ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼

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第一章

19.再び説教

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 宮殿に戻る途中、イルハンに出くわした。おそらく帰りの遅いさくらを心配し、宮殿内を探していたのだろう。
 さくらにとって彼と出くわすのはいつもの事だから、驚かなかったが、イルハンはさくらの格好にかなり驚いたようだ。

「どうされたのですか!? 王妃様!」

 駆け寄ると、跪いて挨拶する事も忘れて叫んだ。

 さくらの方は、そのイルハンの態度に驚いた。そして改めて自分の格好を見た。

 ドレスは土で薄汚れ、枯れ草が所々くっ付いている。着る時に注意して叩いたのだが、落ちきっていなかったようだ。頭にも手を当てた。池に落ちた時、付けていた髪飾りもなくなり、結い上げていた髪も酷く乱れたので、解いてそのままにしていた。
 自分では見る事はできないが、中途半端に乾いた髪を梳かすこともしなかったので、想像以上に乱れているのだろう。

「じつは・・・」

 さくらは、仕方なく今までのことを素直にイルハンに話した。森の奥に行ったこと、ドラゴンに会ったこと、驚いて池に落ちたこと、そして助けられたこと・・・。

 ドラゴンの話を聞いて、明らかにイルハンの顔色が変わった。強張った表情で自分を見下ろしているイルハンを見て、さくらはまた失敗をやらかしたのだと悟った。

(もしかして、言わない方がよかった・・・?)

「すみません・・・」

 さくらはすっかりしょげてしまい、イルハンに頭を下げた。それを見てイルハンは慌てて、

「ご無事で何よりでございます。もしそのドラゴンが助けてくれなかったらどうなっていた事か・・・」

 そう言うと、思い出したように片膝を付き、頭を下げてさくらに挨拶した。しかし、すぐに立ち上がると、

「この森の奥は手付かずで、たいへん危険でございます。今後は決して行ってはなりません」

 そう忠告した。そして、

「そのドラゴンの事でございますが・・・」

(きた!)

 付け加えたイルハンの言葉に、さくらは集中した。
一番気になることだ。あのドラゴンは一体何者なのか?

「そのドラゴンでございますが、他言無用にお願い申し上げます」

「?」

「決して他人にお話してはなりません。よろしいですか?」

 小声だが、口調は厳しい。有無を言わせない雰囲気に怯んださくらは、とっさに

「分かりました」

と答えてしまった。

「では、宮殿に戻りましょう。侍女たちが心配して、宮殿内を探しております」

 イルハンは軽く頭を下げてから、クルッと向きを変えると、さくらを誘導するように前を歩き始めた。イルハンの後ろをとぼとぼと歩いているうちに、さくらの中で、また沸々と反抗したい気持ちが湧き上がってきた。
 
 心配させてしまったことは悪いと素直に認める。しかし、彼の丁寧だが、淡白で威圧的、かつ厳しい口調が気に入らない。話を一方的に押し付けた上に、勝手に切り上げ、こちらの話を一切受け付けないという態度にどうしても不満が残る。

 あのドラゴンは一体何なのか・・・。
明らかにドラゴンの話を聞いて動揺した様子を見せておいて、何の説明もしないのはズルい。きっと何らかの秘密を知っているのだ。他言無用と念を押したのがいい証拠。一体なぜ人に話してはいけないのか。せめてその理由ぐらい説明があってしかるべきではないか、いいや、無いなんて失礼だ。
 
 歩いているうちに、そんなモヤモヤした思いが飽和状態になってしまった。森を抜け、宮殿の庭園に出た時、イルハンを追い抜き、彼の前に立ちふさがった。

「あのドラゴンは一体何なのですか? どうして他の人に言ってはいけないのです? 宮殿で飼っている動物ではないのですか?」

 さくらの急な反撃に、またもや面食らったイルハンは、

「王妃様!」

 慌てて口元に人差し指を当てて、さくらを制した。しかし、さくらは黙ってはいない。

「他言無用の理由を教えてください」

「今詳しく説明する訳には参りません」

 ピシャリと厳しく言い放った。

「なぜですか?」

 そんなイルハンの冷たい態度にも負けずに食いついた。しかし、イルハンは表情を硬くしたまま、黙ってさくらを見つめているだけだ。

「・・・分かりました」

 さくらは、ふーっと息を吐くと、軽くイルハンを睨み付けた。

「その代わり、他言無用はお約束できませんから」

「王妃様!」

 イルハンは苛立たしく声を荒げた。さくらは一瞬怯んだが、ここで負けてはならないと奮起して、

「理由も教えてもらえずに勝手に約束を押し付けるなんて、フェアじゃないです!ずうずうしいと思いませんか?」

と叫んだ。イルハンの顔が紅潮してくるのが分かったが、さくらは構わず続けた。

「納得できるような理由があるなら、説明すべきです。納得すれば、自ずと他人には話さないようにしようと思うでしょう? 違いますか?」

 イルハンは深く溜息をついた。そうして自分の怒りを何とか仕舞い込み、さくらを見つめた。
さくらの言う事ももっともだった。確かに自分が一方的過ぎた。それに彼女が思っていた以上に気の強い娘だということは以前に気が付いたではないか。簡単に引っ込む娘ではない。

「かしこまりました。ではお話致しましょう。どうぞこちらにお掛け下さい」

 イルハンは庭園のベンチにさくらを座らせた。

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