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27.覚悟

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不貞腐れたようにそっぽを向いている会長に、呆れながらも僕は言葉を続ける。

「そして何より、今までの生徒会とは違い、現生徒会は王太子殿下が在籍しております。我々は殿下をお守りするためにも人選は重要なのです」

「な! 生徒会は殿下の為にあるわけではないぞ!」

「もちろん、学院生徒の為です。学院生徒一人ひとりの為に働くことが生徒会の務め。その為にも人選は重要です。殿下であれ学院の生徒の一人、その意味で特別扱いはありません」

「なら・・・」

「だが、そうは言っても将来国を背負う大切なお方なのです。完全に特別扱いを無くすのは無理があります」

「セシリアが・・・! 彼らが殿下に害を及ぼす人間だとでもいうのか! 害を及ぼす人物がこの学院にいるとでも言うのか!」

彼は顔を真っ赤にして僕を睨みつけてきた。
まあ、いないよ、今はね。
害を及ぼす人物は入学前から排除しているんだから、僕が。

「そこまでは申しません。ただ、そこまで・・・・配慮すべき大切なお方であることはきちんとご認識いただきたいですね」

僕は少し目を細めて彼の睨みを見つめ返した。
彼は途端に目を逸らした。

「そして、先ほども申しましたけど、それだけでなく、学院の生徒の為に存在する生徒会の応援員だからこそ人選が重要なのですよ」

僕はワザとらしく肩を竦めると、大きく溜息を付いて見せた。
彼はもう言い返してこない。そっぽを向いている。その間に言い訳を考えているようだ。

まったく、もっと堂々とすればいいものを・・・。

なぜなら、実は最終的な人選の決定権は会長にあるのだ。
僕の言葉なんかに動揺せず、苦し紛れでもなく、正々堂々と自分の意見を貫くだけの気概を見せて欲しい。
それができないのは、それ相応の人選理由が無いからだ。

僕はポケットから懐中時計を取出し、時間を確認した。

「そろそろ生徒会のみんなが揃う頃ですね。全員の前でスカウトした三人の説明をしてもらいましょうか。彼らがどういった人物であるのか。そして自ら推した理由と利点をお聞かせいただきましょう」

「それは・・・」

「もともと我々に紹介する予定だったのでしょう? 何か問題でも?」

「いいや! 問題なんてない!」

「ですよね」

ムキになる会長に僕は冷静に頷いて見せた。

丁度こそにタイミングよく、二年生のメンバーが二人入ってきた。それに味方を得たと勘違いしたのか、会長は急に強気な顔になる。どうしてそれだけで強気な顔になれるのか不思議でならない。呆れていると、そこにビンセントとアンドレがやって来た。途端にまた不安な顔になっている。忙しい奴だな。

円卓の会議用テーブルに全員が着席すると、会長が口を開く前に僕は立ち上がった。

「本日、先ほど会長が生徒会応援員を三名選出されました。会長からその人物の紹介と選出理由等の説明があります。会長どうぞ」

会長はコホンと咳払いすると立ち上がった。
言い訳がまとまったのか、覚悟が決まったか。仮にも会長席を任された生徒だ。落ち着いた様子で説明を始めた。

しかし、言っていることは通り一遍。
上っ面しか知らない生徒の長所も短所も分かるはずがないからね。
適当に三人を褒め称えるだけだ。

正直なところ、ついでの二人の男子生徒に問題などない。
僕が知る限りでも非常に真面目そうだし、それこそ是非お願いしたいくらいだ。

問題はピンクブロンドなんだよね。

セシリアの名前が出た時は、ビンセントとアンドレは顔を顰めた。
彼女の噴水事件でのクラウディアに対する非礼を僕が良く思っていないことを分かっているからだ。

だが、彼らもセシリアのことはそれくらいしか知らない。
僕も余計なことは話す気はない。

それなのにまあ、会長はやたらとセシリアを称賛する。
優秀だの大らかで人が良いだの、可愛いや可憐までは言わないまでもそれに近い誉め言葉で、明らかに自分の好意で呼んでますよね、それ。って分かってしまう説明になっている。
終いには、例の噴水事件まで持ち出して、被害者であるのにも関わらず、誰も恨まず、同じような被害者が出ないように、学院の美化に勤めたいなどと目標を掲げる素晴らしい生徒と言いだす始末だ。

いや、ぜんぜん恨んでましたよ、彼女。クラウディアを。

これだけ必死に好意を寄せている女性が、近寄ってきた本当の目的が違う男性にあることに気が付いた時、会長はどう思うのかな。
ま、僕としてはどうでもいいし、面倒臭いから教えてあげないけど。

それよりも、この強い想いで彼女を射止めてほしいね。
それならば応援員にする価値は多少あるわけだから、僕は喜んで協力するよ。

そして、セシリア嬢。
僕に近づこうとすることで、万が一にもビンセントに危害が加わることになったら、また、クラウディアを貶めようとするなら、その時には・・・。

この僕に近づくのなら、それ相応の覚悟を持ってもらおう。
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