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43.失態

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二台目の馬車をやり過ごし、三台目の馬車を待つ。

「あ! 見えてきましたわ!」

アイリーン嬢がさっきと同じように、やってくる馬車に向かって指を差した。

そこには一生懸命花びらをまいているクラウディアの姿があった。
小柄なせいで、他の女神より遠くに届かないと思っているのか、馬車から身を乗り出さんばかりな体勢で懸命に花びらをまいている。

そこに生徒から花を差し出されると、慌てて花びらをまくのを止めて満面の笑みで花を受け取る。
その仕草は慌ただしいが、どこか可愛らしく、花を渡す生徒からも優しい笑いが起こる。

彼女は男子生徒からより圧倒的に女子生徒から人気のようだ。
その点はビンセントと違って安心だ。

「ふふ、可愛らしいですわね。クラウディア様」

アイリーン嬢が僕を見てにっこりと笑う。
うん。完全に同意。

僕らの前にやっと馬車が来た。
三人して僕らはクラウディアの元に近づいた。

その時、僕はクラウディアしか目に入っていなかった。
これは僕の完全な失態だ。自分の恋に現を抜かし、注意力が著しく欠けた愚鈍になっていたのだ。

人集りの中、アンドレとアイリーン嬢が先にクラウディアへ花を手渡した。
次に僕が渡そうとした時だ。

「うわぁ!」
「ちょっと、押さないでよ!」

という叫び声と言い争いが聞こえ、皆がそちらに注目した。

一人の令嬢に固まって人が押し掛けたようだ。
護衛隊がすぐにその場を収めたので、怪我人が出ることもなく、何事も無かったかのように馬車は進んだ。

そう、僕はその時立ち止まってしまったのに、馬車は進んでいたのだ。僅かに。

僕が顔を上げて改めて花を差し出した先にいたのは、クラウディアではなくヒロインだった。

「え゛?」

僕は一瞬固まった。

セシリアはクラウディアの隣にいたのだ。
同じ馬車だったのだ。僕はクラウディアしか目に入らず、彼女が見えていなかった。

いや、本当にさっきまで彼女はクラウディアの隣にはいなかった。
僕が馬車に近づいたことに気が付いて、場所を移動したのだろう。
それでも、同じ馬車にいたセシリアが見えていなかったのは僕の不覚以外何ものでもない。

僕が手を引っ込める前に、セシリアは花を取り上げた。

「ありがとうございます! カイル様!」

にっこりと微笑むセシリア。
呆然とする僕。
唖然としているアンドレとアイリーン嬢。

そして、驚いて目を丸めているクラウディア・・・。

何という失態だ!
気を付けていたはずなのに、恋心でこんなにも注意力が散漫になるなんて!
しかも、セシリアが仕掛けてきたわけでもなく、自ら掛かりに行くなんて・・・。

セシリアは嬉しそうに僕の花を自分の耳に飾った。

誰か僕を断罪してください・・・。

僕は暫く呆けたまま、クラウディアの乗った馬車を見送っていた。





「呆然と馬車を見送っている姿は殿下もカイル様も同じでしたが、内容はまったく違いましたね」

ヨロヨロとビンセントが待つ場所へ戻る途中、呆れたようにアンドレが呟いた。

「・・・消されたい? アンドレ・・・」

「いいえ。今の悲劇を共に嘆いているんですよ、まったく・・・。カイル様らしからぬ失態です」

「僕としたことが・・・。クラウディアが可愛すぎて、周りが見えていなかったんだ・・・」

「その言い訳は厳しいかと・・・」

やっばり・・・? でも、本当なんだもん・・・。

「何をやっているんだ? カイル! クラウディア嬢ではなく、セシリア嬢に花を託すなんて!」

僕らが戻って来たところに、一部始終見ていたビンセントに責められた。
しかも声が大きい。周りに聞こえるから止めて!

「もしかして! まさかと思うけど、もしかしてカイル! 君はクラウディア嬢ではなく、セシリア嬢に・・・」

僕はビンセントの口を塞いだ。

「殿下・・・。この悲劇に一番傷つき、誰よりも悔いているのは僕です・・・」

「・・・すまない・・・」

モゴモゴと口にするビンセント。

「不敬ですよ、カイル様」

僕の手をバシッと叩き、ビンセントの口から離させたアンドレ。君は僕に不敬だよ。暴力だし、今の。

「クラウディア嬢に謝り倒すしかないでしょうね、カイル様」

アンドレはさらりと言い放つ。

「だ、大丈夫ですわよ、カイル様! あれは事故ですもの! クラウディア様なら分かってくださいますわ! それに私からもクラウディア様には口添えいたしますから」

アンドレの塩対応にアイリーン嬢がフォローするように割って入ってきた。

「そ、それに、ほら、アンドレ様も言ってましたでしょう? あの花は実りの神に捧げる花であって、女神に捧げる花ではないのですから!」

「そうですよ。代理で受け取ってるだけですから。本来ならどの女神に渡したっていいんです」

だからって、なにもセシリアに渡さなくても・・・。

「そうだよ、カイル・・・。そう思っておこう」

ビンセントは気の毒そうに僕の背中をポンポンと叩き、慰めてくれた。

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