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45.舞踏会

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日も傾き、夕暮れ時になった。
夜には、学院の大広間で舞踏会が始まる。

生徒たちは身支度の為、皆、一度引き上げる。
家に帰って準備をする者もいれば、使用人を連れてきて学院内で準備をする生徒もいる。

僕らは一度帰ることにした。

今日の日の為に、ディアにはドレスとアクセサリーを贈っている。
彼女の好きな黄色を基調にしたドレスに、僕の瞳の色であるグリーンの宝石をあしらったネックレスとイヤリング。

本当ならドレスも緑色を予定していたのだが、ドレスのデザイン画を見たジョセフに独占欲丸出しと言われ、改めたのだ。
今思えば、婚約者に対し独占欲丸出しで何がいけないんだ? 全身を僕の色に染めて何が悪い。変な虫が着くよりよっぽどいいじゃないか。

しかし、ドレスに身を包んで出てきたクラウディアを見て、ジョセフに感謝した。

彼女は明るい色が良く似合う。特に黄色は彼女のイメージにもピッタリだ。

実りの女神の姿にも心を奪われたが、鮮やかで華やかなドレス姿も目を奪われた。
それが自分の贈ったドレスとなると尚更だ。
彼女の好みの中に自分の嗜好も取り入れたドレス。それに身を包んだ姿を見ると、なんとも男心がそそられる。
緑まみれにしなくても十分満足だ。

「さあ、どうぞ。お姫様」

僕はクラウディアに手を差し伸べた。
彼女はフフッと可愛らしく笑うと、僕の手を取った。

「はい。王子様」

公爵家の馬車に乗り込むと、再び学院に向かった。





学院の大広間にクラウディアをエスコートしながら入る僕は、珍しく(すこーしだが)緊張した。

それはパレードの失態のせいだ。
本来なら、この舞踏会の場で起こすはずだったのに、その前にやらかしてしまったからだ。
なので、ここでの愚行は絶対に起こしてはいけない。
とは言っても、クラウディア以外にダンスを申し込むことは絶対にないので、起こりえないのだが、それでもパレードでの失態を考えると油断はできない。

もちろん、手は打っている。
あー、打っといてよかった・・・。杞憂かと思ったけど、そんなことは無かった。
二度も失態を犯すなんて許されないからね。

時間になると、生徒会長が現れた。
ここで彼は生徒代表として挨拶をする。それから舞踏会の開始だ。

皆が清聴している中、生徒会長は生徒達への労いの言葉と教員への感謝の言葉をダラダラと述べると、最後に大げさに両手を広げた。

「クラウン学院の学院祭の成功を祝って! 皆さん、舞踏会を楽しんでください!」

その締めの言葉を合図に、音楽が流れ始めた。

生徒会長はゆっくりと、もったいぶるように一人の令嬢の前に歩み寄った。
そして、彼女の前に跪き、手を差し出した。

「セシリア・ロワール令嬢。私にファーストダンスのお相手の栄誉を下さい」

周りからワーッと歓声と拍手が鳴る。

「え? え?」

セシリアの動揺はすごい。
周りの拍手喝采を非常に困惑したように見て、いつまでも手を取ろうとしない。

しかし、無情にも音楽はどんどん華やかに大きくなる。

会長のダンスの誘いを皮切りに、続々とダンスを始めるカップルたち。
もちろん、僕もクラウディアの手を取った。

「さあ、踊ろう、ディア!」

「ファーストダンスですわね! 物語では踊れなかったファーストダンス!」

クラウディアは目を輝かせた。

「うん。物語のように断ったりしないよね? ディア」

「もちろんですわ!」

「良かった。でも、僕は一度断られたくらいでは諦めないけどね」

僕らは音楽に乗って踊り始めた。
僕がこうした夜会を避けて来ていたから、必然的に彼女と踊ることは少ない。
それでも小さい頃からダンスの練習の相手は僕がしていた。だから僕らの息はピッタリだ。身長差なんて訳が無い。

流れる様な軽やかなステップで僕らはホールを動き回る。
僕の腕の中で楽しそうに笑う彼女はとても愛らしい。
こんなに可愛らしい天使とダンスを踊らないなんて、物語の僕って本当にアホだよね。

「舞踏会が始まってすぐダンスタイムになるとは思っていませんでしたわ」

僕の天使が微笑む。

「あはは、そうだね」

プログラムを変えたのは正解だった。
そして、生徒会長を焚き付けたのも・・・。
セシリアは人気者だからね。ファーストダンスを踊りたいなら、会長としての特権を上手く利用してもいいんじゃないかと進言しただけだけどね。
さらに、上手く事が運ぶように、それなりの演出も考えてあげたけど。

僕らが躍っている横を、ヘタクソに踊るカップルが通り過ぎた。

男の方はご満悦に踊っているが、相手のピンクブロンドは僕らを一睨みしていった。

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