30 / 74
30.彼女も?
しおりを挟む
「よ、よかったのですか? カイル様・・・?」
歩きながら不安そうにクラウディアが僕を見上げる。
「当たり前でしょ。ディアを置いて行くなんて有り得ないから」
僕はにっこりと微笑んで見せた。
いくら言い聞かせても、クラウディアから不安は拭えないようだ。
この物語の先を知っている彼女からしてみれば仕方のないことだと思う。
だから、今は不安になる度に、それを取り除いてあげるしかない。
それもこの学院を卒業するまでの話だ。その時になればヒロインともおさらばだし。
なにより、卒業したらすぐ結婚するしね。もう決めてるし。
「物語のカイル様は・・・」
「あー、行っちゃうんでしょ? 物語の僕は。でも、残念だったね。現実の僕は行かないよ」
僕はちょっと意地悪そうに笑って見せた。
「それとも、僕に行って欲しかった?」
ニッと笑ったまま、彼女の顔を覗き込む。
クラウディアはブンブンと顔を横に振った。
「ダメ! ダメですわ! 行っちゃダメ!」
必死に否定する彼女が可愛らしくて、ついクスっと笑ってしまう。
「うん。分かった。安心して、ディア。君が行くなと言うなら、僕はどこにも行かないよ」
そう言うと、彼女はカァっと頬を染め、両手で顔を覆ってしまった。
「ああ、やっぱり、私、カイル様が大好きだわ・・・。どうしたらいいのかしら、こんなに好きになっちゃって・・・」
・・・。
だから、ディア・・・。そういう独り言は聞こえないように言ってね。
僕の方が悶え死にそうだから・・・。
★
「あの、カイル様。私、ちょっと気になったことがあって・・・」
ランチをしながら、クラウディアが真剣な表情で僕を見た。
「さっき、セシリア様と別れる時、彼女の独り言が聞こえたような気がしたのですけど・・・」
僕も気になっていた。彼女の言葉・・・。
「うん。僕も聞こえたよ。『私がヒロインなのに』ってね」
「やっぱり!? 気のせいじゃなかったのですね?」
クラウディアは見る見る青くなる。
ナイフとフォークを持つ手がカタカタ震えて始めた。
「ディア! 落ち着いて!」
僕は席を立つと、彼女の傍に行き、肩を抱いた。そして、空いている手を震える彼女の手にそっと添えた。
「大丈夫だよ、ディア」
クラウディアはゆっくり僕の方を見た。
「カイル様・・・。彼女も私と同じかもしれません・・・」
不安そうな顔で僕をじっと見つめる。
「同じって?」
「私と同じ転生者・・・。彼女も私と同じ世界の前世の記憶があって・・・この物語を読んでいる人・・・」
そんなことあるわけ・・・ないとは言い切れない・・・。
現実にクラウディアは前世の記憶を持っている。クラウディア以外にもそのような人間がいたって不思議ではないのかもしれない。
それに、すべてを知っている今、セシリアの『私がヒロインなのに・・・』という言葉は非常に思い。疑う余地がないと思うほどに。
知らなければ「ヒロイン」なんて言葉が出てこないのではないか。
「セシリア様は分かっているんだわ、ご自分がヒロインって・・・」
僕の手の中で、クラウディアのフォークを握る手に力が入るのが分かった。
「きっと、セシリア様はこの物語の主人公だって・・・分かってるんだわ・・・」
・・・この世界の主人公って、どれだけ・・・? でも、そうなるのか・・・。
いや~、そう思っているとなると、なかなか痛い・・・と言うか厄介だね、彼女。
「だったらきっと、将来カイル様と一緒になれると信じているかも・・・。いや、そうならないとおかしいって思っているかもしれないわ・・・」
うわぁ、止めてくれる?
こっちは卒業したら即ディアと結婚するって決めてるんだから。卒業式のその日に婚姻届出してやると思っているくらいだから。
「ディア、落ち着いて」
僕は抱いているディアの肩をポンポンと優しく叩いた。
ここはカフェテリアだ。僕ら二人だけではない。あまりこの話を続けるのは良くない。
「この話は二人だけの秘密だからね。二人きりの時に話そう」
彼女の耳元でそっと囁くと、ディアはハッとしたように僕を見た。
「そう! そうでしたわ! ごめんなさい、カイル様!」
「帰りの馬車の中ででもゆっくり話そうか?」
「はい・・・。って、今日は一緒に帰れますの?! 生徒会のお仕事は?」
「今日は大丈夫。一緒に帰ろう」
普段は、登校は一緒でも下校は僕の都合で一緒に帰れないことが多い。
クラウディアの顔がパアっと輝いた。
「嬉しいですわ! 一緒に帰れるなんて久しぶりですわね!」
「そうだね。折角だからどこか寄り道しようか? 短い時間だけどデートしよう」
「デート!?」
「行きたいカフェがあるって言っていたよね? 行ってみようか?」
「はいいいっ!!」
クラウディアは目を輝かせた。
良かった。
とりあえず今の不安は吹き飛んだようだ。
歩きながら不安そうにクラウディアが僕を見上げる。
「当たり前でしょ。ディアを置いて行くなんて有り得ないから」
僕はにっこりと微笑んで見せた。
いくら言い聞かせても、クラウディアから不安は拭えないようだ。
この物語の先を知っている彼女からしてみれば仕方のないことだと思う。
だから、今は不安になる度に、それを取り除いてあげるしかない。
それもこの学院を卒業するまでの話だ。その時になればヒロインともおさらばだし。
なにより、卒業したらすぐ結婚するしね。もう決めてるし。
「物語のカイル様は・・・」
「あー、行っちゃうんでしょ? 物語の僕は。でも、残念だったね。現実の僕は行かないよ」
僕はちょっと意地悪そうに笑って見せた。
「それとも、僕に行って欲しかった?」
ニッと笑ったまま、彼女の顔を覗き込む。
クラウディアはブンブンと顔を横に振った。
「ダメ! ダメですわ! 行っちゃダメ!」
必死に否定する彼女が可愛らしくて、ついクスっと笑ってしまう。
「うん。分かった。安心して、ディア。君が行くなと言うなら、僕はどこにも行かないよ」
そう言うと、彼女はカァっと頬を染め、両手で顔を覆ってしまった。
「ああ、やっぱり、私、カイル様が大好きだわ・・・。どうしたらいいのかしら、こんなに好きになっちゃって・・・」
・・・。
だから、ディア・・・。そういう独り言は聞こえないように言ってね。
僕の方が悶え死にそうだから・・・。
★
「あの、カイル様。私、ちょっと気になったことがあって・・・」
ランチをしながら、クラウディアが真剣な表情で僕を見た。
「さっき、セシリア様と別れる時、彼女の独り言が聞こえたような気がしたのですけど・・・」
僕も気になっていた。彼女の言葉・・・。
「うん。僕も聞こえたよ。『私がヒロインなのに』ってね」
「やっぱり!? 気のせいじゃなかったのですね?」
クラウディアは見る見る青くなる。
ナイフとフォークを持つ手がカタカタ震えて始めた。
「ディア! 落ち着いて!」
僕は席を立つと、彼女の傍に行き、肩を抱いた。そして、空いている手を震える彼女の手にそっと添えた。
「大丈夫だよ、ディア」
クラウディアはゆっくり僕の方を見た。
「カイル様・・・。彼女も私と同じかもしれません・・・」
不安そうな顔で僕をじっと見つめる。
「同じって?」
「私と同じ転生者・・・。彼女も私と同じ世界の前世の記憶があって・・・この物語を読んでいる人・・・」
そんなことあるわけ・・・ないとは言い切れない・・・。
現実にクラウディアは前世の記憶を持っている。クラウディア以外にもそのような人間がいたって不思議ではないのかもしれない。
それに、すべてを知っている今、セシリアの『私がヒロインなのに・・・』という言葉は非常に思い。疑う余地がないと思うほどに。
知らなければ「ヒロイン」なんて言葉が出てこないのではないか。
「セシリア様は分かっているんだわ、ご自分がヒロインって・・・」
僕の手の中で、クラウディアのフォークを握る手に力が入るのが分かった。
「きっと、セシリア様はこの物語の主人公だって・・・分かってるんだわ・・・」
・・・この世界の主人公って、どれだけ・・・? でも、そうなるのか・・・。
いや~、そう思っているとなると、なかなか痛い・・・と言うか厄介だね、彼女。
「だったらきっと、将来カイル様と一緒になれると信じているかも・・・。いや、そうならないとおかしいって思っているかもしれないわ・・・」
うわぁ、止めてくれる?
こっちは卒業したら即ディアと結婚するって決めてるんだから。卒業式のその日に婚姻届出してやると思っているくらいだから。
「ディア、落ち着いて」
僕は抱いているディアの肩をポンポンと優しく叩いた。
ここはカフェテリアだ。僕ら二人だけではない。あまりこの話を続けるのは良くない。
「この話は二人だけの秘密だからね。二人きりの時に話そう」
彼女の耳元でそっと囁くと、ディアはハッとしたように僕を見た。
「そう! そうでしたわ! ごめんなさい、カイル様!」
「帰りの馬車の中ででもゆっくり話そうか?」
「はい・・・。って、今日は一緒に帰れますの?! 生徒会のお仕事は?」
「今日は大丈夫。一緒に帰ろう」
普段は、登校は一緒でも下校は僕の都合で一緒に帰れないことが多い。
クラウディアの顔がパアっと輝いた。
「嬉しいですわ! 一緒に帰れるなんて久しぶりですわね!」
「そうだね。折角だからどこか寄り道しようか? 短い時間だけどデートしよう」
「デート!?」
「行きたいカフェがあるって言っていたよね? 行ってみようか?」
「はいいいっ!!」
クラウディアは目を輝かせた。
良かった。
とりあえず今の不安は吹き飛んだようだ。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった
月
恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。
そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。
ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。
夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。
四話構成です。
※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです!
お気に入り登録していただけると嬉しいです。
暇つぶしにでもなれば……!
思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。
一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど『相手の悪意が分かる』から死亡エンドは迎えない
七星点灯
恋愛
絶対にハッピーエンドを迎えたい!
かつて心理学者だった私は、気がついたら悪役令嬢に転生していた。
『相手の嘘』に気付けるという前世の記憶を駆使して、張り巡らされる死亡フラグをくぐり抜けるが......
どうやら私は恋愛がド下手らしい。
*この作品は小説家になろう様にも掲載しています
【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
悪役令嬢の庶民準備は整いました!…けど、聖女が許さない!?
リオール
恋愛
公爵令嬢レイラーシュは自分が庶民になる事を知っていた。
だってここは前世でプレイした乙女ゲームの世界だから。
さあ準備は万端整いました!
王太子殿下、いつでも婚約破棄オッケーですよ、さあこい!
と待ちに待った婚約破棄イベントが訪れた!
が
「待ってください!!!」
あれ?聖女様?
ん?
何この展開???
※小説家になろうさんにも投稿してます
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる