上 下
34 / 74

34.恋人

しおりを挟む
「恋人・・・」

その場にいた全員が、クラウディアの言葉を復唱するように呟いた。

「そうですわ! 恋人です!!」

クラウディアは再びビシッと言い放つ。

恋人・・・。
世界で一番好きって・・・。

クラウディアのもとに駆け寄るはずだったのに、僕は両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んでしまった。
もう、ディア。君は僕をどうしたいだ・・・?

〔何してんですか・・・、カイル様・・・。そんなところで丸まって〕

僕の頭上から冷めた声が聞こえる。

〔だって、アンドレ。クラウディアが僕を恋人って・・・、僕のことを世界で一番を好きだって・・・〕

僕は悶えながら小声で言い返す。

〔・・・早くクラウディア嬢のもとに行った方がいいのでは? 忙しいのに来いと言うから来てみれば・・・。悶絶するあなたを見るためじゃないでしょう?〕

本当に人の惚気に付き合わない男だな。
早く来いって言ったのに今頃来ておいて・・・。つれない奴だ。

クラウディアの友人がセシリアを呼び出したと僕の影―――本来はビンセントの護衛なんだが―――から報告を受けた時、すぐにアンドレを呼んだ。
彼女たちがバトルになれば、セシリアはクラウディアに非を擦り付けようとするだろうと想像できたからだ。
その時に、僕以外に彼にも「通りすがりの目撃者」になってもらおうと持って呼びつけたのだ。

しかし、クラウディアが来てしまうことは想定外だった。
ましてや、僕が止める前に、先に飛び出して応戦してしまうとは。

僕はゆっくり立ち上がると、クラウディアたちの方を見た。
彼らはディアの言動に気を取られ過ぎて、僕とアンドレに気が付いていない。

彼らの元に向かおうと生け垣を割って入る僕に、

〔その締まりのない顔を何とかした方がいいですよ、カイル様〕

背後からアンドレの呆れた声がする。
うるさいな。自分でも分かってるよ、にやけてるって。

アンドレの言葉を無視して、クラウディアの元に向かった。

「ディア。大丈夫かい?」

「カ、カイル様!」

クラウディアは驚いてピョンと飛び上がると、僕の方に振り向いた。
一時、僕の存在を忘れていたらしい。今の言葉を聞かれたとやっと気が付いたようだ。見る見る顔が真っ赤になった。

「カ、カイル様、えっと、あの・・・、今のは、その・・・」

先ほどの勢いはどこへやら。クラウディアは真っ赤な顔でモジモジとし始めた。

「カイル様!」

セシリアは僕の名を大声で叫ぶと、こっちに向かって駆けてきた。
だが、僕は彼女が傍に来る前にクラウディアの両手を取ると、

「ダメじゃないか、僕の腕の中から勝手に飛び出しちゃ。びっくりしたよ」

そう言って、彼女の指先にそっと唇を当てた。

「「!!」」

息を呑んだのはクラウディアだけではない。近くでセシリアも息を呑んだのが分かった。

「掌が擦り剥けてるよ。すぐに救護室に行こう」

僕はそう言うと、クラウディアを横抱きした。

「カ、カイル様! な、なにを! 私、歩けますわよ!」

「ダメだよ、膝だって擦り剥いているのに」

「ちょっとですわよっ! 全然大丈夫です! 歩けますわ!」

僕の腕の中でディアがバタバタと暴れる。

「どうして嫌がるの? 僕は君の恋人なのに」

「恋人っ!」

「うん。恋人同士でしょう? 僕たちは。恋人を抱きあげて何がいけないの?」

僕はにっこりと笑ってディアを見た。

「それに、さっきまで僕の腕に抱きしめられていたのに、何で今更恥ずかしがるの?」

「あ、あれは! さっきのは・・・!」

「それを突然飛び出して。僕から逃げるなんて悪い子だね、ディアは」

僕はクラウディアの額にチュッと唇を当てた。
きゃあ!とディアの友人たちが黄色い声を上げる。
アンドレは半目になっている。『何を見せられてるんですかね、私は』と言う心の声がダダ洩れだ。

チラリとヒロインに目をやると、照れて真っ赤なクラウディアと違い、怒りで真っ赤な顔でワナワナ震えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます

水無瀬流那
恋愛
 転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。  このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?  使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います! ※小説家になろうでも掲載しています

【完結】強制力なんて怖くない!

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。 どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。 そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……? 強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。 短編です。 完結しました。 なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。 でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。 果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか? ハッピーエンド目指して頑張ります。 小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。

【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。 (他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!

甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。 その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。 その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。 前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。 父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。 そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。 組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。 この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。 その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。 ──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。 昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。 原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。 それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。 小説家になろうでも連載してます。 ※短編予定でしたが、長編に変更します。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

処理中です...