4 / 98
第一章
3.身の上
しおりを挟む
さくらはこの状況をまったく理解できなかった。何故この二人は自分の名前を知っているのか? それにこの態度は何なのだろう? さくらはあんぐりと口を空け、二人を見つめた。
しかし、そんなさくらの態度など構いなしとばかりに、二人はテキパキと仕事をこなし始めた。
まず、ルノーはさくらの着ていた寝巻きを脱がし、新しく用意した服に着替えさせ、長い髪も綺麗に結い上げた。その間にテナーは食事の用意をし、さくらの身支度が整うのを待っていた。さくらがテーブルに着くと、そこにはシチューらしいものとパンと美しくむかれた果物が並んでいた。
ルノーに勧められ、さくらは何がなんだか分からないまま、シチューを口にした。一口食べると、急に空腹感を覚え、むさぼる様にあっという間に食べ尽くしてしまった。食後にテナーが入れてくれたお茶をすすりながら、まだ物足りないと思っている自分に驚いた。それに気が付いたのか、
「とてもお腹がすいていたらしでしょう。なにせ二日間お目覚めになられなかったのですから」
とルノーは、さくらをなだめるように言った。
「二日?!」
さくらはビックリして声を上げた。
「はい。丸二日間でございます。しかし、空腹時に大量のお食事は健康に悪うございます。今回は少々少なめで我慢なさって下さいませ」
二日・・・。さくらは一気に直面している問題に引き戻された。食事をしている間、一瞬今の状況を忘れていた。それくらい夢中で食べていたのだ。むろんそれは空腹だったから。そして空腹だったのは二日間飲まず食わずに眠っていたからだ。
ではそれはいつからの二日間? やはりそれは・・・。
さくらは恐る恐る右手を見ると手首に包帯がしてある。さくらは青くなった。あの悪夢は右手首に激痛が走ったところで終わっていた。
ああ、本当に夢ではなかったのか・・・。
さくらは震える左手で包帯に手を掛けた。するとルノーが慌ててそれを止めた。
「お触りになってはいけません。さくら様」
「なぜですか?」
思わず反射的に聞いたが、実際は包帯を取ることを恐れていたので、触るなと言われて逆に内心ホッとしている自分もいた。
「たいへん申し訳ございませんが、私どもの口からは申し上げることは出来ません。いずれ然る者からご説明申し上げるはずでございます」
ルノーはそう言うと、深く頭を下げた。
その時、呼び鈴が鳴った。さくらはどうしていいか分からず、すがるようにルノーを見上げた。ルノーはテナーに合図すると、彼女が扉を開けた。
入ってきたのは、小柄な中年男性だった。足首まである長いスモックのような服に同じ丈くらいあるフード付きのガウンをはおり、頭をすっぽりと覆うような丸い帽子をかぶっていた。
男は人好きするような笑顔を見せ、さくらに近寄り、深々と頭を下げた。
「ようやくお目覚めになりましたか。ご気分はいかがでございますか?さくら様」
この男も自分の名前を知っている。そして、ひどく丁重に扱う様は、他の二人と同じだ。さくらは不気味でならなかった。とりあえず会釈をしたが、不審そうに相手を見やった。男はそれを意に介せず、続けて自己紹介をした。
「お目にかかれて光栄でございます。さくら様。私はこの国の王室教育係長を務めております、トムテと申します。この度はさくら様のお世話係をさせて頂くことになりました」
相変わらず怪訝な顔で自分を見つめているさくらに、トムテはもみ手をしながら歩み寄った。
「さくら様。今の状況が把握できず、さぞかし不安でいらっしゃるでしょう。これから、御身の上に一体何が起こっているのか、その一切をご説明申し上げます」
そして、扉に向かって手を指し出した。
「さあどうぞ、ご一緒にいらして下さい!」
しかし、そんなさくらの態度など構いなしとばかりに、二人はテキパキと仕事をこなし始めた。
まず、ルノーはさくらの着ていた寝巻きを脱がし、新しく用意した服に着替えさせ、長い髪も綺麗に結い上げた。その間にテナーは食事の用意をし、さくらの身支度が整うのを待っていた。さくらがテーブルに着くと、そこにはシチューらしいものとパンと美しくむかれた果物が並んでいた。
ルノーに勧められ、さくらは何がなんだか分からないまま、シチューを口にした。一口食べると、急に空腹感を覚え、むさぼる様にあっという間に食べ尽くしてしまった。食後にテナーが入れてくれたお茶をすすりながら、まだ物足りないと思っている自分に驚いた。それに気が付いたのか、
「とてもお腹がすいていたらしでしょう。なにせ二日間お目覚めになられなかったのですから」
とルノーは、さくらをなだめるように言った。
「二日?!」
さくらはビックリして声を上げた。
「はい。丸二日間でございます。しかし、空腹時に大量のお食事は健康に悪うございます。今回は少々少なめで我慢なさって下さいませ」
二日・・・。さくらは一気に直面している問題に引き戻された。食事をしている間、一瞬今の状況を忘れていた。それくらい夢中で食べていたのだ。むろんそれは空腹だったから。そして空腹だったのは二日間飲まず食わずに眠っていたからだ。
ではそれはいつからの二日間? やはりそれは・・・。
さくらは恐る恐る右手を見ると手首に包帯がしてある。さくらは青くなった。あの悪夢は右手首に激痛が走ったところで終わっていた。
ああ、本当に夢ではなかったのか・・・。
さくらは震える左手で包帯に手を掛けた。するとルノーが慌ててそれを止めた。
「お触りになってはいけません。さくら様」
「なぜですか?」
思わず反射的に聞いたが、実際は包帯を取ることを恐れていたので、触るなと言われて逆に内心ホッとしている自分もいた。
「たいへん申し訳ございませんが、私どもの口からは申し上げることは出来ません。いずれ然る者からご説明申し上げるはずでございます」
ルノーはそう言うと、深く頭を下げた。
その時、呼び鈴が鳴った。さくらはどうしていいか分からず、すがるようにルノーを見上げた。ルノーはテナーに合図すると、彼女が扉を開けた。
入ってきたのは、小柄な中年男性だった。足首まである長いスモックのような服に同じ丈くらいあるフード付きのガウンをはおり、頭をすっぽりと覆うような丸い帽子をかぶっていた。
男は人好きするような笑顔を見せ、さくらに近寄り、深々と頭を下げた。
「ようやくお目覚めになりましたか。ご気分はいかがでございますか?さくら様」
この男も自分の名前を知っている。そして、ひどく丁重に扱う様は、他の二人と同じだ。さくらは不気味でならなかった。とりあえず会釈をしたが、不審そうに相手を見やった。男はそれを意に介せず、続けて自己紹介をした。
「お目にかかれて光栄でございます。さくら様。私はこの国の王室教育係長を務めております、トムテと申します。この度はさくら様のお世話係をさせて頂くことになりました」
相変わらず怪訝な顔で自分を見つめているさくらに、トムテはもみ手をしながら歩み寄った。
「さくら様。今の状況が把握できず、さぞかし不安でいらっしゃるでしょう。これから、御身の上に一体何が起こっているのか、その一切をご説明申し上げます」
そして、扉に向かって手を指し出した。
「さあどうぞ、ご一緒にいらして下さい!」
1
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
元天才貴族、今やリモートで最強冒険者!
しらかめこう
ファンタジー
魔法技術が発展した異世界。
そんな世界にあるシャルトルーズ王国という国に冒険者ギルドがあった。
強者ぞろいの冒険者が数多く所属するそのギルドで現在唯一、最高ランクであるSSランクに到達している冒険者がいた。
───彼の名は「オルタナ」
漆黒のコートに仮面をつけた謎多き冒険者である。彼の素顔を見た者は誰もおらず、どういった人物なのかも知る者は少ない。
だがしかし彼は誰もが認める圧倒的な力を有しており、冒険者になって僅か4年で勇者や英雄レベルのSSランクに到達していた。
そんな彼だが、実は・・・
『前世の知識を持っている元貴族だった?!」
とある事情で貴族の地位を失い、母親とともに命を狙われることとなった彼。そんな彼は生活費と魔法の研究開発資金を稼ぐため冒険者をしようとするが、自分の正体が周囲に知られてはいけないので自身で開発した特殊な遠隔操作が出来るゴーレムを使って自宅からリモートで冒険者をすることに!
そんな最強リモート冒険者が行く、異世界でのリモート冒険物語!!
毎日20時30分更新予定です!!
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
引きこもりが乙女ゲームに転生したら
おもち
ファンタジー
小中学校で信頼していた人々に裏切られ
すっかり引きこもりになってしまった
女子高生マナ
ある日目が覚めると大好きだった乙女ゲームの世界に転生していて⁉︎
心機一転「こんどこそ明るい人生を!」と意気込むものの‥
転生したキャラが思いもよらぬ人物で--
「前世であったことに比べればなんとかなる!」前世で培った強すぎるメンタルで
男装して乙女ゲームの物語無視して突き進む
これは人を信じることを諦めた少女
の突飛な行動でまわりを巻き込み愛されていく物語
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる