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第一章
10.「異世界の王妃」の重要性
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結婚式らしい儀式が終わって一週間以上経っても、極秘任務中という国王は国に戻る様子はなかった。夫になった国王陛下という人がどういう人か分からないまま何日も過ぎていく。さくらは何か拍子抜けした気持ちがしたが、どのような人か会うのも怖い。できることなら、このまま帰ってこなければいいと思いながら過ごしていた。
(それにしても、あれって本当に結婚式だったの? 本人抜きの結婚式なんてありえないくない? 意味分からない)
さくらは、左手の薬指にはめられた指輪を見るたびに疑問に思った。別に国王のご帰還を待ってからでもいいのに。何かとても焦っている感じがする。
ある時、その疑問をルノーに尋ねてみた。
「実は、異世界から迎えた王妃による繁栄はわが国だけではないのです。他の国にとっても異世界から王妃を迎えることは国の繁栄になると信じられております。」
ルノーはお茶を用意しながら説明した。
「しかしながら、王妃を呼び寄せる魔術を持っているのは我が国だけでございます。他の国は、このローランド王国から王妃を奪う事で天の富を得ようとします。異世界から呼び寄せた女性が王妃になる前に盗み出し、自国の王妃として迎えたいという国がたくさんあるのです」
つまり、異世界から呼びよせた女性の存在が他の国に漏れる前に、正式に国王妃にすることが何よりも大切なのだ。その王妃としての証が左手にはめられた指輪である。この指輪には魔術がかかっており、もう誰も外すことはできないという。
「王妃様ご自身でもお外しになることはできないはずでございます。」
ルノーはさくらにお茶を出しながら、そう言った。
さくらは、しげしげと自分の薬指にはまっている指輪を眺めた。ほぼ第一間接を覆うほどの太さがある。黄金の土台に唐草模様のような美しい模様が透かし彫りされ、中央には大きなオパールが七色に輝き、そのオパールを挟むように上はルビー、下はサファイアの宝石が埋まっていた。
さくらは指輪に触れてみた。太さも丁度いい。ぴったりとし過ぎず、それでいて緩過ぎない。軽く指の周りを回るほどのゆとりはある。前から指輪をクルクルと動かしたりしていたが、外そうとしたことがなかったことがなかった。
(本当に外れないのかな・・・?)
さくらはごく自然に外そうと試みた。しかし―――。
「本当に外れない・・・」
普通にいじっている間は、指の周りも難なく回るのに、いざ外そうとなると、皮膚にピタッと張り付いてしまったかのようにビクともしない。さくらは焦った。
「それこそが王妃様である証でございますよ。王妃様の資格のない者がその指輪をする事はかないませんし、もし、はめたとしても外せるはずございます。そして指輪をしている限りローランド国王妃であり、その地位は誰にも奪えることはできないのです」
ルノーは、意地になって外そうと奮闘しているさくらに、微笑みながら説明した。ムキになっているさくらがとても愛らしく見えたのだ。
「しかし、王妃様となった後でも、諦めない国もございます。ですからさくら様ご自身の安全を守る為に、王妃様の存在は公にされません」
(ああ、だからか・・・)
さくらは納得した。今まで王妃になったからといっても、これといって何もする事もなく時が過ぎていった。一国の王妃であるならば、何かしら公務らしきものがあって然るべきではと不安にさえ思っていたのに、何の用事も与えられない。もしや、自分のような、まったくのよそ者などに仕事などさせられないと考えているのだろうかと訝しんでいたのだ。しかし、どうやらそうではないらしい。自分は極秘の存在なのだ。だから何もさせられないのだ。
「では、国民は国王が結婚したことを知らないのですか?」
「もちろんでございます」
ルノーは驚いたように答えた。
「私の世界では・・・」
さくらは寂しそうにルノーを見た。
「国王の結婚は、国民みんなの祝福を受ける国がほとんどですよ。どの国も国王の結婚式は盛大で、国中お祭り騒ぎです。それなのに、この国は祝福どころか、王妃の存在さえ知らされないのですね・・・」
「残念ながら、ご成婚時に国民に知らされることはございません。しかしながら、お世継ぎがご誕生された時には、お披露目がございますので、その時に母君でいらっしゃる王妃様の存在が国民に明らかにされます。ですが、決して表にお出ましになることはかないません」
ルノーは、王妃の存在を無にしているのでなく、そこまでしてひた隠ししなければ、他の国から誘拐される恐れがあり、厳重に王妃を守っているのだと切々と語った。それほどまでに『異世界の王妃』は、どの国も喉から手が出るほど欲しいのだ。
「王妃様は存在していらっしゃるだけで、わが国は平和で幸福なのでございますよ」
(「存在しているだけでいい」って・・・)
さくらはじっと指輪を見つめた。
この指輪は誰にも外すことが出来ない。自分でさえも・・・。つまり、自ら王妃を辞めることも出来ないということだ。それなのに自分には何も役割を与えられず、ただここに居なければならない。居ることに意味がある。居ることだけに。
(存在しているだけ・・・)
窓から爽やかな風が入り、さくらの頬をなでた。さくらは顔を上げ、外を眺めた。美しい青空が広がっている。自分の世界の空と何ら変わらない美しい空だ。
さくらはそれをただただ眺めていた。
(それにしても、あれって本当に結婚式だったの? 本人抜きの結婚式なんてありえないくない? 意味分からない)
さくらは、左手の薬指にはめられた指輪を見るたびに疑問に思った。別に国王のご帰還を待ってからでもいいのに。何かとても焦っている感じがする。
ある時、その疑問をルノーに尋ねてみた。
「実は、異世界から迎えた王妃による繁栄はわが国だけではないのです。他の国にとっても異世界から王妃を迎えることは国の繁栄になると信じられております。」
ルノーはお茶を用意しながら説明した。
「しかしながら、王妃を呼び寄せる魔術を持っているのは我が国だけでございます。他の国は、このローランド王国から王妃を奪う事で天の富を得ようとします。異世界から呼び寄せた女性が王妃になる前に盗み出し、自国の王妃として迎えたいという国がたくさんあるのです」
つまり、異世界から呼びよせた女性の存在が他の国に漏れる前に、正式に国王妃にすることが何よりも大切なのだ。その王妃としての証が左手にはめられた指輪である。この指輪には魔術がかかっており、もう誰も外すことはできないという。
「王妃様ご自身でもお外しになることはできないはずでございます。」
ルノーはさくらにお茶を出しながら、そう言った。
さくらは、しげしげと自分の薬指にはまっている指輪を眺めた。ほぼ第一間接を覆うほどの太さがある。黄金の土台に唐草模様のような美しい模様が透かし彫りされ、中央には大きなオパールが七色に輝き、そのオパールを挟むように上はルビー、下はサファイアの宝石が埋まっていた。
さくらは指輪に触れてみた。太さも丁度いい。ぴったりとし過ぎず、それでいて緩過ぎない。軽く指の周りを回るほどのゆとりはある。前から指輪をクルクルと動かしたりしていたが、外そうとしたことがなかったことがなかった。
(本当に外れないのかな・・・?)
さくらはごく自然に外そうと試みた。しかし―――。
「本当に外れない・・・」
普通にいじっている間は、指の周りも難なく回るのに、いざ外そうとなると、皮膚にピタッと張り付いてしまったかのようにビクともしない。さくらは焦った。
「それこそが王妃様である証でございますよ。王妃様の資格のない者がその指輪をする事はかないませんし、もし、はめたとしても外せるはずございます。そして指輪をしている限りローランド国王妃であり、その地位は誰にも奪えることはできないのです」
ルノーは、意地になって外そうと奮闘しているさくらに、微笑みながら説明した。ムキになっているさくらがとても愛らしく見えたのだ。
「しかし、王妃様となった後でも、諦めない国もございます。ですからさくら様ご自身の安全を守る為に、王妃様の存在は公にされません」
(ああ、だからか・・・)
さくらは納得した。今まで王妃になったからといっても、これといって何もする事もなく時が過ぎていった。一国の王妃であるならば、何かしら公務らしきものがあって然るべきではと不安にさえ思っていたのに、何の用事も与えられない。もしや、自分のような、まったくのよそ者などに仕事などさせられないと考えているのだろうかと訝しんでいたのだ。しかし、どうやらそうではないらしい。自分は極秘の存在なのだ。だから何もさせられないのだ。
「では、国民は国王が結婚したことを知らないのですか?」
「もちろんでございます」
ルノーは驚いたように答えた。
「私の世界では・・・」
さくらは寂しそうにルノーを見た。
「国王の結婚は、国民みんなの祝福を受ける国がほとんどですよ。どの国も国王の結婚式は盛大で、国中お祭り騒ぎです。それなのに、この国は祝福どころか、王妃の存在さえ知らされないのですね・・・」
「残念ながら、ご成婚時に国民に知らされることはございません。しかしながら、お世継ぎがご誕生された時には、お披露目がございますので、その時に母君でいらっしゃる王妃様の存在が国民に明らかにされます。ですが、決して表にお出ましになることはかないません」
ルノーは、王妃の存在を無にしているのでなく、そこまでしてひた隠ししなければ、他の国から誘拐される恐れがあり、厳重に王妃を守っているのだと切々と語った。それほどまでに『異世界の王妃』は、どの国も喉から手が出るほど欲しいのだ。
「王妃様は存在していらっしゃるだけで、わが国は平和で幸福なのでございますよ」
(「存在しているだけでいい」って・・・)
さくらはじっと指輪を見つめた。
この指輪は誰にも外すことが出来ない。自分でさえも・・・。つまり、自ら王妃を辞めることも出来ないということだ。それなのに自分には何も役割を与えられず、ただここに居なければならない。居ることに意味がある。居ることだけに。
(存在しているだけ・・・)
窓から爽やかな風が入り、さくらの頬をなでた。さくらは顔を上げ、外を眺めた。美しい青空が広がっている。自分の世界の空と何ら変わらない美しい空だ。
さくらはそれをただただ眺めていた。
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