ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼

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第一章

20.ドラゴン

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「王妃様の世界でもドラゴンはいたのでしょうか?」

さくらをベンチに座らせると、イルハンは少し斜め前に立った。

「いいえ。いません。でも、実際には存在しない架空の生き物として、比較的どの国にも知られています」

さくらはイルハンを見上げて答えた。

「そうですか。我が世界では、ご覧になったように実在致します。しかし、実在するドラゴンは非常に僅かであり、架空の生き物と信じている国もあるほどです。そしてあの容姿ゆえ、人々には悪魔の使いと信じられ、恐れられております」

「あ、それは私の世界でもそう考えている国があります」

 さくらは思わず口を挟んだ。イルハンは頷き、続けた。

「実際に彼らが悪魔の使いかどうか定かではありませんが、邪悪とは言わないまでも、正義感を持ち合わせていない生き物です。そして中には魔術を使えるドラゴンも存在します。その点ではあながち嘘ではないと言えましょう」

 魔術と言われ、さくらはドラゴンが口から火を吐いた光景を思い出した。

「あのドラゴンも口から火を吐きました!」

「その程度のことはどのドラゴンもできます。魔術には入りません」

 イルハンは軽く笑いながら首を振った。

「彼らは人間の言葉を理解します。ほとんどのドラゴンは話すことはできませんが、理解はできる。しかし稀に人の言葉を操るものもいます。そして、そんなドラゴンこそが魔術を持っていると思われます」

 さくらはじっとイルハンの話を聞いた。そう言えば、あのドラゴンは言葉を発しなかった。ということは、きっと魔術は使えないドラゴンなのだろう。

「ドラゴンが好んで人を襲うことはありません。しかし、ドラゴンに殺された人間はたくさんおります。それは我々人間の方がドラゴン狩りと称してドラゴンを襲った結果ですが・・・。それでも人はドラゴンを見つけると、悪の使いとドラゴンを始末したがるのです。今回も、もし人に知れることとなれば、宮殿中が大騒ぎになりかねません。外の森でならともかく、陛下ご不在の今、宮殿内での騒動は絶対にあってはなりません」

訴えるように話すイルハンに、さくらは小さく頷いた。

「そうですね。では、なぜ宮殿内にドラゴンがいるんですか? もともとあの場所にいたわけではないんですか?」

「どうやら最近迷い込んで住み着いてしまったようです」

「ふーん・・・」

 さくらは今日のドラゴンの様子を思い出した。確かにあのドラゴンは自分を襲う様子はなかった。襲われると思い込み、自分で勝手にパニックになっただけだ。しかも、揚句の果てに助けられた。どう考えても『悪の使い』ではない。

「ご納得して頂けましたでしょうか? 他言無用の理由として」

 ドラゴンに思いを巡らせていたさくらは、イルハンの問いにハッとした。

「陛下のご不在の間に、あのドラゴンの存在を公にするわけにはいかないのでございます」

 イルハンはじっとさくらを見つめた。それはもはや懇願しているかのようだ。

「陛下がお戻りになっても、あのドラゴンはあのままでしょうか?」

「分かりません。すべて陛下次第でございます」

(すべて陛下次第か・・・)

 さくらは立ち上がると、イルハンに聞きたい質問が咽元まで出かかった。一番知りたい質問―――国王陛下とやらの帰還―――。しかし呑み込んでしまった。結局明確な回答が怖かったのだ。いつ戻るか知らない方がきっと気が楽だろう。

「理由は分かりました。絶対に人に話しません。ルノーやテナーにも」

 イルハンは深々と頭を下げた。そして二人並んで宮殿に戻っていった。

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