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30.彼女も?

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「よ、よかったのですか? カイル様・・・?」

歩きながら不安そうにクラウディアが僕を見上げる。

「当たり前でしょ。ディアを置いて行くなんて有り得ないから」

僕はにっこりと微笑んで見せた。

いくら言い聞かせても、クラウディアから不安は拭えないようだ。
この物語世界未来を知っている彼女からしてみれば仕方のないことだと思う。
だから、今は不安になる度に、それを取り除いてあげるしかない。
それもこの学院を卒業するまでの話だ。その時になればヒロインともおさらばだし。
なにより、卒業したらすぐ結婚するしね。もう決めてるし。

「物語のカイル様は・・・」

「あー、行っちゃうんでしょ? 物語の僕は。でも、残念だったね。現実の僕は行かないよ」

僕はちょっと意地悪そうに笑って見せた。

「それとも、僕に行って欲しかった?」

ニッと笑ったまま、彼女の顔を覗き込む。
クラウディアはブンブンと顔を横に振った。

「ダメ! ダメですわ! 行っちゃダメ!」

必死に否定する彼女が可愛らしくて、ついクスっと笑ってしまう。

「うん。分かった。安心して、ディア。君が行くなと言うなら、僕はどこにも行かないよ」

そう言うと、彼女はカァっと頬を染め、両手で顔を覆ってしまった。

「ああ、やっぱり、私、カイル様が大好きだわ・・・。どうしたらいいのかしら、こんなに好きになっちゃって・・・」

・・・。
だから、ディア・・・。そういう独り言は聞こえないように言ってね。
僕の方が悶え死にそうだから・・・。





「あの、カイル様。私、ちょっと気になったことがあって・・・」

ランチをしながら、クラウディアが真剣な表情で僕を見た。

「さっき、セシリア様と別れる時、彼女の独り言が聞こえたような気がしたのですけど・・・」

僕も気になっていた。彼女の言葉・・・。

「うん。僕も聞こえたよ。『私がヒロインなのに』ってね」

「やっぱり!? 気のせいじゃなかったのですね?」

クラウディアは見る見る青くなる。
ナイフとフォークを持つ手がカタカタ震えて始めた。

「ディア! 落ち着いて!」

僕は席を立つと、彼女の傍に行き、肩を抱いた。そして、空いている手を震える彼女の手にそっと添えた。

「大丈夫だよ、ディア」

クラウディアはゆっくり僕の方を見た。

「カイル様・・・。彼女も私と同じかもしれません・・・」

不安そうな顔で僕をじっと見つめる。

「同じって?」

「私と同じ転生者・・・。彼女も私と同じ世界の前世の記憶があって・・・この物語世界読んで知っている人・・・」

そんなことあるわけ・・・ないとは言い切れない・・・。
現実にクラウディアは前世の記憶を持っている。クラウディア以外にもそのような人間がいたって不思議ではないのかもしれない。

それに、すべてを知っている今、セシリアの『私がヒロインなのに・・・』という言葉は非常に思い。疑う余地がないと思うほどに。
知らなければ「ヒロイン」なんて言葉が出てこないのではないか。

「セシリア様は分かっているんだわ、ご自分がヒロインって・・・」

僕の手の中で、クラウディアのフォークを握る手に力が入るのが分かった。

「きっと、セシリア様はこの物語世界の主人公だって・・・分かってるんだわ・・・」

・・・この世界の主人公って、どれだけ・・・? でも、そうなるのか・・・。
いや~、そう思っているとなると、なかなか痛い・・・と言うか厄介だね、彼女。

「だったらきっと、将来カイル様と一緒になれると信じているかも・・・。いや、そうならないとおかしいって思っているかもしれないわ・・・」

うわぁ、止めてくれる?
こっちは卒業したら即ディアと結婚するって決めてるんだから。卒業式のその日に婚姻届出してやると思っているくらいだから。

「ディア、落ち着いて」

僕は抱いているディアの肩をポンポンと優しく叩いた。
ここはカフェテリアだ。僕ら二人だけではない。あまりこの話を続けるのは良くない。

「この話は二人だけの秘密だからね。二人きりの時に話そう」

彼女の耳元でそっと囁くと、ディアはハッとしたように僕を見た。

「そう! そうでしたわ! ごめんなさい、カイル様!」

「帰りの馬車の中ででもゆっくり話そうか?」

「はい・・・。って、今日は一緒に帰れますの?! 生徒会のお仕事は?」

「今日は大丈夫。一緒に帰ろう」

普段は、登校は一緒でも下校は僕の都合で一緒に帰れないことが多い。
クラウディアの顔がパアっと輝いた。

「嬉しいですわ! 一緒に帰れるなんて久しぶりですわね!」

「そうだね。折角だからどこか寄り道しようか? 短い時間だけどデートしよう」

「デート!?」

「行きたいカフェがあるって言っていたよね? 行ってみようか?」

「はいいいっ!!」

クラウディアは目を輝かせた。

良かった。
とりあえず今の不安は吹き飛んだようだ。
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