上 下
26 / 98
第一章

25.好転

しおりを挟む
 しかし、思わぬ方向に事態は好転した。
 さくらを不憫に思ったルノーがトムテ博士に相談したのだ。

「私とテナーが王妃様の傍を一時も離れず、お守りしよう」

 こうトムテからの申し出があり、さくらは念願のフェスタを見に行くことが許されたのだ。

 ダロスもガンマも反対であったが、ルノーの必死の訴えとトムテの口添えで「第二の宮殿内でも遠くに行かない」という条件で渋々了承した。

 それでもイルハンに至っては、断固反対を唱えた。

「いくら通常の倍の警備を配しているとは言え危険過ぎます。自分は陛下の側近として世間に顔が知れております。その自分が明らかに一人の女性を護衛するような行動は、その女性の素性が割れてしまう可能性があるため出来かねます。とは言え、自分が護衛できないという事態はありえません」
 
 自分が護衛できないのであれば、一歩も外に出ることは許さないというイルハンに対し、

「だから私が丁度いいのでしょう。私自身に数名護衛が付きますからね。さくら様は私の姪ということで同行していただきましょう。ああ、姪を連れて歩くということにして、私自身の護衛の数も増やしましょう」

 もはや心配はないと言うように、トムテは片手を振った。

「しかし・・・」

「確かに、我が王妃には必要ないことかもしれませんね、我が国のフェスタなど。そのようなことよりも、なによりご無事で末永くこの国に留まっていただければならないお方なのですから・・・。でもそれだけでは、あまりにも不憫ではありませんか。ただでさえご自身が望まれないのに王妃になってくださったお方です。私はあのお方のお気持ちを楽にして差し上げたい。できたらこの国のことも知っていただきたい。好きになっていただきたい。私はそう思いますよ」

 今度は諭すように優しく言われ、イルハンは言い返すことができなかった。

(確かに、この国を嫌いになっては欲しくない・・・)

 そう思い、口をぎゅっと結んだ。

「では、そういうことでよろしいかですかな?」

「承知いたしました。くれぐれもお気をつけて」

 イルハンはそう言うとトムテに一礼をして、去っていった。


☆彡


 フェスタの日は晴天だった。

「うわあああああ・・・・!!」

 さくらは両手を頬に当て、目を輝かせて叫んだ。

「すごい!すごい!すごい!」

 そう叫び名ながら、第二の宮殿の階段の上から、目の前に広がる壮大な庭園を眺めた。

 遥か向こうにある入り口の門から宮殿にまっすぐ伸びる大きな道を中心に、たくさんの露店が立ち並び、中庭が大きなマーッケットに変貌していた。

 普段は立ち入れない宮殿の中庭には、ここぞとばかり、街中の人が押し寄せている。あまりの人の多さに酔いそうだ。ああ、でもこんな人混み何時ぶりだろう!

「もう降りていいですか?」

 興奮冷めやらぬ状態で、トムテに振り返り、マーケットを指差した。

「そうですね、参りましょう」

 トムテはにっこり微笑むと、お先にどうぞと優しくさくらを促した。さくらとテナーは仲良く腕を組み、階段を駆け下りた。二人とも少し綺麗なドレスを着ており、一見ちょっとしたところのお嬢さん二人組だ。
さくらはテナーを引っ張るようにマーケット内に入っていった。

「すごい人混みですね。離れないで下さいね、さくら様」

 テナーは、腕を組んでいるさくらの腕に反対の手をさらに重ねて言った。

「うん」

 返事はするものの、さくらは露店に夢中で、まったくテナーを見ていない。目を輝かしてきょろきょろしているさくらに、テナーは呆れつつも、微笑ましくて頬が緩んでしまう。

「さくら様、このネックレスなんてどうですか?可愛くありませんか?」

さくらを落ち着かせようと、一つのアクセサリーの露店に目を向けさせた。

「きゃー! 超かわいー!」

「チョウ??」

「こっちのイヤリングもー! ヤバーい! めっちゃかわいー!」

「・・・・ヤバイ?・・・」

 テナーはかなり興奮しているさくらの言動に戸惑いつつも、一緒になってアクセサリーを互いの首元や耳元にあてがい合いながら、楽しく露店を見て回った。もちろん、そのすぐそばにトムテが、そしてトムテの護衛が付かず離れずいることを確認することを怠らなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

元天才貴族、今やリモートで最強冒険者!

しらかめこう
ファンタジー
魔法技術が発展した異世界。 そんな世界にあるシャルトルーズ王国という国に冒険者ギルドがあった。 強者ぞろいの冒険者が数多く所属するそのギルドで現在唯一、最高ランクであるSSランクに到達している冒険者がいた。 ───彼の名は「オルタナ」 漆黒のコートに仮面をつけた謎多き冒険者である。彼の素顔を見た者は誰もおらず、どういった人物なのかも知る者は少ない。 だがしかし彼は誰もが認める圧倒的な力を有しており、冒険者になって僅か4年で勇者や英雄レベルのSSランクに到達していた。 そんな彼だが、実は・・・ 『前世の知識を持っている元貴族だった?!」 とある事情で貴族の地位を失い、母親とともに命を狙われることとなった彼。そんな彼は生活費と魔法の研究開発資金を稼ぐため冒険者をしようとするが、自分の正体が周囲に知られてはいけないので自身で開発した特殊な遠隔操作が出来るゴーレムを使って自宅からリモートで冒険者をすることに! そんな最強リモート冒険者が行く、異世界でのリモート冒険物語!! 毎日20時30分更新予定です!!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

最強魔導師エンペラー

ブレイブ
ファンタジー
魔法が当たり前の世界 魔法学園ではF~ZZにランク分けされており かつて実在したZZクラス1位の最強魔導師エンペラー 彼は突然行方不明になった。そして現在 三代目エンペラーはエンペラーであるが 三代目だけは知らぬ秘密があった

引きこもりが乙女ゲームに転生したら

おもち
ファンタジー
小中学校で信頼していた人々に裏切られ すっかり引きこもりになってしまった 女子高生マナ ある日目が覚めると大好きだった乙女ゲームの世界に転生していて⁉︎ 心機一転「こんどこそ明るい人生を!」と意気込むものの‥ 転生したキャラが思いもよらぬ人物で-- 「前世であったことに比べればなんとかなる!」前世で培った強すぎるメンタルで 男装して乙女ゲームの物語無視して突き進む これは人を信じることを諦めた少女 の突飛な行動でまわりを巻き込み愛されていく物語

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

処理中です...