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42.パレード

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「殿下、僕たちも移動しましょう」

馬車を見送ってから、僕はビンセントに振り向いた。

パレードの終点は校庭に設置された祭壇だ。
僕らは最終地点の近くで彼女たちを迎える予定だ。そこで女神に花を渡す。
僕はもちろんクラウディアに渡すつもりだ。

「リーリエは花で埋もれてしまうのでないだろうか・・・」

ビンセントが心配そうに呟いた。

確かに今日の彼女を見る限り、花は彼女に集中しそうだ。
今の彼女たちは女神であって、一般の生徒ではないからね。婚約者がいようが関係ない。これにかこつけて、リーリエ嬢に花を受け取ってもらおうと必死な男どもの花で溢れそうだ。

「僕の花もその他大勢の一輪と同じになってしまうね・・・」

「そんなことありませんわよ、殿下! どれほどお花を貰おうとも、殿下からのお花はリーリエ様にとって特別なものですわ!」

アイリーン嬢がすかさずフォローした。

「そうかな・・・?」

「そうですわ! ご心配いりませんわ!」

子犬のようにシュンとしているビンセントにアイリーン嬢は活をいれた。

「・・・そもそも主旨を間違えてますよ、殿下。花は女神自身に捧げるわけではなく、実りの神に捧げるものを、女神に託しているだけですから。あのまま祭壇に祀るわけで、彼女が貰うわけではありませんよ」

アンドレが冷静に説明する。

「つまり、どの女神に託しても同じ・・・」

「アンドレ様っ!」

シャーラップとばかりにアイリーン嬢が遮った。
本当にこいつは分かっちゃいないよね。僕とビンセントはジトっとアンドレを見た。
最終的に神に捧げるなんて言っても、僕らにとっては託す相手に捧げているのと一緒なんだよ。

「こいつのことは放っておいてサッサと行きましょう」

僕は軽く溜息をつくと、ビンセントを促して歩き出した。





僕らはパレード終点近くで、今か今かと女神一行を待っていた。
今やギャラリーもとても多くなってきた。

「あ! 見えてきましたわ!」

アイリーン嬢が嬉しそうに指を差した。
その方向に目を向けると、先頭の馬車が見えた。

女神に花を託そうと、馬車に近寄る生徒達。
彼らに危険が及ばないように、馬車は非常にゆっくりと進んでいる。
一か所に集中しないように、護衛係の生徒達が上手く誘導している。彼らは騎士コースの生徒達だ。

馬車上の五人の女神たちは笑みを浮かべ、花びらをまきながらも、周りから差し出される花を丁寧に受け取っている。二つの作業をこなすにはなかなか忙しそうだ。

その中でも凛とした佇まいのリーリエ嬢は一際目を引く。
さらに、普段あまり笑顔を見せない彼女が、僅かながらも口角を上げて微笑みながら花びらをまいている姿は、確かに美しい。

ビンセントの懸念した通り、彼女の元には花を渡す男子生徒が後を絶たない。
彼女の足元には既に花でいっぱいになったバスケットが二つも置いてある。受け取った花をそこに入れているのだろう。

やっと、彼女の馬車が僕らの前に来た。
ビンセントは待ちきれないとばかりに馬車に駆け寄ると、リーリエ嬢に花を差し出した。

リーリエ嬢はその花を受け取ると、足元のバスケットには入れずに、自分の耳に飾った。
その時、さっきまでとは違う、ずっと優しい笑顔をビンセントに向けた。

そして何事も無かったかのように、また花びらを宙にまき、他の人から差し出された花を丁寧に受け取り、バスケットへ入れる。

ビンセントは真っ赤な顔をしたまま、暫く呆けた状態でリーリエ嬢の乗った馬車を見送っていた。





護衛係に促されて、ビンセントはやっと僕らの元に戻ってきた。

「ほら、私の言った通りでございましょう? 殿下からのお花はリーリエ様にとって特別ですのよ」

戻ってきたビンセントに、アイリーン嬢が優しく話しかけた。

「うん・・・」

ビンセントの顔はまだ真っ赤だ。
あの笑顔があまりにも衝撃だったのだろうか、まともに話すこともできない。
真っ赤な顔を隠すように明後日の方向を向いてしまったビンセントを、アイリーン嬢はにっこりと、アンドレはヤレヤレといった顔で見守っている。

「私はクラウディア様にお花を託しますわ。よろしいですか? カイル様」

アイリーン嬢が僕の方を振り返った。

もちろん・・・・、アンドレ様もそうですわね?」

にっこりとアンドレに微笑んだ。

「え? あ、はい。私もクラウディア嬢に託したいと思います。よろしいですか? カイル様」

きっと彼は適当な女神に手渡すつもりだったのだろう。それをすべて見越している彼女は、もはや婚約者と言うより奥さんだね。

「ありがとう、二人とも。クラウディアも喜ぶよ」

クラウディアの馬車は三番目。最後だ。
僕らは我が女神に花を捧げるべく、最後の馬車がやってくるのを待っていた。

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