上 下
60 / 74

60.帰還

しおりを挟む
リード伯爵はランドルフ領の自衛団によって、王都に護送された。

リード伯を拘束する少し前、彼によって作られた武器密輸組織は速やかに解体された。

祖父の言っていた通り、小さな組織で田舎の片隅にアジトを構えており、そこに武器や弾薬が隠されていた。
夜中に、ランドルフ領の自衛団ではない、我が家が私的に雇った敏腕傭兵達と共にアジトに忍び込んだ。証人として出来るだけ生け捕りにするつもりだったが、残念ながら、その場でほぼ全員片付けてしまい、生き残ったのは詳しいことは何も知らない下っ端が二人。

結果、証拠は武器だけ。置いてあった全ての武器を押収し、こちらも王都に護送した。

もちろん、武器はある程度流れていることは想像できる。
リード伯爵領の屋敷にも王都の彼の屋敷にも保管されているだろう。
それは後々押収することになる。

どうせ、彼の処刑は免れない。
彼は公爵令息の殺人未遂事件を起こしたのだ。爵位剥奪はもちろんの事、終身刑になる可能性が高く、家は王室預かりとなり、資産は全て没収されるからだ。

それでも武器密輸の罪よりは軽いのだ。
この罪は公にはされることは無い。しかし、表向きの罪状より、真の罪状で裁かれることはいずれ本人も分かることだろう。

それにしても、アジトの襲撃を祖父に任せなくて良かった。
彼はアジトごと弾薬でぶっ飛ばし、派手に潰そうとしていたようだ。
そんなことしたら大騒ぎな上に、証拠の武器も消えてしまうじゃないか!
本当に困った爺さんだ。





結局、僕が王都にある邸に帰って来るまで、一ヶ月近く掛かってしまった。
偽の賭博場の準備に時間を要してしまったのが痛かったな。

家に帰り、母親からの熱烈な歓迎を受けた後、自室に入るとベッドにダイブした。

「疲れた~。あ~、早くクラウディアに会いたい~」

「早速、明日学院でお会いできるではないですか。あ、明日は日曜日でしたね。学院は休みで会えませんね」

荷物を運んできたジョセフがシレっと残酷なことを言う。

「月曜日でも会えるか分からないよ・・・。明日、今回の事件の真相を事細かに宰相に説明するように言われてるし。きっと、その後のリード伯の事情聴取についても同席を求められるだろうし・・・。一週間で解放されるかどうか・・・」

僕は枕に顔を埋めた。

「クラウディア様はこの一ヶ月、お元気に過ごされていましたよ」

「そう、元気なら良かった」

「はい。普通に元気いっぱいでした。カイル様がいらっしゃらなくても」

・・・。
ちょっと引っかかるのは気のせいかな?

「私も、毎日の送り迎えの馬車でのおしゃべりはとても楽しかったですよ。ははは。確かにクラウディア様は以前よりもずっと美しくなられましたね!」

・・・。
なんか軽く殺意が沸いてるんだけど、これも気のせいかな?

「でも、ご安心ください。クラウディア様に特別な好意を持って近寄るような男子生徒はおりませんでしたよ。これは影からも報告を受けております」

「そう・・・」

「流石に婚約者がいる令嬢に言い寄る男はいないでしょう。ましてやお相手がカイル様なのに」

「まあね・・・」

「それに、いくら美しく成長したからと言って、横恋慕したいほど綺麗かと言うと、それはまた別問題で・・・」

「ジョセフ・・・、それ以上言うとお前の口を縫うよ・・・」

「あ! いや! その、クラウディア様はお美しくなられましたけど、カイル様の心配には及びませんと申し上げているんです! はい!」

あのね、全然上手くないから。その言い訳。

「それに、馬車でのおしゃべりの内容はほとんどカイル様の事ばかりでしたよ! あそこまでカイル様に夢中の姿を見せられて近寄る男などいるわけないでしょう!?」

・・・。
なら、いいか・・・。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら、乙女ゲームのヒロインに転生したようなので。逆ざまぁが多いい、昨今。慎ましく生きて行こうと思います。

❄️冬は つとめて
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生した私。昨今、悪役令嬢人気で、逆ざまぁが多いいので。慎ましく、生きて行こうと思います。 作者から(あれ、何でこうなった? )

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

転生した悪役令嬢はシナリオ通りに王子に婚約破棄されることを望む

双葉葵
恋愛
悪役令嬢メリッサ・ローランドは、卒業式のパーティで断罪され追放されることを望んでいる。 幼い頃から見てきた王子が此方を見てくれないということは“運命”であり決して変えられない“シナリオ”通りである。 定刻を過ぎても予定通り迎えに来ない王子に一人でパーティに参加して、訪れる断罪の時を待っていたけれど。険しい顔をして現れた婚約者の様子が何やら変で困惑する。【こんなの“シナリオ”になかったわ】 【隣にいるはずの“ローズ”(ヒロイン)はどこなの?】 *以前、『小説家になろう』であげていたものの再掲になります。

申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!

甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。 その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。 その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。 前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。 父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。 そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。 組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。 この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。 その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。 ──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。 昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。 原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。 それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。 小説家になろうでも連載してます。 ※短編予定でしたが、長編に変更します。

【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。

木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。 前世は日本という国に住む高校生だったのです。 現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。 いっそ、悪役として散ってみましょうか? 悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。 以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。 サクッと読んでいただける内容です。 マリア→マリアーナに変更しました。

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢が腹黒ヒロインと手を組んだら?

真理亜
恋愛
公爵令嬢のライラは婚約者である第2王子のルドルフのことが大嫌いだった。さっさと婚約破棄したくて堪らなかった。なにせとにかく女癖が悪い上に生来の悪党だからである。婚約破棄に向けて今日も着々とルドルフがやらかした悪事の証拠集めに勤しむ彼女だったが、ある日聞き捨てならない情報を入手する。どうやらルドルフの方もライラとの婚約破棄に向けて何やら企んでいるというものだ。イリナという男爵令嬢を利用してライラを追い詰めようと画策しているらしい。しかもイリナを使い捨てにするつもりらしい。そこでライラはイリナの元を訪れこう言った。 「ねぇ、私と手を組まない?」 ☆こちらは別タイトルで投稿していた物を、タイトルと構成をやや変えて投稿し直したものになります。

処理中です...