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第二章

3.ゴンゴ王国

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 胸のムカつきは一度吐いても治まることはなかった。
 
 さくらは寝室でずっと横になって過ごした。食事を出されても食欲が沸かず、手を付けなかった。無理やり食べさせても戻すことから、さくらには適度な水分を与え、唯一乗船させている魔術師の老人―――大砲の弾に魔術を掛けた老人―――の魔術で眠らせることにした。
 治まることのない船酔いとドラゴンを失った喪失感から、さくらにはもう反抗するどころか立ち上がる気力さえなく、されるがまま身を任せていた。


☆彡 


 どのくらい眠っていただろうか。目が覚めると、そこはもう船内のカチカチな固いベッドではなく、フカフカな気持ちのよいベッドに横たわっていた。

 さくらはゆっくりと上半身を起こしてみた。眩暈もしないし、気分も悪くない。そして辺りを見回した。あまり広くはないが、贅の限りを尽くしたような華美できらびやかな部屋の中だった。

(きっとゴンゴとやらに着いたのね・・・)

 さくらは自分の身に起こったことは分かっているので驚くことはなかった。ましてや同じような状況は二度目だ。ベッドから起き上がると改めて部屋を眺めた。

(豪華絢爛というのはこのことを言うのでしょうか・・・)

 豪華な彫り物が施され、色彩には金や銀が豊富に使われているテーブルや椅子、衣装ダンスなどが並んでいる。自分が寝ていたベッドなどは、天蓋を支えている大きな四本の柱はすべて、獅子の彫り物が飾り付けられた上に金箔で塗られており、異様な存在感を放っている。

 いくら豪華でもここまでくると悪趣味だ。さくらはそう思いながら部屋の中を物色し始めた。すると、ドアをノックする音がした。びっくりして扉の方を見ると、二人の少女がお辞儀をしながら入ってきた。年の頃は十六、七歳くらいだろうか。上げた顔を見てまたまたびっくりした。同じ顔だ。きっと双子なのだろう。

 さくらはとりあえず会釈をした。自分たちへ頭を下げられたことに動揺したのか、少女達は顔を見合わせ、慌てて再度、深々と頭を下げた。

「ご気分はいかがでしょうか? さくら様」

 二人同時に尋ねると、

「私たちは、アンナとカンナと申します。さくら様のお世話をさせて頂くことになりました。よろしくお願いいたします」

と、これもしっかりとシンクロしながら挨拶をした。

「おかげ様で、幾分楽になりました」

さくらがそう答えると、

「では、お食事をご用意いたします」

 二人は揃って答えると、いそいそと食事の支度を始めた。さくらはその様子をベッドに腰掛けながら、ぼーっとその様子を眺めていた。

 まだまだ侍女としては新米なのだろうか、ルノーやテナーと比べると、とてもたどたどしくて要領が悪いように見える。
 支度が整うのを待っている間、さくらは忘れていた空腹を感じ始めた。グーっと腹の音がして慌てて腹を抱えたが、幸い、侍女二人には聞こえなかったようだ。どんな状況でもお腹は空くものなのだなと、呆れた気持ちになった。

 食事の用意ができるとさくらはテーブルに着いた。いかにも胃に優しそうな雑穀入った温かいスープと果物、そしてお茶が並んでいた。さっそく雑穀スープを口にすると、

「あったかい・・・。美味しい・・・」

口当たりの優しい、柔らかい液体がゆっくりと胃に流れていくのを感じ、何とも言えないホッとした気持ちになった。だが、食が進み、少し気分が落ち着いてくると、船での出来事が思い出された。

(そうだ・・・。ドラゴン・・・)

 ドラゴンは死んでしまったんだ―――。

 大砲の直撃を受けて。真っ逆さまに海に落ちていく様を、成す術もなく、ただただ見つめることしかできなかった自分・・・。そして海に流れるドラゴンの血・・・。

 それらを思い出し、さくらの頬を涙が流れた。侍女二人はギョッとして、慌ててさくらに駆け寄ったが、なんて声を掛けていいか分からず、オロオロとするだけだった。
 さくらは二人が慌てたことに気が付いたが、とても涙を止められず、両手で顔を覆い、必死で声を抑えて泣いた。

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