ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼

文字の大きさ
上 下
12 / 98
第一章

11.「居るだけでいい王妃」の日常(1)

しおりを挟む
 『この国に居るだけでいい王妃様』は常に退屈していた。不自由な事は何一つないが、やらねばならないことも何一つない。何もすることがないということは無駄に時間があるということだ。

 この時間はまさに拷問だった。必然的に考えたり、思い悩んだりすることになり、精神的に追い詰められることになるからだ。「なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか」とか、「居るだけでいいという存在はどういうことか」そんな疑問が常に頭の中を駆け巡る。

 居るだけでいい存在が、なぜ私なのか?――居るだけでいいなら人でなくてもいい。人形でもいいではないか――では、私は人形か?――私は一体何者なのだ?

 そうした考えが堂々巡りをし、結局最後に辿り着くのは

なぜ自分がこんな目に遭わなければいけないのか―――だった。

 腹の底から何かがこみ上げてくる感覚に襲われ、息が苦しくなる。慌てて深呼吸をし、気持ちを落ち着かせるが、次は瞼が熱くなる。
そして思いは、自分の過去へ――元の世界にあった自分の儚い歴史を振り返る。とても短い過去だけど、楽しい出来事がたくさんあったはずだ。それなのに思い出すことは後悔ばかり・・・。父や母に反抗したことや、兄弟喧嘩、受験の失敗、揚句の果ては、遠い昔まで遡り、小学時代の友達同士の喧嘩など、すべて些細なことばかりだが、今更ながら申し訳なく、謝りたいことばかり思い出すのだ。

(あの夜だって・・・)

 そうだ、あの夜。ここに連れて来られる前日―――。
あの時、亘に対しての自分の態度はなんて酷かったのだろう。後悔してもしきれない。二度と会えなくなると分かっていたら、あんな傲慢な態度は取らなかったのに・・・。

 時間が充分にあるために、こうした思いに浸り、一人涙に暮れているさくらを、ルノーもテナーも心配でならなかった。何か別な事に意識を動かせないものか。ある時ルノーはこう切り出した。

「王妃様。王妃様は、読書はお好きでございますか?」

「読書?」

「はい。この第一の宮殿の西の塔に大きな図書室がございます。よろしかったらご覧になりませんか?」

 読書――。そうか、読書!
さくらは目の前の霧が幾分晴れた気がした。実はそんなに読書をする方ではない。しかし、今、この何もする事がない時間が自分を苦しめているのは良く分かっている。何か別に集中できるものがあれば、やる事さえがあれば、この負のループから抜け出せるはすだ。
それに文字! この世界の文字と言葉は、自分の世界の言葉を失った引き換えに、身に付けられた唯一のものだ。せっかく苦労もせずに得られた能力だ、使わない手はない。
 すぐに案内して欲しいとルノーに頼み、その図書室に連れて行ってもらった。西の塔はさくらの部屋からそれほど遠くなく、方向音痴のさくらでもすんなり覚える事ができそうだった。

「わぁ・・・」

 さくらは一歩部屋に入るなり、周りを見渡して、感嘆の溜息をもらした。

 その部屋はとても広く明るく、高い天井まで届くほど、大量の蔵書が壁一面に埋まっていた。美しく装丁してある書籍の背表紙がまるで飾りのようだ。あまりの数に圧倒されながらも、特に読書派ではないのに、なぜか心が弾んだ。大量の書籍に囲まれたせいで、何もしていないのに自分が賢くなったような妙な錯覚をおこす。調子に乗って知識意欲も湧いてくるようだ。

「ここにあるものはすべて、国王陛下そして王妃様のご本でございます」

 ルノーは、口をあんぐり開けて大量の本の壁に見とれているさくらに声を掛けた。

「必要とあれば、いつでも書籍係が参ります」

 彼女は入り口近くの呼び鈴の紐を指した。

「お探しのご本がございましたら、いつでもお申し付けくださいませ」

「いつでも好きな時にここに来てもいいのですか?」

 目を輝かせて問いかけてくるさくらを見て、ルノー思わず頬が緩んだ。毎日涙に暮れているさくらを見ているのが辛かったので、微笑んでいるさくらを見ると、なんとも言えない安堵した気持ちが胸に広がったのだ。

「もちろんでございます」

 ルノーは恭しく頭を下げた。そして、うれしそうに部屋中を歩き回り、いそいそといろいろな本を物色し始めたさくらを見て、自分の策が功を奏したことに満足し、一人その部屋を退いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...