし、
「ちょっと!! 待ちなさいよっ!!」
さくらの怒号が廊下中に響き渡った。
二人は振り返ると、今度はさくらが怒りで体をワナワナ震わせていた。そして、つかつかとイザベルの前に近づくと、彼女の鼻先に自分の傷ついた掌を広げた。
「流血してるんだけど?! 謝りなさいよ!」
あわや血液が自分の顔に付きそうなくらいにさくらの手が迫り、鉄の嫌な臭いが鼻をついた。イザベルは驚いて、歩下がった。
「あんたのせいで怪我したんだから、謝れって言ってんの!」
当然この言葉は、再びイザベルを激怒させた。自分のことを「あんた」と呼び、謝罪まで要求したさくらに対し、怒りが頂点に達した。イザベルはもう一度扇を振り上げた。
「!!」
振り下ろした瞬間、その扇はさくらに掴まれ、取り上げられた。さくらはイザベルの目の前で乱暴に扇を広げたかと思うと、そのままの勢いに任せ、真っ二つに引き裂いた。
その行動にイザベルやトムテだけでなく、その場にいた全員が凍り付いた。しかし、怒り心頭なさくらは、そんなことに全く気付かず、裂けて二つになった扇をその場に叩きつけた。
「なーにが『私に逆らわない方がよろしい』よ! バーッカじゃないの!?」
さくらは床に落ちた扇を更に足で踏みつけた。そして真っ青になっているイザベルに向かって、
「それこそこっちのセリフだわ! 私が正式に第一王妃になった暁には、あんた達の方こそ覚えておきなさいよ! 酷い仕打ちを受けたこと、国王陛下にチクってやるっ!」
そう怒鳴りつけた。イザベルは震え上がり、後ろに控えていた侍女たちに助けを求めたが、誰もイザベルに近寄ろうとしなかった。トムテさえ固まって動かない。
周りの空気の変化にやっと気が付いたさくらは一瞬戸惑った。だが、すぐにでもアンナとカンナの手当てをしたかったので、そこにいる侍女たちに、ワゴンの片づけを丁寧にお願いした。すると、侍女たちはしっかり返事をしたかと思うと一斉に片付け作業に入った。
そんな彼女らの自分に対するあまりにも従順な態度に、さくらの目は点になってしまった。
一方、イザベルはその光景を見るとますます青くなり、トムテにしがみ付いた。そして一番リーダーらしき侍女を叫ぶように呼んだ。彼女だけは仕方なさそうにイザベルに近寄ると、寄り添って一緒に下がっていった。
「これは、これは。貴女が異世界からの客人でいらっしゃいますの?」
意地悪そうに目を細め、広げた扇で顔を半分隠して、さくらを観察するように眺めた。そして、フンっと鼻を鳴らすと、
「品のない小娘だこと・・・」
と、あざ笑うように言い放った。
だが、さくらはその嫌味をまるっきり無視し、両脇に二人を抱えるように立ち上がると、
「大変! すぐに手当てしよう! 早く部屋へ!」
イザベルとトムテの顔を見ようともせず、部屋に向かおうとした。
その態度にイザベルは言葉を失った。しかし、すぐに自分が無視されたと分かると、怒りで顔が熱くなるのを感じた。
「・・・! 貴女・・・! 一体私を誰だと思って・・・!!」
怒りのあまり唇が震え、上手く言葉にならないイザベルに対し、トムテが口を挟んだ。
「イザベル様、お怒りをお静め下さい。この女はとても育ちが悪いのです。食べ物を粗末に扱い、言葉使いも汚らしい。全くもって下品な女です。伯爵令嬢でいらっしゃるイザベル様が相手になさる価値なぞございません」
以前の仕打ちを根に持っているトムテは、ここぞとばかりにさくらを罵った。
「まったく、このような女がわが国の第一王妃となるなんて・・・。国のためとはいえ、なんと嘆かわしいことか!」
このトムテの大げさで演技がかった言い方にカチンときたさくらはキッと振り返った。
「私が食べ物を粗末にして育ちが悪いなら、この女はどうなのよ? 全く同じことしてるじゃない」
さくらは顎でイザベルを指し、トムテに言い返した。
この態度は、イザベルの怒りを爆発させた。
生まれながらに身分の高い彼女が、見ず知らずの身分の低い女に顎で指されるなんてあり得ないことだ。ましてや「この女」だと! 未だかつて味わったことがないほどの屈辱に、怒りで体中がワナワナと震えた。
彼女は怪しい光を放つ扇を持つ手に力を込めると、つかつかと足音を鳴らし、さくらに近づいてきた。
(殴られる・・・!)
さくらは咄嗟に自分の顔の前で両手をクロスし防御した。イザベルに振り下ろされた扇はクロスした右手の掌に当たった。
「痛っ・・・!」
さくらは右手を押え、ぐっと痛みに耐えた。そんなさくらのことをアンナとカンナは心配そうに両脇から支えた。
暴力を振るったことで、少し気持ちが落ち着いたイザベルは、フッと意地悪そうな笑みを浮かべてさくらを睨みつけると、
「私に逆らわない方がよろしいことを、身をもって教えて差し上げました。今後お気をつけあそばせ」
そう言うと、さっと踵を返した。そんなイザベルをトムテは拍手をして迎えた。
「素晴らしい。イザベル様」
トムテがもみ手をしながらイザベルに近づき、もう用はないとばかりに背中に手を添えて、この場から去ろうとした。しかし、
「ちょっと!! 待ちなさいよっ!!」
さくらの怒号が廊下中に響き渡った。
二人は振り返ると、今度はさくらが怒りで体をワナワナ震わせていた。そして、つかつかとイザベルの前に近づくと、彼女の鼻先に自分の傷ついた掌を広げた。
「流血してるんだけど?! 謝りなさいよ!」
あわや血液が自分の顔に付きそうなくらいにさくらの手が迫り、鉄の嫌な臭いが鼻をついた。イザベルは驚いて、歩下がった。
「あんたのせいで怪我したんだから、謝れって言ってんの!」
当然この言葉は、再びイザベルを激怒させた。自分のことを「あんた」と呼び、謝罪まで要求したさくらに対し、怒りが頂点に達した。イザベルはもう一度扇を振り上げた。
「!!」
振り下ろした瞬間、その扇はさくらに掴まれ、取り上げられた。さくらはイザベルの目の前で乱暴に扇を広げたかと思うと、そのままの勢いに任せ、真っ二つに引き裂いた。
その行動にイザベルやトムテだけでなく、その場にいた全員が凍り付いた。しかし、怒り心頭なさくらは、そんなことに全く気付かず、裂けて二つになった扇をその場に叩きつけた。
「なーにが『私に逆らわない方がよろしい』よ! バーッカじゃないの!?」
さくらは床に落ちた扇を更に足で踏みつけた。そして真っ青になっているイザベルに向かって、
「それこそこっちのセリフだわ! 私が正式に第一王妃になった暁には、あんた達の方こそ覚えておきなさいよ! 酷い仕打ちを受けたこと、国王陛下にチクってやるっ!」
そう怒鳴りつけた。イザベルは震え上がり、後ろに控えていた侍女たちに助けを求めたが、誰もイザベルに近寄ろうとしなかった。トムテさえ固まって動かない。
周りの空気の変化にやっと気が付いたさくらは一瞬戸惑った。だが、すぐにでもアンナとカンナの手当てをしたかったので、そこにいる侍女たちに、ワゴンの片づけを丁寧にお願いした。すると、侍女たちはしっかり返事をしたかと思うと一斉に片付け作業に入った。
そんな彼女らの自分に対するあまりにも従順な態度に、さくらの目は点になってしまった。
一方、イザベルはその光景を見るとますます青くなり、トムテにしがみ付いた。そして一番リーダーらしき侍女を叫ぶように呼んだ。彼女だけは仕方なさそうにイザベルに近寄ると、寄り添って一緒に下がっていった。
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