52 / 74
52.ティータイム
しおりを挟む
生徒会室へ入ってきたセシリアは、ワゴンを置くとパタパタっとアーネストの傍に駆け寄った。
「お疲れ様です、アーネスト様。全員揃っていないですけど、冷める前にお茶をお入れしますね」
そう言って可愛らしく首を傾げた。
「セシリア、今日はもう誰も来ないよ、みんな予定があって。そう言ったじゃないか」
アーネストは小さい声でセシリアに話しかけた。
あー、そうか。さっきの舌打ちはこのせいか。僕が来なければ二人きりになれたはずなのに、お邪魔虫が来たせいでお怒りだったわけだ。
ビンセントもアンドレも来ないことは伝わっていたから、殿下側近の僕もてっきり来ないと思っていたのだろう。
「じゃあ、折角なので三人でお茶しましょう! 今日の焼き菓子はマドレーヌですよ!」
セシリアはアーネストの意を介さず、にこやかに笑うと、早速お茶の準備を始めた。
手際よくお茶を淹れ、僕の前のテーブルに焼き菓子とティーカップを並べると、
「さあ、アーネスト様もこっちでお茶しましょうよ!」
アーネストに向かって手招きした。
だが、彼は渋った顔のまま、席から立ち上がらない。
僕と一緒に仲良く三人という構図が気に入らないようだ。その点は気が合う。
セシリアはアーネストの傍に行くと、両手で彼の腕を取り、無理やり立たせた。
「ね? アーネスト様」
可愛らしく首を傾げてそう乞われるとアーネストは何も言えなくなり、渋々立ち上がってこちらにやって来た。
セシリアと並んで僕の前に座る。そして、ムスッとした顔で紅茶をグイっと飲んだ。
「お菓子もどうぞ、アーネスト様。お好きでしょう? マドレーヌ」
セシリアはマドレーヌを取ると、彼に差し出した。その態度に彼は気分が良くなったようだ。素直に受け取ってモグモグと頬張った。
「セシリアのお菓子は本当に美味しいよ。プロ並みだね!」
「ふふふ。ありがとうございます。アーネスト様」
そんな会話と僕は半目で見ながら、紅茶を口にした。
★
暫くすると、アーネストの息遣いが荒くなってきた。
ハアハアと苦しそうに息をしている。
首元に手を当て、ネクタイを緩めると乱暴にシャツのボタンを外す。
「え・・・?」
セシリアは驚いたように彼を見ている。そして、僕の方を見た。
僕はソファに深く沈み込み、目を閉じていた。
「う、嘘! 何で? 逆なはずなのに! どうして、カイル様が睡眠薬を・・・、きゃあ! ちょっと! 待ってください! アーネスト様!」
セシリアが慌てている声と、さらに荒くなったアーネストの息遣いが聞こえる。
そして、人が押し倒されたのか、ソファが軋む音が聞こえた。
「セシリア・・・、セシー・・・」
「やめて! 止めてください! アーネスト様っ! カ、カイル様ぁ! 助けて! 目を覚ましてぇぇ!」
必死に抵抗して、泣き叫ぶ声が部屋中に響き渡る。
僕は目を開けて彼女を見た。
彼女はそんな僕を驚いたように目を見開いて見つめた。
自分から大声で叫んで助けを求めた割には、目を覚ました僕に心底驚いたようだ。
それは驚くだろう。本来なら目が覚めないはずの僕が目を覚ましたのだ。
目を覚まさない理由は彼女がよく分かっているはず。
立ち上がった僕を見て、彼女は安堵の顔に変わった。
「カイル様! 助けて! アーネスト様がっ!」
セシリアは自分に馬乗りになり愛撫する会長に必死に抵抗ながら、僕に助けを求めてきた。
「どうして? 自分でそうなるように望んだ結果じゃないの? 相手は違ったようだけど」
僕は冷ややかに絡んでいる二人を見下ろした。
「そ、そんな・・・」
彼女の目が見る見る絶望に変わった。
「お邪魔なようだから僕は失礼するね。あ、そうだ。人に見られたら困るだろう? 部屋には外から鍵を掛けておくよ。じゃあ、二人で楽しんで」
「お願いっ! 助けてぇ! カイル様ぁ!!」
泣きながら金切り声を上げるセシリアを僕は苛立ちを込めて睨みつけた。
小さく舌打ちをすると、二人の傍に行き、アーネストの髪を掴むとグイっと引っ張った。
「クッ・・・!」
のけ反ったアーネストが苦しそうにうめき声を上げた。
彼は完全にやられていようだ。
息は荒れ、目は血走っている。
髪の毛を掴まれながらも、必死にセシリアを求めている。
セシリアはアーネストから離され、急いで開けた自分のブラウスを直すように胸元を隠した。
身体がカタカタと小刻みに震えているが、ちっとも可哀そうと思わない。
「ロワール嬢。助けてもいいが、この状況を説明してくれるかな? 何で会長は突然発情し始めたの?」
セシリアは真っ青になったまま何も言わない。
「どう見てもおかしいよね? この状況は」
「・・・」
睨みつける僕にセシリアは口をギュッと噛み締めダンマリを続ける。
「そうか。じゃあ、仕方がない。邪魔したね。後はお二人でよろしくやってくれ」
僕はアーネストの髪を掴んでいる手を少し緩めた。
途端に彼はセシリアに襲い掛かろうとする。
「ま、待って!!」
僕はもう一度彼の髪をギュッと掴み、引き寄せた。
「僕はタダで人助けするほどお人好しじゃないんだ。ましてや、自分自身も被害に遭いかけたって言うのにさ」
「ごめんなさい! 薬を・・・、薬を入れたの! 紅茶に・・・!」
「お疲れ様です、アーネスト様。全員揃っていないですけど、冷める前にお茶をお入れしますね」
そう言って可愛らしく首を傾げた。
「セシリア、今日はもう誰も来ないよ、みんな予定があって。そう言ったじゃないか」
アーネストは小さい声でセシリアに話しかけた。
あー、そうか。さっきの舌打ちはこのせいか。僕が来なければ二人きりになれたはずなのに、お邪魔虫が来たせいでお怒りだったわけだ。
ビンセントもアンドレも来ないことは伝わっていたから、殿下側近の僕もてっきり来ないと思っていたのだろう。
「じゃあ、折角なので三人でお茶しましょう! 今日の焼き菓子はマドレーヌですよ!」
セシリアはアーネストの意を介さず、にこやかに笑うと、早速お茶の準備を始めた。
手際よくお茶を淹れ、僕の前のテーブルに焼き菓子とティーカップを並べると、
「さあ、アーネスト様もこっちでお茶しましょうよ!」
アーネストに向かって手招きした。
だが、彼は渋った顔のまま、席から立ち上がらない。
僕と一緒に仲良く三人という構図が気に入らないようだ。その点は気が合う。
セシリアはアーネストの傍に行くと、両手で彼の腕を取り、無理やり立たせた。
「ね? アーネスト様」
可愛らしく首を傾げてそう乞われるとアーネストは何も言えなくなり、渋々立ち上がってこちらにやって来た。
セシリアと並んで僕の前に座る。そして、ムスッとした顔で紅茶をグイっと飲んだ。
「お菓子もどうぞ、アーネスト様。お好きでしょう? マドレーヌ」
セシリアはマドレーヌを取ると、彼に差し出した。その態度に彼は気分が良くなったようだ。素直に受け取ってモグモグと頬張った。
「セシリアのお菓子は本当に美味しいよ。プロ並みだね!」
「ふふふ。ありがとうございます。アーネスト様」
そんな会話と僕は半目で見ながら、紅茶を口にした。
★
暫くすると、アーネストの息遣いが荒くなってきた。
ハアハアと苦しそうに息をしている。
首元に手を当て、ネクタイを緩めると乱暴にシャツのボタンを外す。
「え・・・?」
セシリアは驚いたように彼を見ている。そして、僕の方を見た。
僕はソファに深く沈み込み、目を閉じていた。
「う、嘘! 何で? 逆なはずなのに! どうして、カイル様が睡眠薬を・・・、きゃあ! ちょっと! 待ってください! アーネスト様!」
セシリアが慌てている声と、さらに荒くなったアーネストの息遣いが聞こえる。
そして、人が押し倒されたのか、ソファが軋む音が聞こえた。
「セシリア・・・、セシー・・・」
「やめて! 止めてください! アーネスト様っ! カ、カイル様ぁ! 助けて! 目を覚ましてぇぇ!」
必死に抵抗して、泣き叫ぶ声が部屋中に響き渡る。
僕は目を開けて彼女を見た。
彼女はそんな僕を驚いたように目を見開いて見つめた。
自分から大声で叫んで助けを求めた割には、目を覚ました僕に心底驚いたようだ。
それは驚くだろう。本来なら目が覚めないはずの僕が目を覚ましたのだ。
目を覚まさない理由は彼女がよく分かっているはず。
立ち上がった僕を見て、彼女は安堵の顔に変わった。
「カイル様! 助けて! アーネスト様がっ!」
セシリアは自分に馬乗りになり愛撫する会長に必死に抵抗ながら、僕に助けを求めてきた。
「どうして? 自分でそうなるように望んだ結果じゃないの? 相手は違ったようだけど」
僕は冷ややかに絡んでいる二人を見下ろした。
「そ、そんな・・・」
彼女の目が見る見る絶望に変わった。
「お邪魔なようだから僕は失礼するね。あ、そうだ。人に見られたら困るだろう? 部屋には外から鍵を掛けておくよ。じゃあ、二人で楽しんで」
「お願いっ! 助けてぇ! カイル様ぁ!!」
泣きながら金切り声を上げるセシリアを僕は苛立ちを込めて睨みつけた。
小さく舌打ちをすると、二人の傍に行き、アーネストの髪を掴むとグイっと引っ張った。
「クッ・・・!」
のけ反ったアーネストが苦しそうにうめき声を上げた。
彼は完全にやられていようだ。
息は荒れ、目は血走っている。
髪の毛を掴まれながらも、必死にセシリアを求めている。
セシリアはアーネストから離され、急いで開けた自分のブラウスを直すように胸元を隠した。
身体がカタカタと小刻みに震えているが、ちっとも可哀そうと思わない。
「ロワール嬢。助けてもいいが、この状況を説明してくれるかな? 何で会長は突然発情し始めたの?」
セシリアは真っ青になったまま何も言わない。
「どう見てもおかしいよね? この状況は」
「・・・」
睨みつける僕にセシリアは口をギュッと噛み締めダンマリを続ける。
「そうか。じゃあ、仕方がない。邪魔したね。後はお二人でよろしくやってくれ」
僕はアーネストの髪を掴んでいる手を少し緩めた。
途端に彼はセシリアに襲い掛かろうとする。
「ま、待って!!」
僕はもう一度彼の髪をギュッと掴み、引き寄せた。
「僕はタダで人助けするほどお人好しじゃないんだ。ましてや、自分自身も被害に遭いかけたって言うのにさ」
「ごめんなさい! 薬を・・・、薬を入れたの! 紅茶に・・・!」
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった
月
恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。
そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。
ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。
夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。
四話構成です。
※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです!
お気に入り登録していただけると嬉しいです。
暇つぶしにでもなれば……!
思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。
一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。
悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~
幸路ことは
恋愛
多くの乙女ゲームで悪役令嬢を演じたプロの悪役令嬢は、エリーナとして新しいゲームの世界で目覚める。しかし、今回は悪役令嬢に必須のつり目も縦巻きロールもなく、シナリオも分からない。それでも立派な悪役令嬢を演じるべく突き進んだ。
そして、学園に入学しヒロインを探すが、なぜか攻略対象と思われるキャラが集まってくる。さらに、前世の記憶がある少女にエリーナがヒロインだと告げられ、隠しキャラを出して欲しいとお願いされた……。
これは、ロマンス小説とプリンが大好きなエリーナが、悪役令嬢のプライドを胸に、少しずつ自分の気持ちを知り恋をしていく物語。なろう完結済み Copyright(C)2019 幸路ことは
【完結】悪役令嬢に転生したけど『相手の悪意が分かる』から死亡エンドは迎えない
七星点灯
恋愛
絶対にハッピーエンドを迎えたい!
かつて心理学者だった私は、気がついたら悪役令嬢に転生していた。
『相手の嘘』に気付けるという前世の記憶を駆使して、張り巡らされる死亡フラグをくぐり抜けるが......
どうやら私は恋愛がド下手らしい。
*この作品は小説家になろう様にも掲載しています
【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
悪役令嬢の庶民準備は整いました!…けど、聖女が許さない!?
リオール
恋愛
公爵令嬢レイラーシュは自分が庶民になる事を知っていた。
だってここは前世でプレイした乙女ゲームの世界だから。
さあ準備は万端整いました!
王太子殿下、いつでも婚約破棄オッケーですよ、さあこい!
と待ちに待った婚約破棄イベントが訪れた!
が
「待ってください!!!」
あれ?聖女様?
ん?
何この展開???
※小説家になろうさんにも投稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる