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第二章

6.小さくなった勇者

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「ドラゴン!」

 さくらはそう叫ぶと両手を広げた。ドラゴンはその腕に崩れるように倒れ込んできた。

「え!?」

 さくらは慌てでドラゴンを抱きかかえた。よく見ると体中傷だらけだった。
 さくらはドラゴンが小型犬ほどの大きさになってしまっていることよりも、全身血だらけで、息も絶え絶えな状態の事の方が衝撃だった。

(どうしよう!)

 さくらはドラゴンを抱えると部屋を見渡した。部屋の中の一つの扉に目に入った。

(多分、あそこは浴室だ!)

 さくらはその扉を開けた。思った通り、そこは立派な浴室だった。
 壁には黄金の獅子の顔が彫られ、そこからお湯が常に浴槽に流れ込み、溢れ出ている状態だった。

 さくらは急いでドラゴンを床に下ろすと、浴室に備えてある手ぬぐいを湯舟にぬらした。そして軽く絞り、ドラゴンの体を優しく拭き始めた。まずは傷口を清潔にしないといけないと思ったのだ。
 ドラゴンは湯が沁みるのか、瞳をぎゅっと閉じたまま、喉の奥から微かにうめき声を上げた。

「ごめんね、ごめんね。沁みるよね、痛いよね。少し我慢してね」

 優しくドラゴンの傷を拭いながら、さくらは涙が溢れてきた。
 あの弾には魔術が掛けられていた。体がこんなにも小さくなってしまったのはその魔術のせいだろう。それにしても、こんなに分厚く固い皮膚が裂けるなんて、あの大砲の衝撃をどれだけのものだったのだろう。

 ドラゴンの首元を見ると、金の立派な首輪にまで大きく亀裂が入っている。小さくなった前足を見ると、同じく金の腕輪はボロボロで、大きく亀裂が入っていた。さくらは他の足も見てみた。すると、右後ろ脚の腕輪だけは細くヒビが入っているだけだが、それ以外はひどい状態だった。

 この亀裂がドラゴンの皮膚をさらに傷つけそうで、気になったさくらは、首輪の亀裂に力を入れてみた。すると、意外にもあっさりパキッと音を立てて折れ、外れてしまった。

(足のリングも取っちゃおう!)

 さくらは右後ろ足以外の腕輪を、亀裂に沿ってへし曲げるように折って外してしまった。そして、くっきりと跡が残っている足首を丁寧に拭いた。ドラゴンは少し驚いたように目を開けたが、またすっと目を閉じ、黙って体を拭かれていた。

 体を拭き終わると、清潔な手ぬぐいでドラゴンを包んだ。呼吸もさっきよりずっと落ち着いてきたようだ。
 さくらはドラゴンを抱きかかえると、テーブルに戻り、自分の飲みかけのスープを与えてみることにした。スプーンでゆっくりドラゴンの口に運んでみる。すると、ドラゴンは小さく口を開け、ゆっくりそれを飲みだした。

(よかった!少しでも食べられれば!)

 さくらは丁寧にドラゴンの口にスープを含ませた。口からこぼれても、親指で優しく拭い、ドラゴンが咽ないように細心の注意を払いながら、スープを飲ませた。

 ある程度食べると、もう満足したのか、さくらの腕に頭をのせて目を閉じてしまった。さくらがのぞき込むと、規則正しい寝息が聞こえた。さくらはホッと胸をなでおろすと、ドラゴンを優しく抱きしめた。抱きしめたその腕からは、ドラゴンが呼吸する度に肺が動くのを感じた。顔を近づけると、ドラゴンの鼻から息が漏れるのを感じる。

「ああ、生きてる・・・!」

 さくらはまた目頭が熱くなった。
 しかし、今度は悲しい涙ではない。あんなに大きく頼もしかったドラゴンが、こんなにも小さくなって、傷ついてしまっているが、今は悲しみよりも、喜びの方が大きかった。自分のせいでこんなに酷い目に合わせてしまったことを申し訳なく思いながらも、この腕の中で生きていることが本当に嬉しかった。

 さくらは安堵したせいか、急に空腹を覚えた。その途端、グーっと自分の腹が鳴った。その音にドラゴンの耳が一瞬ピクッと反応して、さくらは焦った。ちらっとドラゴンを見ると、それ以上は動かず、寝息だけが聞こえた。

(よかった、寝てる)

 自分の腹の音で起こすのはまずいと、さくらはドラゴンをそっとベッドに下ろし、自分も食事を取り始めた。さっきはトムテに中断されて、空腹だったのにまともに食べていなかったことを思い出し、食欲が増すのを感じた。

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