ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼

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第二章

8.薬箱

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 二人はすぐに薬箱を抱えて戻ってきて、さくらの手当てを始めた。

 食事の支度同様、慣れない様子でなかなか時間がかかる。一刻でも早く薬が欲しいさくらは、二人の手際の悪さに苛立ちを感じながらも、無理やり平静を装い、自分の手当てが終わるのを辛抱強く待った。

 やっと終わると、さくらは心から礼を言った。時間はかかったものの、丁寧に処置をしてくれたことに対して素直にありがたいと思った。それに、その丁寧さから二人の人柄の良さが伝わってきたからだ。そして、片づけを始めている彼女たちに一番肝心なことを伝えた。

「今のお薬と、その残りの包帯をもらえませんか? 明日から自分でやりますので」

 さくらがそう言うと、二人は顔を見合わせ、困惑した表情をさくらに向けた。当然そういう反応をするだろうと予想はついていた。

 だが、ここで引き下がる訳にはいかないのだ!
 ここで負けたら何のために自らを傷つけたのか分からない。ただのアホじゃないか!

「もともと手当て得意なんです。ね、いいでしょう?」

 自分でも強引だと思いつつ薬箱に手を伸ばした。するとアンナ(もしくはカンナ)が慌ててそれを制した。

「さくら様にそのようなことは・・・。お医者様がお嫌でしたら、私共が毎日お手当ていたしますので・・・」

 困った顔をしながら、さり気なく、そっとさくらから薬箱を遠ざけた。その動作がさくらをイラっとさせた。

「でも、私、寝相が悪いのよ。ほら、寝ている間に包帯がとれちゃうかもしれないし」

「その時は、お呼びいただければすぐに参ります」

「でも、真夜中かもしれないし・・・」

「真夜中でも構いません」

 なかなか引き下がらない二人にさくらのイライラは頂点に達した。ただでさえ時間が惜しいのだ。早くドラゴンの手当てがしたい。

「もう! いいから、とにかく置いてってよ!!」

 とうとう声を荒げてしまった。そのさくらの豹変ぶりに二人は震え上がった。先ほどのトムテに対するさくらの暴挙を目の当たりにしているので、二人は真っ青になり、固まってしまった。

(しまった!)

 その様子を見てさくらは慌てた。そしてすぐに怒鳴ったことを詫び、もう一度丁寧に頼み込んだ。

「どうかお願いします!」

 今度は王妃になろうという女性に頭を下げられ、若い二人の侍女はすっかり混乱してしまった。このさくらという女性が、一体恐ろしい人なのか、優しい人なのかまったく分からなくなったのだ。ただ、ここまで懇願されては、もう薬箱を渡す以外に選択の余地がない。

「ありがとう!」

 さくらは薬箱を受け取ると、満面の笑みで礼を言った。そして今日はもう休むので、下がるようにお願いした。侍女たちはさくらの着替えを手伝おうとしたが、さくらはそれを笑顔で断った。
 二人はこれ以上さくらの機嫌を損ねないうちに、いそいそと部屋を退出していった。

 二人が部屋から出て行くのを見届けると、さくらはベッドに飛んでいった。そして、隠していたドラゴンを抱きかかえると、もう一度、浴室で優しく体を拭いてから、傷口に薬を塗りこんでいった。
 薬を塗りこむ度に傷が痛むのか、ドラゴンの顔がゆがんだ。さくらはその様子に胸が痛んだ。

「ごめんね、痛いよね・・・。私のせいで、ごめんね・・・」

 さくらは少しでも痛みが和らぐように、傷口にふぅふぅと優しく息を吹きかけながら薬を塗りこんでいった。手当てが終わると、また丁寧に手ぬぐいで包み、同じベッドで一緒に眠りに就いた。

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