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第一章
5.運命として
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さくらは、すっかり混乱してしまった。
この大男が話すことはあまりに現実離れしていて、まったく信じられない。とはいえ、今現在、自分自身に起こっているこの不可解な現象、これを単純に夢と片付けてしまうにはあまりにもリアルすぎる。
さくらは頭の中を整理しようとするあまり、今までの恐怖など吹き飛んでしまった。
冷静になれ―――。
さくらは自分に言い聞かせた。このダロスという人の話だと、ここはどうやら異世界であるらしい。
(つまり、パラレルワールド・・・ってこと?)
異世界で国名はローランド・・・。そして、この国は異世界から王妃を迎えると国が繁栄すると信じられており、歴代の王が、魔術で別世界から女性を呼び寄せ、王妃としているという。さくらは頭を抱えた。
「この王妃をお迎えする魔術は、我が王国のみ操れる魔術です。しかしながら、毎回成功するわけではありません。この魔術は非常に高度なもの。鍛錬を重ねた魔術師でないと出来ない技です」
「それに関しては、ダロス様は百年に一度の逸材と言われている大魔術師でございます!」
ダロスの説明に、トムテが口を挟んだ。それを無視するようにダロスは続けた。
「才能のある魔術師がいるだけでもいけません。その時代に王妃となる資格を持つ女性が存在しなければなりません。精巧な魔術と王妃の存在との二つが相まって、初めて成立するのです。それゆえに、先代、先々代の二代に渡り、異世界から王妃をお迎えすることが出来ませんでした」
「そなたは待望の王妃じゃ」
横からしわがれた声が聞こえた。老婆の魔術師が一歩前に進み出た。フードの中からギラギラする目が覗いている。さくらはこの声に聞き覚えがあった。
「先々代の国王の時代には、ダロスほどの魔術を使える術師は居らなかった。そして先代国王の時代には、ダロスが居れども王妃となる女性が見つからなかったのだ。二代に渡り、異世界からの王妃を娶ることが出来なかったのは、我が国にとって大きな痛手。この長きの間に、この国の繁栄は弱まり、衰退していく一向だったのじゃ」
(でも、それは政治のせいで、王妃は関係ないんじゃないの・・・?)
恐怖も薄れ、少し落ち着いて話を聞ける状態になってきたさくらは、老婆の説明に対し、ふとそんなことを思った。だが、とても口に出しては言えない。グッと言葉を飲み込んだ。
「経済の悪化は国の政だけのせいではない」
ガンマはさくらの考えを見透かしたかのように、ギロリと睨み付けるように言った。さくらは再び背筋が凍りついた。
「天の災いも重なるのじゃ。こればかりは政では回避できぬ」
ダロスはガンマの言葉に頷き、その後を代わって続けた。
「数年ごとに大きな天災に見舞われ、農作物も漁業もまったく安定しないのです。わが国は豊富な鉱物資源にも恵まれておりますが、その利益も大災害の後は、被害の穴埋めにほとんど消えてしまっているのが現状。しかしながら、歴史を紐解いてみると、異世界からの王妃が国を守っている間は、天災もなく、無駄な国費は費やされない。並んで経済も上向き、国は非常に潤っているのに対し、異世界の王妃を迎えられなかった時代は、必ずと言ってよいほど、天災やつまらぬ紛争が起こっておるのです」
ダロスは青ざめているさくらを力強く見つめた。
「しかし、我々は王妃をお迎えすることに成功した。これからは昔のように繁栄を極めた時代がやってくるでしょう」
そして、大きく両手を広げた。
「さくら様。どうぞ、運命をお引き受け下さい!」
この大男が話すことはあまりに現実離れしていて、まったく信じられない。とはいえ、今現在、自分自身に起こっているこの不可解な現象、これを単純に夢と片付けてしまうにはあまりにもリアルすぎる。
さくらは頭の中を整理しようとするあまり、今までの恐怖など吹き飛んでしまった。
冷静になれ―――。
さくらは自分に言い聞かせた。このダロスという人の話だと、ここはどうやら異世界であるらしい。
(つまり、パラレルワールド・・・ってこと?)
異世界で国名はローランド・・・。そして、この国は異世界から王妃を迎えると国が繁栄すると信じられており、歴代の王が、魔術で別世界から女性を呼び寄せ、王妃としているという。さくらは頭を抱えた。
「この王妃をお迎えする魔術は、我が王国のみ操れる魔術です。しかしながら、毎回成功するわけではありません。この魔術は非常に高度なもの。鍛錬を重ねた魔術師でないと出来ない技です」
「それに関しては、ダロス様は百年に一度の逸材と言われている大魔術師でございます!」
ダロスの説明に、トムテが口を挟んだ。それを無視するようにダロスは続けた。
「才能のある魔術師がいるだけでもいけません。その時代に王妃となる資格を持つ女性が存在しなければなりません。精巧な魔術と王妃の存在との二つが相まって、初めて成立するのです。それゆえに、先代、先々代の二代に渡り、異世界から王妃をお迎えすることが出来ませんでした」
「そなたは待望の王妃じゃ」
横からしわがれた声が聞こえた。老婆の魔術師が一歩前に進み出た。フードの中からギラギラする目が覗いている。さくらはこの声に聞き覚えがあった。
「先々代の国王の時代には、ダロスほどの魔術を使える術師は居らなかった。そして先代国王の時代には、ダロスが居れども王妃となる女性が見つからなかったのだ。二代に渡り、異世界からの王妃を娶ることが出来なかったのは、我が国にとって大きな痛手。この長きの間に、この国の繁栄は弱まり、衰退していく一向だったのじゃ」
(でも、それは政治のせいで、王妃は関係ないんじゃないの・・・?)
恐怖も薄れ、少し落ち着いて話を聞ける状態になってきたさくらは、老婆の説明に対し、ふとそんなことを思った。だが、とても口に出しては言えない。グッと言葉を飲み込んだ。
「経済の悪化は国の政だけのせいではない」
ガンマはさくらの考えを見透かしたかのように、ギロリと睨み付けるように言った。さくらは再び背筋が凍りついた。
「天の災いも重なるのじゃ。こればかりは政では回避できぬ」
ダロスはガンマの言葉に頷き、その後を代わって続けた。
「数年ごとに大きな天災に見舞われ、農作物も漁業もまったく安定しないのです。わが国は豊富な鉱物資源にも恵まれておりますが、その利益も大災害の後は、被害の穴埋めにほとんど消えてしまっているのが現状。しかしながら、歴史を紐解いてみると、異世界からの王妃が国を守っている間は、天災もなく、無駄な国費は費やされない。並んで経済も上向き、国は非常に潤っているのに対し、異世界の王妃を迎えられなかった時代は、必ずと言ってよいほど、天災やつまらぬ紛争が起こっておるのです」
ダロスは青ざめているさくらを力強く見つめた。
「しかし、我々は王妃をお迎えすることに成功した。これからは昔のように繁栄を極めた時代がやってくるでしょう」
そして、大きく両手を広げた。
「さくら様。どうぞ、運命をお引き受け下さい!」
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