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63.楽しい夏休み

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いつもだったら長く感じる領地への旅が、クラウディアと一緒だったお陰であっという間に感じた。

彼女が用意してくれた遊び道具も楽しかったけれど、彼女自身が傍にいてくれるだけで僕は退屈なんてしなかった。

屋敷に着くと、使用人たちが全員並んで出迎えてくれた。
だが、迎えてくれたのは彼らだけではなかった。

「よく来たの! 待ちくたびれたぞ、我が孫よ!」

暴走爺がそこにいた。
隣には祖母がいる。

祖母はいい。何で祖父がいる!?

「お帰りなさい。カイル。私たちもロバートに言われて来たのよ。可愛い未来のお嫁さんをおもてなしするためにね」

祖母はそう言って優しくクラウディアを迎えた。

「何て美しくなったのかしら! クラウディア嬢。小さい頃の貴女もいつまでも抱いていたいほど可愛らしかったけれど、こんなにも大きくなって」

うん。お祖母様はよく分かっていらっしゃる。

クラウディアは祖父母が来るなど聞いていないので、驚きを隠せない。
慌ててふためいたように挨拶をした。

「お、お久しゅうございます。大奥様」

「そんな畏まらないで。カイルと同じように、お祖母様と呼んでちょうだいな」

「はい。お祖母様!」

「ワハハ、相変わらずチビでコロコロして可愛らしいのう! クラウディア」

おい! 爺! 何言ってるの?!

「お久しゅうございます。お祖父様」

クラウディアはそんな祖父に恭しく挨拶をした。
僕の顔が引きつっている事に気が付いた祖母がそっと傍に来た。

「ごめんなさいね、カイル。本当は私だけで来る予定だったの。どうせお祖父様は噂話でも探りにフラフラ出かけてしまうと思ったのに。クラウディア嬢が来るのを聞きつけたみたいで」

溜息交じりに僕に囁く。

「でも、安心して。責任もってお祖父様を見張るからね。あなた達の邪魔はさせないから」

「お願いします。お祖母様・・・」

僕は祖母には悪いが深く溜息をついた。
祖父を見ると、クラウディアに腕を差し出して、さっさ屋敷にエスコートしている。
「チビ」や「コロコロ」は頂けないが、可愛いとは本当に思っているようだ。
自分の腕に手を添えているクラウディアを嬉しそうに見つめている。

「あらあら、嬉しそうね、お祖父様ったら」

祖母は微笑ましそうに二人を見た。

「早速邪魔されてますけど」

「まあ、あれくらいはいいでしょう! 独占欲が強い男は格好悪いわよ」

「・・・そうですかね・・・」

僕はちょっと口を尖らせて祖母を見た。それを見て祖母は呆れたように笑った。
そんな祖母に僕は腕を差し出した。
彼女はそっと僕の腕を取ると並んで歩き出した。





翌日から僕と祖父とでクラウディアの奪い合いが始まった。

「クラウディア! 今日はいい天気だ! ワシと魚釣りでもしよう! いい穴場を教えてやる!」
「ディア! 今日は街を案内してあげる! まずは中心地に連れて行ってあげるね!」

「クラウディア! 今日は乗馬日和じゃ! お前でも乗れそうな小ぶりな馬を用意してやるぞ!」
「ディア! さあ、今日は綺麗な湖に連れて行ってあげる! 一緒にボートに乗ろうね!」

「クラウディア! 今日は山でピクニックじゃ!」
「ディア! 観たいって言っていた観劇のチケットが手に入ったよ!」

「クラウディア!」
「ディア!」

日中は終始こんな感じで、彼女は毎回目を丸めて困惑している。
大半は僕が勝利するか、祖父に捕まる前に連れ出してしまうのだが、夜は夜で今度は祖母が女子会と銘打ってクラウディアを独占し、二人でお茶や刺繍を楽しんでいる。

お祖母様! 爺が邪魔をしないように見張ってくれるって言ったのに~!
嘘付き~~! それどころか自分まで僕のディアを独占して!

そんなバタバタの毎日でもクラウディアは常に笑顔で楽しそうだ。

僕と一緒にいる時も幸せそうに笑ってくれるし、僕が敗北し祖父の娯楽に付き合っている時も―――もちろん、僕も出来る限り同席する―――楽しそうな笑い声が聞こえる。

いつもなら主のいない寂しい領地の屋敷が信じられないほど明るく賑やかだ。
使用人たちも僕らに振り回されて忙しく働きながらも、どこか楽しそうだ。

何だかんだ言って、クラウディアを終始独占できなかったけれど、学院生活よりもずっと近くて長い時間を共有できた。
ランドルフ領の良いところもたくさん見せることが出来たとも思う。

僕にとって本当に幸せな夏だった。
この幸せが続くと、続かせると固く思っていた。この時は。

でも・・・。
この後、やはりこの家我が家は暗く呪われている家なのだと思い知ることになるのだ。
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