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68.救出
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クラウディアを拉致した馬車は郊外へ駆けて行く。
どんどん民家もまばらになり、とうとう人気のない森へ入って行った。
森へ入った途端、道が悪くなったせいか、奴らの馬車はスピードが落ちた。
だが、こちらの影は馬の扱いに長けている。悪路の中でもどんどん距離を縮め、とうとう追いついた。
「一歩前に出で、横に付けろ!」
僕は馬車の扉を開け、影に叫んだ。
影は馬車をぴったりと並走させた。
僕らの馬車が相手の馬車を抜かしたところで御者の姿を捕えると、タイミングを見計らって、相手の馬車に飛び移った。
そして驚き悲鳴を上げる御者を一発殴り、その場から蹴り落とした。
「カイル様! 手綱を! 前前前!! 前見て!」
隣で影が喚く。
僕はすぐに手綱を引くと、馬車のスピードを緩めた。
二つの馬車が並走したまま、徐々にスピードを落とし、最後にはゆっくりと馬車は停車した。
本当なら乱暴に停めてもよかったのだ。勢いに任せて横倒しになったって構わなかった。
それをしないのは中に大切なクラウディアいるからだ。
彼女の為だけに丁寧に扱ったのだ。
僕は御者席から飛び降りると、馬車の扉に手を掛けた。
しかし、当然ながら中から鍵が掛かっていて開けられない。カーテンも閉じられているので中の様子も確認できない。
「これ以上は無駄な抵抗だ。大人しく扉を開けたまえ」
「・・・」
僕の怒りの問いかけに、中の人物は無言だ。
「ディア、そこにいるね?」
「・・・」
口を塞がれているのか答えは無い。ただ体を必死にもがいているのか、衣擦れのような音が聞こえた。意識はあるようだ。
僕はジャケットを脱ぐとそれを右肘に撒いた。
「ディア、もし可能なら目を閉じて顔を伏せていてね」
そう言いうと、右肘で窓ガラスを叩き割った。
「うわあ!」
「きゃああ!」
ガラスが割れる音と馬車の中からの叫び声が森に響き渡る。
僕はそんな騒音はお構いなしに、割れた窓から手を入れると、扉の鍵を開けた。
そして扉をゆっくり開けた。
「これはどういうことか、しっかり説明してもらおうか? リード君。そしてロワール嬢、いや、今は男爵令嬢ではなかったね。セシリアさん」
中でカタカタと震えている元リード伯爵令息とセシリアがいた。
そして、その二人の前で床に座らされ、口に猿ぐつわをさせられているクラウディアがいた。
彼女のそんな姿を見て、僕の怒りは爆発寸前だった。
それを何とか必死に押さえつけ、冷静を装い彼らを睨みつけた。
僕が中に入ろうとステップに足を掛けた時、
「来るな! こいつがどうなってもいいのか!?」
リードがクラウディアの首に腕を回し、彼女の顔にナイフを近づけた。
「・・・君・・・、何をしているか分かってるの?」
僕は怒りのあまり自分でも信じられないほど低い声が出た。
「お、お、お前のせいで! お前の家のせいで、我が家は没落したんだ! お前のせいで一家全員殺されたんだ!」
「確かに、君の父君の罪を暴いたのは僕だ。そのせいで君の家は没落したのは否定しないね、事実だから。でも罪を犯したのは誰?」
「く・・・っ」
「君の父君が至極真っ当な人だったら、こんなことにはなっていなかったろうに」
「うるさい、うるさい! 嘘だ、嘘だ! 父が犯罪なんて犯すはずがないんだ! お前が濡れ衣を着せたんだ!」
リードは頭を大きく振って叫んだ。
その目には涙が光っている。
「お前に・・・、お前にも大切な人を奪われる辛さが分かるか・・・! 母も姉も殺されて・・・。分からないなら、この場で教えてやってもいい!」
リードはクラウディアをもっと自分に近づけた。
クラウディアは苦しそうに彼の腕にしがみ付いた。
「こいつの命と交換だ! 父を解放しろ! そして名誉回復もだ!」
そう叫び、リードはさらにナイフをクラウディアの顔に近づけようとした時、
「痛っ・・・!!」
急に顔を歪めて、ナイフを落とした。
両手が自由なクラウディアが、首に回しているリードの腕を反対側に思いっきり捻ったのだ。
その隙に僕は中に飛び込み、クラウディアを抱き抱えるようにして馬車から飛び出すと、思いっきり扉を閉めた。
「残念だよ、リード君。君がこんな愚行に走るなんて。ずっと君を守っていたのに馬鹿みたいだ」
僕は馬車に向かって話しかけた。
「守っていたってどういう意味だ!! 訳の分からないことを言うな!」
リードが馬車から飛び出そうとしてきたが、僕は開きかけたドアを蹴り上げ、再び閉めると外からロックを掛けた。
「君の家族は君の父君の愚行のせいで暗殺者に殺されたんだ。そうなることが分かっていて我が家は君の家を密かに守っていたけど、守り切れなかったのはこちらの落ち度だ。それは同情する」
「なんだって?! 嘘を言うな!」
リードは窓から顔を出して叫んだ。
「君の父君は君が想像する以上の悪事を働いていたって事だ。暗殺者が動く程のね」
「嘘だ・・・!」
「君だってずっと狙われていたよ。君一人生き残った後、三回は命を狙われていた。それを我が家が雇っていた護衛に守られていたのに」
リードの顔が曇った。
どうやら襲われかけた心当たりがあるようだ。
「でも、こんな仕打ちを受けてまで、君を守る義理は無い。もう護衛は引き上げさせる。その女と好きにすればいい。まあ、十中八九生き残れないと思うけどね」
僕は冷ややかに言い放った。
どんどん民家もまばらになり、とうとう人気のない森へ入って行った。
森へ入った途端、道が悪くなったせいか、奴らの馬車はスピードが落ちた。
だが、こちらの影は馬の扱いに長けている。悪路の中でもどんどん距離を縮め、とうとう追いついた。
「一歩前に出で、横に付けろ!」
僕は馬車の扉を開け、影に叫んだ。
影は馬車をぴったりと並走させた。
僕らの馬車が相手の馬車を抜かしたところで御者の姿を捕えると、タイミングを見計らって、相手の馬車に飛び移った。
そして驚き悲鳴を上げる御者を一発殴り、その場から蹴り落とした。
「カイル様! 手綱を! 前前前!! 前見て!」
隣で影が喚く。
僕はすぐに手綱を引くと、馬車のスピードを緩めた。
二つの馬車が並走したまま、徐々にスピードを落とし、最後にはゆっくりと馬車は停車した。
本当なら乱暴に停めてもよかったのだ。勢いに任せて横倒しになったって構わなかった。
それをしないのは中に大切なクラウディアいるからだ。
彼女の為だけに丁寧に扱ったのだ。
僕は御者席から飛び降りると、馬車の扉に手を掛けた。
しかし、当然ながら中から鍵が掛かっていて開けられない。カーテンも閉じられているので中の様子も確認できない。
「これ以上は無駄な抵抗だ。大人しく扉を開けたまえ」
「・・・」
僕の怒りの問いかけに、中の人物は無言だ。
「ディア、そこにいるね?」
「・・・」
口を塞がれているのか答えは無い。ただ体を必死にもがいているのか、衣擦れのような音が聞こえた。意識はあるようだ。
僕はジャケットを脱ぐとそれを右肘に撒いた。
「ディア、もし可能なら目を閉じて顔を伏せていてね」
そう言いうと、右肘で窓ガラスを叩き割った。
「うわあ!」
「きゃああ!」
ガラスが割れる音と馬車の中からの叫び声が森に響き渡る。
僕はそんな騒音はお構いなしに、割れた窓から手を入れると、扉の鍵を開けた。
そして扉をゆっくり開けた。
「これはどういうことか、しっかり説明してもらおうか? リード君。そしてロワール嬢、いや、今は男爵令嬢ではなかったね。セシリアさん」
中でカタカタと震えている元リード伯爵令息とセシリアがいた。
そして、その二人の前で床に座らされ、口に猿ぐつわをさせられているクラウディアがいた。
彼女のそんな姿を見て、僕の怒りは爆発寸前だった。
それを何とか必死に押さえつけ、冷静を装い彼らを睨みつけた。
僕が中に入ろうとステップに足を掛けた時、
「来るな! こいつがどうなってもいいのか!?」
リードがクラウディアの首に腕を回し、彼女の顔にナイフを近づけた。
「・・・君・・・、何をしているか分かってるの?」
僕は怒りのあまり自分でも信じられないほど低い声が出た。
「お、お、お前のせいで! お前の家のせいで、我が家は没落したんだ! お前のせいで一家全員殺されたんだ!」
「確かに、君の父君の罪を暴いたのは僕だ。そのせいで君の家は没落したのは否定しないね、事実だから。でも罪を犯したのは誰?」
「く・・・っ」
「君の父君が至極真っ当な人だったら、こんなことにはなっていなかったろうに」
「うるさい、うるさい! 嘘だ、嘘だ! 父が犯罪なんて犯すはずがないんだ! お前が濡れ衣を着せたんだ!」
リードは頭を大きく振って叫んだ。
その目には涙が光っている。
「お前に・・・、お前にも大切な人を奪われる辛さが分かるか・・・! 母も姉も殺されて・・・。分からないなら、この場で教えてやってもいい!」
リードはクラウディアをもっと自分に近づけた。
クラウディアは苦しそうに彼の腕にしがみ付いた。
「こいつの命と交換だ! 父を解放しろ! そして名誉回復もだ!」
そう叫び、リードはさらにナイフをクラウディアの顔に近づけようとした時、
「痛っ・・・!!」
急に顔を歪めて、ナイフを落とした。
両手が自由なクラウディアが、首に回しているリードの腕を反対側に思いっきり捻ったのだ。
その隙に僕は中に飛び込み、クラウディアを抱き抱えるようにして馬車から飛び出すと、思いっきり扉を閉めた。
「残念だよ、リード君。君がこんな愚行に走るなんて。ずっと君を守っていたのに馬鹿みたいだ」
僕は馬車に向かって話しかけた。
「守っていたってどういう意味だ!! 訳の分からないことを言うな!」
リードが馬車から飛び出そうとしてきたが、僕は開きかけたドアを蹴り上げ、再び閉めると外からロックを掛けた。
「君の家族は君の父君の愚行のせいで暗殺者に殺されたんだ。そうなることが分かっていて我が家は君の家を密かに守っていたけど、守り切れなかったのはこちらの落ち度だ。それは同情する」
「なんだって?! 嘘を言うな!」
リードは窓から顔を出して叫んだ。
「君の父君は君が想像する以上の悪事を働いていたって事だ。暗殺者が動く程のね」
「嘘だ・・・!」
「君だってずっと狙われていたよ。君一人生き残った後、三回は命を狙われていた。それを我が家が雇っていた護衛に守られていたのに」
リードの顔が曇った。
どうやら襲われかけた心当たりがあるようだ。
「でも、こんな仕打ちを受けてまで、君を守る義理は無い。もう護衛は引き上げさせる。その女と好きにすればいい。まあ、十中八九生き残れないと思うけどね」
僕は冷ややかに言い放った。
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