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第一章
28.油断
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さくらはイルハンを見つけるとにこやかに手を振った。しかし、女性と一緒にいることに気付き、しまったという顔をして慌てて手を下げた。そして、ちょこんと会釈をするとすぐにテナーを伴って人混みに消えていった。
「これで失礼いたします」
イルハンは再びリリーに一礼すると、慌ててさくらを追いかけた。だが、運の悪いことに、今度は自分の父親の友人に出くわし、捕まってしまった。どうでもいい近況報告をしてくるが、目上相手を邪険に扱うわけにもいかず、仕方なく相手をする。その間にもさくらたちがこれ以上遠くに行っていないか心配で、目の前の老紳士の話はほとんど耳に入ってこなかった。
やっと解放されると、もう自分の持ち場に戻らなければならない時間が迫っていた。何とかもう一度さくらを見つけなければと辺りを見渡すと、なんと、彼女たちは近くの露店を見ていた。
近い距離だが、さくらはイルハンにまったく気付いていないようだ。その代わりさくらの側に控えているトムテがイルハンに気が付き、彼のもとにやって来た。
「ご苦労様、イルハン隊長」
イルハンはトムテに一礼した。
「大丈夫ですよ、これ以上先には進まないようにしますから。安心して任せなさい」
トムテはそう言うと、親しげに彼の肩をぽんぽんと軽く叩いた。そしてすぐに踵を返し、さくらのもと戻って行った。さくらの元に戻ると彼女の耳元で何か囁き、イルハンの方を指差した。さくらは言われた通りこちらに振り向いた。イルハンを見つけると笑顔で会釈し、手を振った。イルハンもさくらに一礼を返した。
これ以上先へ行かない約束を取り付けたことと、トムテと彼の護衛がしっかりさくらをマークしていることを確認できたので、イルハンは一安心して持ち場へ戻ることにした。
☆彡
どれだけ見て回っただろうか。さくらは、流石に疲れを感じ、喉も渇いてきた。
(スタートからハイテンション過ぎちゃった)
興奮し過ぎて、ペース配分を完全に見誤っていた。でも露店はまだまだある。
「ねえ、テナー。喉が渇いたんだけど、どこか休憩できる露店はあるの?」
さくらはテナーに尋ねた。テナーは、まあ、困りましたという顔をした。
「庭園内は飲食できる露店の出店は禁止されております。酒類が持ち込まれると治安が悪くなり、トラブルの元ですからね」
(どこかのテーマパークかっ!)
思わず、さくらは心の中で突っ込んだ。
「お休みなさるのであれは、宮殿に戻らないといけませんね」
「なら大丈夫!戻りたくないし!」
慌てて首を振ると、心配そうなテナーを引っ張って先に進んだ。だが、ふと気になって足を止めて前を見た。すると、もうすぐそこに開け放たれた宮殿入り口の門があった。気付かないうちにかなり歩いて来てしまったようだ。改めて周りを見ると、さっきよりも人混みがずっと多くなっていた。
「門の近くまで行ってはいけないって言われていたのに、結構来ちゃったね・・・」
「本当ですね。やはり、もう引き返しましょう」
「うん、そうね! 戻ろう戻ろう! お城寄りの方だって、まだ見ていないお店あるしね!」
さくらは言いつけを破ってしまった焦りから、慌ててUターンして、宮殿に向かい歩き始めた。
その時、一人の男が近づいてきて、さくらの前に仮面を差し出した。鳥とも動物とも言えない何とも奇妙な顔の仮面だった。
さくらは思わず立ち止まると、差し出したその男を見上げてギョッとした。男も仮面を付けていた。そして片手にはたくさんの仮面を通した棒を持っており、それをさくらに見せてきた。
(何だ、売り子か・・・)
マーケットには自分の露店から出で、直接お客に商品を売り込んでくる商人もたくさんいる。さくら達も今までに何度も声を掛けられていたので、もうそのスタイルには慣れていた。
(でも、お面はないわー、マジでビックリするわー)
と心の中で思いつつ、優しい笑顔でいらないと言い、商人の脇をすり抜けた。すると、また別の男がさくらに近寄り、仮面を差し出した。見上げるとやはり仮面を被っている。さくらはごめんなさいと言って横をすり抜けた。しかし、今度は向かいから三人の仮面男がさくら達に近づいてきた。
さすがに怖くなりテナーと手を取り合った。後ろを振り向いてみると、先ほどの二人が近づいてくる。咄嗟にさくらはテナーの手を引いて脇道に入ろうとした。しかし、よく前を見ていなかったため、ドンッと誰かの胸にぶつかってしまった。
「す、すみませんっ!」
相手はよろけながら謝るさくらの腕を優しくつかみ、彼女の態勢を直してくれた。
「トムテさん!」
さくらは叫んだ。ぶつかった相手はトムテだった。
「よかったぁ」
さくらはホッと胸を撫で下ろし、改めてトムテと向き合ってぶつかった詫びを言おうとしたその時、後ろから手が伸び、仮面を被せられた。
一瞬の出来事だった。
「これで失礼いたします」
イルハンは再びリリーに一礼すると、慌ててさくらを追いかけた。だが、運の悪いことに、今度は自分の父親の友人に出くわし、捕まってしまった。どうでもいい近況報告をしてくるが、目上相手を邪険に扱うわけにもいかず、仕方なく相手をする。その間にもさくらたちがこれ以上遠くに行っていないか心配で、目の前の老紳士の話はほとんど耳に入ってこなかった。
やっと解放されると、もう自分の持ち場に戻らなければならない時間が迫っていた。何とかもう一度さくらを見つけなければと辺りを見渡すと、なんと、彼女たちは近くの露店を見ていた。
近い距離だが、さくらはイルハンにまったく気付いていないようだ。その代わりさくらの側に控えているトムテがイルハンに気が付き、彼のもとにやって来た。
「ご苦労様、イルハン隊長」
イルハンはトムテに一礼した。
「大丈夫ですよ、これ以上先には進まないようにしますから。安心して任せなさい」
トムテはそう言うと、親しげに彼の肩をぽんぽんと軽く叩いた。そしてすぐに踵を返し、さくらのもと戻って行った。さくらの元に戻ると彼女の耳元で何か囁き、イルハンの方を指差した。さくらは言われた通りこちらに振り向いた。イルハンを見つけると笑顔で会釈し、手を振った。イルハンもさくらに一礼を返した。
これ以上先へ行かない約束を取り付けたことと、トムテと彼の護衛がしっかりさくらをマークしていることを確認できたので、イルハンは一安心して持ち場へ戻ることにした。
☆彡
どれだけ見て回っただろうか。さくらは、流石に疲れを感じ、喉も渇いてきた。
(スタートからハイテンション過ぎちゃった)
興奮し過ぎて、ペース配分を完全に見誤っていた。でも露店はまだまだある。
「ねえ、テナー。喉が渇いたんだけど、どこか休憩できる露店はあるの?」
さくらはテナーに尋ねた。テナーは、まあ、困りましたという顔をした。
「庭園内は飲食できる露店の出店は禁止されております。酒類が持ち込まれると治安が悪くなり、トラブルの元ですからね」
(どこかのテーマパークかっ!)
思わず、さくらは心の中で突っ込んだ。
「お休みなさるのであれは、宮殿に戻らないといけませんね」
「なら大丈夫!戻りたくないし!」
慌てて首を振ると、心配そうなテナーを引っ張って先に進んだ。だが、ふと気になって足を止めて前を見た。すると、もうすぐそこに開け放たれた宮殿入り口の門があった。気付かないうちにかなり歩いて来てしまったようだ。改めて周りを見ると、さっきよりも人混みがずっと多くなっていた。
「門の近くまで行ってはいけないって言われていたのに、結構来ちゃったね・・・」
「本当ですね。やはり、もう引き返しましょう」
「うん、そうね! 戻ろう戻ろう! お城寄りの方だって、まだ見ていないお店あるしね!」
さくらは言いつけを破ってしまった焦りから、慌ててUターンして、宮殿に向かい歩き始めた。
その時、一人の男が近づいてきて、さくらの前に仮面を差し出した。鳥とも動物とも言えない何とも奇妙な顔の仮面だった。
さくらは思わず立ち止まると、差し出したその男を見上げてギョッとした。男も仮面を付けていた。そして片手にはたくさんの仮面を通した棒を持っており、それをさくらに見せてきた。
(何だ、売り子か・・・)
マーケットには自分の露店から出で、直接お客に商品を売り込んでくる商人もたくさんいる。さくら達も今までに何度も声を掛けられていたので、もうそのスタイルには慣れていた。
(でも、お面はないわー、マジでビックリするわー)
と心の中で思いつつ、優しい笑顔でいらないと言い、商人の脇をすり抜けた。すると、また別の男がさくらに近寄り、仮面を差し出した。見上げるとやはり仮面を被っている。さくらはごめんなさいと言って横をすり抜けた。しかし、今度は向かいから三人の仮面男がさくら達に近づいてきた。
さすがに怖くなりテナーと手を取り合った。後ろを振り向いてみると、先ほどの二人が近づいてくる。咄嗟にさくらはテナーの手を引いて脇道に入ろうとした。しかし、よく前を見ていなかったため、ドンッと誰かの胸にぶつかってしまった。
「す、すみませんっ!」
相手はよろけながら謝るさくらの腕を優しくつかみ、彼女の態勢を直してくれた。
「トムテさん!」
さくらは叫んだ。ぶつかった相手はトムテだった。
「よかったぁ」
さくらはホッと胸を撫で下ろし、改めてトムテと向き合ってぶつかった詫びを言おうとしたその時、後ろから手が伸び、仮面を被せられた。
一瞬の出来事だった。
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