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第二章
5.鳥?
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体中の水分が涙として流れ出たと思うほど泣きに泣いた後、さくらはよろよろと立ち上がりベッドに向かった。てっきり部屋にはもう一人きりだと思っていたが、アンナとカンナが手を取り合いながら、部屋の隅でオドオドした様子で立ち尽くしていた。
「酷いところを見せました・・・。驚きましたよね・・・。ごめんなさい・・・」
さくらは二人に頭を下げて、自分の醜態を詫びた。泣き過ぎて掠れた声しかでなかったが、なんとか絞り出した。
アンナとカンナはそろってブンブンと首を横に振り、さくらの元に駆け寄よって、ベッドに入るのを手伝ってくれた。
「今、温かいお茶を淹れ直してまいります」
二人のうちどちらかがそう言うとすぐに部屋を出て行き、残った一人が散らかった床を片付け始めた。
「ごめんなさい・・・」
さくらは、床を片付けているアンナもしくはカンナに再び謝った。アンナ(もしくはカンナ)は驚いたように顔を上げ、またブンブンと首を振った。床が綺麗に片付いたころに、もう一人―――アンナだかカンナだか―――がティーセットを持ってきた。
「ありがとうございます」
さくらは丁寧にお礼を言うと、二人はまた目を丸くして慌てて頭を下げた。恐らく、目上の者から礼を言われることや謝罪されることに慣れていないのだろう。困惑した表情の中にも嬉しさが混じっているように見えた。
さくらはお茶を一口だけ口にすると、一人になりたいと言って二人には部屋を出て行ってもらった。
☆彡
気が付くともう日が傾いていた。いつの間にか眠っていたようだ。薄暗い部屋の中で、さくらはベッドから起きずに、仰向けのまま呆けていた。
(どうなるんだろう、これから・・・)
まだこれからの先の自分の身を案じることさえ億劫に感じ、ベッドの天井をぼーっと眺めながらぼんやりとそう思った。すると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
さくらはベッドから起きずに返事だけ返した。
「お食事をお持ちしました」
そう声がすると、アンナとカンナがワゴンを押しながら部屋に入ってきた。
二人は相変わらず不慣れな手つきで、部屋を明るくし、食事の用意を整えた。不慣れながらも、一生懸命仕事をする様子に、さくらは心が少し穏やかになる感じがした。だが、いざ食事が並ぶと、これでもかと思うほどの量にさくらは目をむいた。
(いやいや、こんなに食べれませんって・・・)
思わず突っ込みたかったが、一仕事終えて少し得意げな顔になっている二人に、とても言える雰囲気ではなく、
「ありがとうございます。いただきます」
そう礼を言って食卓に着いた。
二人はその場に居続けるつもりのようだったが、さくらは丁寧にお断りして、何とか二人に下がってもらった。
一人でゆっくり食事をしていると、コツコツと何かを叩く音が聞こえた。
「???」
さくらは食事をやめ、周りを見渡した。部屋の中はシーンと静まり返り、何も聞こえない。
「気のせいか・・・」
気を取り直し、スプーンを口に運ぼうとした時、
―――コツコツコツ
「!」
再び同じ音が聞こえた。
さくらはギョッとして、スプーンを下すと椅子から立ち上がり、部屋中を見回した。
―――コツコツコツ
「何、何、何!?」
さくらは足元から頭のてっぺんに向かって恐怖が電流のように駆け巡り、その場で固まってしまった。
―――コツコツコツ
また聞こえた! 窓からだ!
さくらは恐る恐る音が聞こえた窓辺に目を向けた。すると、窓越しに鳥のような影が見えた。
「鳥?」
鳩にしては大きい。鶏だろうか? いいや、鶏がこの高さまで来るのは無理だ。よく確かめてはいないが、眺めからして、この部屋がある程度の高層階であることは分かっていた。
では鷹か鷲か? どうやらそれがくちばしで窓を叩いているようだ。
―――コツコツコツ
その鳥は執拗に窓を叩いてくる。よっぽど中に入りたいようだ。とは言え、文鳥やインコ程度の大きさの鳥なら平気だが、猛禽類となると流石に怖い。
さくらは一瞬躊躇したが、とりあえず窓辺に近づいた。
近づいてみると、鳥とはちょっと違うシルエットに気が付いた。鳥より首が長い。それに顔もくちばしなど無いように見える。その生き物は器用に前足で窓を叩いていた。
さくらは自分の心臓の音がどんどん早くなるのが分かった。記憶のあるシルエットだ!
さくらが窓のそば駆け寄るとその生き物は翼を広げてみせた。その翼は鳥のそれとはまったく違う。さくらは急いで窓を開けた。
「酷いところを見せました・・・。驚きましたよね・・・。ごめんなさい・・・」
さくらは二人に頭を下げて、自分の醜態を詫びた。泣き過ぎて掠れた声しかでなかったが、なんとか絞り出した。
アンナとカンナはそろってブンブンと首を横に振り、さくらの元に駆け寄よって、ベッドに入るのを手伝ってくれた。
「今、温かいお茶を淹れ直してまいります」
二人のうちどちらかがそう言うとすぐに部屋を出て行き、残った一人が散らかった床を片付け始めた。
「ごめんなさい・・・」
さくらは、床を片付けているアンナもしくはカンナに再び謝った。アンナ(もしくはカンナ)は驚いたように顔を上げ、またブンブンと首を振った。床が綺麗に片付いたころに、もう一人―――アンナだかカンナだか―――がティーセットを持ってきた。
「ありがとうございます」
さくらは丁寧にお礼を言うと、二人はまた目を丸くして慌てて頭を下げた。恐らく、目上の者から礼を言われることや謝罪されることに慣れていないのだろう。困惑した表情の中にも嬉しさが混じっているように見えた。
さくらはお茶を一口だけ口にすると、一人になりたいと言って二人には部屋を出て行ってもらった。
☆彡
気が付くともう日が傾いていた。いつの間にか眠っていたようだ。薄暗い部屋の中で、さくらはベッドから起きずに、仰向けのまま呆けていた。
(どうなるんだろう、これから・・・)
まだこれからの先の自分の身を案じることさえ億劫に感じ、ベッドの天井をぼーっと眺めながらぼんやりとそう思った。すると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
さくらはベッドから起きずに返事だけ返した。
「お食事をお持ちしました」
そう声がすると、アンナとカンナがワゴンを押しながら部屋に入ってきた。
二人は相変わらず不慣れな手つきで、部屋を明るくし、食事の用意を整えた。不慣れながらも、一生懸命仕事をする様子に、さくらは心が少し穏やかになる感じがした。だが、いざ食事が並ぶと、これでもかと思うほどの量にさくらは目をむいた。
(いやいや、こんなに食べれませんって・・・)
思わず突っ込みたかったが、一仕事終えて少し得意げな顔になっている二人に、とても言える雰囲気ではなく、
「ありがとうございます。いただきます」
そう礼を言って食卓に着いた。
二人はその場に居続けるつもりのようだったが、さくらは丁寧にお断りして、何とか二人に下がってもらった。
一人でゆっくり食事をしていると、コツコツと何かを叩く音が聞こえた。
「???」
さくらは食事をやめ、周りを見渡した。部屋の中はシーンと静まり返り、何も聞こえない。
「気のせいか・・・」
気を取り直し、スプーンを口に運ぼうとした時、
―――コツコツコツ
「!」
再び同じ音が聞こえた。
さくらはギョッとして、スプーンを下すと椅子から立ち上がり、部屋中を見回した。
―――コツコツコツ
「何、何、何!?」
さくらは足元から頭のてっぺんに向かって恐怖が電流のように駆け巡り、その場で固まってしまった。
―――コツコツコツ
また聞こえた! 窓からだ!
さくらは恐る恐る音が聞こえた窓辺に目を向けた。すると、窓越しに鳥のような影が見えた。
「鳥?」
鳩にしては大きい。鶏だろうか? いいや、鶏がこの高さまで来るのは無理だ。よく確かめてはいないが、眺めからして、この部屋がある程度の高層階であることは分かっていた。
では鷹か鷲か? どうやらそれがくちばしで窓を叩いているようだ。
―――コツコツコツ
その鳥は執拗に窓を叩いてくる。よっぽど中に入りたいようだ。とは言え、文鳥やインコ程度の大きさの鳥なら平気だが、猛禽類となると流石に怖い。
さくらは一瞬躊躇したが、とりあえず窓辺に近づいた。
近づいてみると、鳥とはちょっと違うシルエットに気が付いた。鳥より首が長い。それに顔もくちばしなど無いように見える。その生き物は器用に前足で窓を叩いていた。
さくらは自分の心臓の音がどんどん早くなるのが分かった。記憶のあるシルエットだ!
さくらが窓のそば駆け寄るとその生き物は翼を広げてみせた。その翼は鳥のそれとはまったく違う。さくらは急いで窓を開けた。
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