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25.お詫びのクッキー

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走り去るヒロインの後ろ姿を、クラウディアと並んで見送った。
クラウディアを見ると、何とも困惑気味の顔でヒロインから貰った袋を見ている。
そりゃそうだよね。本来なら敵対している女性から手作りお菓子貰うって。

「あ、あの、カイル様・・・」

彼女はちょっと困った顔して僕を見上げた。

「これって、私が貰っていいのでしょうか・・・?」

「何で? だって、彼女はお詫びって言ってたよ?」

「でも・・・、本当なら、これは彼女がカイル様にあげる予定のクッキーかと・・・」

ああ、さっきの彼女との絡み、ディアはどこら辺から見ていたのかな。
確かに、僕に押し付けるつもりだったよ、そのクッキー。

「物語では・・・、ヒロインが噴水で助けてもらったお礼にって、カイル様にあげるのです。そして、カイル様はそれを受け取るのですが・・・」

そんなシーンがあるのか。
しかも受け取るんだ、僕。

「私はその場をたまたま見かけてしまって、ヤキモチを焼くのです・・・。そして、事もあろうに、そのクッキーを取り上げて、自分で作ったお菓子をカイル様に押し付けるのですわ・・・。私が作った方が美味しいですわとか何とか言って・・・。実は数倍もヒロインのお菓子の方が美味しいのに・・・」

ふーん。物語のクラウディアはそんなに強気なんだ。確かになかなかの悪女だね。うーん、ちょっぴりだけ見てみたいかも。

「ヒロインのお菓子があまりにも美味しくて・・・、カイル様が食べなくて良かったって思っちゃうんです、私・・・」

確かに、相当腕に自信がありそうな言い方だったな。セシリアは。

「でも、今の私は代わりにカイル様にお渡しするお菓子など持ってないし・・・。あ! もしかしてこのリーリエ様からのお菓子と交換?」

クラウディアはハッとしたように、僕が持っている包みを指差した。
違うから。これは君へのプレゼントだよ、リーリエ嬢から。他人にあげたらダメでしょ。

さらに、クラウディアは改めで驚いたようにクッキーを見つめた。

「あああっ!! 結局、私がクッキーを貰っちゃったわ! 彼女からしてみたら奪っちゃったようなものだわ! どうしましょう? カイル様!」

「ディア、落ち着いて。それは、セシリア嬢から君へのお詫びで、僕にくれたものではないから」

「ほ、ほ、本当にそうかしら?」

「うん。だって、そう言ってたでしょ?」

僕はにっこり笑って、リーリエ嬢からの包みも手渡した。

「どっちのお菓子も君のものだよ」

「・・・あの、カイル様、こっちのクッキーいりませんか? プロ並みに美味しいはずで・・・」

「いらない」

「・・・」

僕としてはあまり納得できる形ではなかったけれど、ディアへの謝罪はこれで成されたことにしよう。お詫びのお品物も貰ったことだし。これ以上関わらせたくないしね。





ヒロインから貰ったクッキーは、噴水事件でディアを庇ってくれたお友達と一緒に食べたようだ。流石に一人で食べる気にもならないし、捨てるわけにもいかないというところだろう。

そんなある日、一人のご令嬢に声を掛けられた。

「ランドルフ様。少々よろしいでしょか・・・?」

振り向くと、同じクラスでクラウディアの友人の生徒が立っていた。

「・・・どうしたの? 何か相談ごとかな?」

彼女は例の事件でクラウディアを守ってくれた令嬢だ。
僕の中ではかなり好感度が上がっている。

「あの・・・。クラウディア様のことで・・・。こんなことご本人の許可なくお伝えしていいか迷ったのですが・・・」

彼女は申し訳なさそうに俯いた。

「気を使ってくれているんだね。どうもありがとう。君はいい人だね」

僕はにっこりと微笑んだ。

「婚約者のことは僕も知っておきたいな。言い辛いなら場所を変えようか?」

「い、いえ。丁度ここも人が居りませんし。すぐ済みますわ」

そう言って、彼女は小声で話し出した。

内容はこうだ。

数日前、ディアに誘われヒロインからお詫びとしてもらったクッキーを一緒に食べた。あんまりにも美味しくて、自分は彼女をちょっと見直したが、もう一人の友人は絶対買ってきたものだと言って信じなかった。まあ、これは余談で・・・。

昨日、一人で回廊を歩いていたら、セシリアが一人の男子生徒、例のバナナの皮をポイ捨てした生徒と話をしているのを見かけた。
そして、彼にも手作り菓子だと言って小さな包みを手渡し、彼が自分に誠心誠意謝ってくれたことへの礼と、奉仕活動を完遂したことへの労いの言葉を伝えていた。
それを見て、やはり悪い子ではないのだと安心したのだが、それも束の間・・・。

『あの場を助けてくれたカイル様にもクッキーを渡したのですが・・・、クラウディア様に獲られてしまって・・・』

という言葉が聞こえて、思わず耳を疑ったと言う。

男子生徒は彼女に相当同情したようだ。
シクシクと泣く彼女を慰めてあげる男子生徒。一緒になってクラウディアの事を悪く言い始め、終いにはやはり滑ったのではなくて、突き落とされたのではないかと言い出す始末とか。

「私はクラウディア様を信じておりますけど。お菓子を奪う取るなんて・・・。ましてやそれをお詫びで貰ったと言うなんて。そんなことされておりませんでしょう? ランドルフ様」

彼女は両手を胸の前で組み、祈るように僕を見た。

「もちろん。彼女からクラウディアにお詫びとして渡すところを見てるし、僕自身、彼女から何も貰っていない」

「良かったぁ・・・」

彼女はホッと安堵の溜息を付いた。もし、ディアの方が嘘を付いていたら告げ口になってしまうからね。彼女の中でも僕に言うか相当迷ったのだと思う。

「貴重な情報をありがとう。勇気がいったでしょう?」

僕は彼女に微笑んだ。

「ところで、このことはクラウディアには?」

「言っておりませんわ。どうしてよいか分からずに・・・」

「良かった。では黙っていてくれるかな? あとは僕に任せてくれたまえ。貴女はもう何も心配しないで」

「はい。お話して良かったですわ・・・。では・・・」

彼女は礼儀正しく一礼して去って行った。

さて、どうするかな。
とりあえず、僕もポイ捨て生徒君のところに、奉仕活動終了の労いの言葉でも掛けに行こうっと。
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