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第二章
11.報告
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イルハンは船の上にいた。一人甲板の先端に立ち、怒りに満ちた目でじっと水平線を見据えていた。そして、その怒りのほとんどは失態を犯した自分自身に向けられていた。
王妃が連れ去られたことに気が付いたのはその日の夜だった。
祭りは深夜まで続く。しかし、王妃があまり遅くまで外にいることは好ましくない。日が傾きかけた頃には王妃を迎えに行った。だが、第二宮殿の庭園内を探すも、さくらの姿はどこにもなかった。
そこで、王妃の顔を見知っている数名の助けを借り、城中隈なく探したが、まったく見当たらなかった。それはトムテ博士もテナーも同じだった。
もしかすると、この機を狙って街にも繰り出したのかもしれない。そう考え、捜索は街中にまで及んだ。そして、とうとう宮殿入り口付近にある小さな小屋の裏にテナーが両手両足を縛られ猿轡をはめられて倒れているのを発見した。その時になってやっと王妃は誘拐されたことが分かったのだ。既に周りはすっかり暗くなっていた。
テナーは、犯人の顔は仮面を付けていたので全く分からないと言った。
複数の仮面を付けた男たちに囲まれかけたところにトムテ博士が駆けつけてきてくれた。だが、次の瞬間、自分は後ろから仮面を被せられ、その後の記憶はない。気が付いたのは助けられた後なので、自分が縛られていたことすら知らなかったという。
事態は直ちに国王の後見人である大魔術師ダロスに伝えられた。ダロスはすぐに国王専属の近衛兵を中心に捜索隊を編成し、王妃奪還の準備に取り掛かった。
☆彡
イルハンはこの事態をダロスに報告するより先に、いち早く報告しなければならない相手がいた。そのため大魔術師への報告は一番信頼している部下に任せ、自分は第一の宮殿の奥に広がる森へと急いだ。
森の奥まで進んでいくと崖に辿り着く。そこには大きな洞穴があり、目の前には澄んだ水が沸いている小さな池があった。
イルハンは洞窟の入り口に来ると片膝をついた。そして洞窟に向かって叫んだ。
「ノア国王陛下!」
洞窟の中で大きな影がゆっくりと動き、二つの緑色の光が見えた。その緑の光はしっかりとイルハンを捉えた。
「申し訳ありません。陛下! さくら様が・・・、王妃様が拉致されました!」
途端に、大きな黒い影が勢いよく飛び出してきた。そしてイルハンの前に仁王立ちになると、緑色の目で彼を睨みつけた。その目は怒りで燃え、口元から小さく炎が漏れていた。
「申し訳ございません!」
イルハンは深々と頭を下げた。相手の怒りを全身で感じ、この場で焼き殺されても文句は言えまいと腹をくくった。
「トムテも一緒に消えました。トムテの護衛の者たちも共に。計画的だったと推測されます」
それを聞くと、ドラゴンは雄叫びを上げ、空高く舞い上がった。
「お待ちください! 陛下!」
イルハンは、ドラゴンの羽ばたきで起こった風をまともに受け、視界を奪われながらも、大声で叫んだ。
「お一人での奪還はお考え直し下さい! 我々が命に代えても王妃様をお救いします!」
しかし、ドラゴンには全く届いていないようだった。
「王妃様を見つけたら、必ず、すぐにお戻りください!!」
それでもイルハンは空に向かってそう叫んだ。
だが、その時にはドラゴンの姿は空高く、夜空の暗闇に消えていた。
王妃が連れ去られたことに気が付いたのはその日の夜だった。
祭りは深夜まで続く。しかし、王妃があまり遅くまで外にいることは好ましくない。日が傾きかけた頃には王妃を迎えに行った。だが、第二宮殿の庭園内を探すも、さくらの姿はどこにもなかった。
そこで、王妃の顔を見知っている数名の助けを借り、城中隈なく探したが、まったく見当たらなかった。それはトムテ博士もテナーも同じだった。
もしかすると、この機を狙って街にも繰り出したのかもしれない。そう考え、捜索は街中にまで及んだ。そして、とうとう宮殿入り口付近にある小さな小屋の裏にテナーが両手両足を縛られ猿轡をはめられて倒れているのを発見した。その時になってやっと王妃は誘拐されたことが分かったのだ。既に周りはすっかり暗くなっていた。
テナーは、犯人の顔は仮面を付けていたので全く分からないと言った。
複数の仮面を付けた男たちに囲まれかけたところにトムテ博士が駆けつけてきてくれた。だが、次の瞬間、自分は後ろから仮面を被せられ、その後の記憶はない。気が付いたのは助けられた後なので、自分が縛られていたことすら知らなかったという。
事態は直ちに国王の後見人である大魔術師ダロスに伝えられた。ダロスはすぐに国王専属の近衛兵を中心に捜索隊を編成し、王妃奪還の準備に取り掛かった。
☆彡
イルハンはこの事態をダロスに報告するより先に、いち早く報告しなければならない相手がいた。そのため大魔術師への報告は一番信頼している部下に任せ、自分は第一の宮殿の奥に広がる森へと急いだ。
森の奥まで進んでいくと崖に辿り着く。そこには大きな洞穴があり、目の前には澄んだ水が沸いている小さな池があった。
イルハンは洞窟の入り口に来ると片膝をついた。そして洞窟に向かって叫んだ。
「ノア国王陛下!」
洞窟の中で大きな影がゆっくりと動き、二つの緑色の光が見えた。その緑の光はしっかりとイルハンを捉えた。
「申し訳ありません。陛下! さくら様が・・・、王妃様が拉致されました!」
途端に、大きな黒い影が勢いよく飛び出してきた。そしてイルハンの前に仁王立ちになると、緑色の目で彼を睨みつけた。その目は怒りで燃え、口元から小さく炎が漏れていた。
「申し訳ございません!」
イルハンは深々と頭を下げた。相手の怒りを全身で感じ、この場で焼き殺されても文句は言えまいと腹をくくった。
「トムテも一緒に消えました。トムテの護衛の者たちも共に。計画的だったと推測されます」
それを聞くと、ドラゴンは雄叫びを上げ、空高く舞い上がった。
「お待ちください! 陛下!」
イルハンは、ドラゴンの羽ばたきで起こった風をまともに受け、視界を奪われながらも、大声で叫んだ。
「お一人での奪還はお考え直し下さい! 我々が命に代えても王妃様をお救いします!」
しかし、ドラゴンには全く届いていないようだった。
「王妃様を見つけたら、必ず、すぐにお戻りください!!」
それでもイルハンは空に向かってそう叫んだ。
だが、その時にはドラゴンの姿は空高く、夜空の暗闇に消えていた。
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