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第一章
4.選ばれた王妃
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部屋から出てからかなり歩いた。どこをどう歩いたのか覚えていられないほどだ。一体この屋敷はどれだけ広いのだろう? 前を歩くトムテの後を、さくらはキョロキョロしながらついて行った。
廊下を歩いている限りだと、この建物は石造りの館ということしか分からない。装飾などはあまりなく、とても地味な廊下だ。それでも窓の数が多く、そこからたくさんの日の光が注がれ、何とも気持ちがいい。
しかし、暫く歩いて行くと、窓もなく昼でも暗い廊下にやってきた。壁にあるランプが廊下を照らしている。突き当たりにとても大きな立派な扉が見えた。今まで通ってきた部屋の扉とは明らかに違う、とても存在感のある木の扉だった。
トムテは重そうにその扉を開いた。ギィと軋む音が響く。さくらはゾクッと寒気がした。トムテがさくらを中に誘った。
入り口に立つと正面に大きな祭壇があった。その中央に美しく装飾された大きな水晶が異様な存在感を放っている。そしてその祭壇の横に大きな人影が見えた。黒尽くめのマントを頭からすっぽり被っている。
さくらは足がすくみ、一歩が踏み出せないでいると、トムテがそっとさくらに手を差し伸べた。さくらはその手を取り、恐る恐る中まで入っていった。
部屋の中央には大きな石の台がある。さくらは上を見上げた。立派なドーム状の天井だ。間違いない、この部屋だ。さくらは足がガクガク震えてきた。あの悪夢の部屋。やはり夢ではなかったのだ!
トムテはさくらを祭壇の前まで連れて来た。恐怖と緊張で体の震えを抑えることが出来なかった。そんな様子を見てトムテは、
「大丈夫ですよ」
と、さくらの手を両手で優しくさすった。そして、男を指して言った。
「さくら様。こちらにいらっしゃるのは、我が王室付き魔術師であらせられます、ダロス様でございます」
男はフードを外し、深々と頭を下げた。蝋燭の明かりで、頭を上げた男の顔が照らされる。がっちりとした体系の大男だが、その外見に似合わず、意外と年寄りだということが分かった。
「そして、こちらにいらっしゃいますのは、同じく王室付き魔術師、ガンマ様でございます」
トムテがそう言うと、祭壇の横から、とても小柄な老婆が現われた。老婆もフード付きのマントで体をすっぽりと覆っていた。そのフードの下から見える顔は、優に一世紀は超えているであろうと思われるほど、深いしわが刻まれているが、目はギラギラし、生気を剥きだしにしている。その目は真っ直ぐにさくらを見つめていた。
さくらはトムテに支えられていて、やっと立っている状態だった。一人の屈強そうな男が椅子を用意した。トムテが優しく手を離すと、さくらは崩れるようにそこに座った。
「さくら様。どうぞお気を楽になさって下さい」
魔術師と言われた大男の低い声が響いた。
「さくら様。今すべてが不安に感じていらっしゃることでしょう。ここは何処なのか、我々が何者なのか。・・・そしてなぜ、我々がさくら様のお名前を存じ上げているのか」
さくらは胸の前で両手を握り、大男を見上げ、震えながら頷いた。
「我々は意図的にあなた様を、あなた様が居られた世界からこの世界、つまり我々の世界へお連れしたのでございます。魔術によって」
ダロスはそう言うと、じっとさくらを見下ろした。その目は鋭かったが、その眼差しはどこか同情を帯びていた。
「これは決して夢ではございません。そして、これを運命と思って受け入れて頂かないといけません」
ダロスは大きく息を吸うと、思い切ったように言った。
「さくら様。あなた様は、我がローランド王国の王妃に選ばれたのでございます」
廊下を歩いている限りだと、この建物は石造りの館ということしか分からない。装飾などはあまりなく、とても地味な廊下だ。それでも窓の数が多く、そこからたくさんの日の光が注がれ、何とも気持ちがいい。
しかし、暫く歩いて行くと、窓もなく昼でも暗い廊下にやってきた。壁にあるランプが廊下を照らしている。突き当たりにとても大きな立派な扉が見えた。今まで通ってきた部屋の扉とは明らかに違う、とても存在感のある木の扉だった。
トムテは重そうにその扉を開いた。ギィと軋む音が響く。さくらはゾクッと寒気がした。トムテがさくらを中に誘った。
入り口に立つと正面に大きな祭壇があった。その中央に美しく装飾された大きな水晶が異様な存在感を放っている。そしてその祭壇の横に大きな人影が見えた。黒尽くめのマントを頭からすっぽり被っている。
さくらは足がすくみ、一歩が踏み出せないでいると、トムテがそっとさくらに手を差し伸べた。さくらはその手を取り、恐る恐る中まで入っていった。
部屋の中央には大きな石の台がある。さくらは上を見上げた。立派なドーム状の天井だ。間違いない、この部屋だ。さくらは足がガクガク震えてきた。あの悪夢の部屋。やはり夢ではなかったのだ!
トムテはさくらを祭壇の前まで連れて来た。恐怖と緊張で体の震えを抑えることが出来なかった。そんな様子を見てトムテは、
「大丈夫ですよ」
と、さくらの手を両手で優しくさすった。そして、男を指して言った。
「さくら様。こちらにいらっしゃるのは、我が王室付き魔術師であらせられます、ダロス様でございます」
男はフードを外し、深々と頭を下げた。蝋燭の明かりで、頭を上げた男の顔が照らされる。がっちりとした体系の大男だが、その外見に似合わず、意外と年寄りだということが分かった。
「そして、こちらにいらっしゃいますのは、同じく王室付き魔術師、ガンマ様でございます」
トムテがそう言うと、祭壇の横から、とても小柄な老婆が現われた。老婆もフード付きのマントで体をすっぽりと覆っていた。そのフードの下から見える顔は、優に一世紀は超えているであろうと思われるほど、深いしわが刻まれているが、目はギラギラし、生気を剥きだしにしている。その目は真っ直ぐにさくらを見つめていた。
さくらはトムテに支えられていて、やっと立っている状態だった。一人の屈強そうな男が椅子を用意した。トムテが優しく手を離すと、さくらは崩れるようにそこに座った。
「さくら様。どうぞお気を楽になさって下さい」
魔術師と言われた大男の低い声が響いた。
「さくら様。今すべてが不安に感じていらっしゃることでしょう。ここは何処なのか、我々が何者なのか。・・・そしてなぜ、我々がさくら様のお名前を存じ上げているのか」
さくらは胸の前で両手を握り、大男を見上げ、震えながら頷いた。
「我々は意図的にあなた様を、あなた様が居られた世界からこの世界、つまり我々の世界へお連れしたのでございます。魔術によって」
ダロスはそう言うと、じっとさくらを見下ろした。その目は鋭かったが、その眼差しはどこか同情を帯びていた。
「これは決して夢ではございません。そして、これを運命と思って受け入れて頂かないといけません」
ダロスは大きく息を吸うと、思い切ったように言った。
「さくら様。あなた様は、我がローランド王国の王妃に選ばれたのでございます」
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