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56.代償
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「呪いが掛かると分かっていながら子孫を残すなど、貴様らの身勝手以外何ものでもないではないか」
私は床に額を擦らせた状態のまま、身動きが取れなかった。
悪魔の言葉は至極当然であり、それでいてあまりにも残酷だった。私の体は完全に固まってしまった。言い返す言葉など全く浮かばない。
「ローゼ、ローゼ、大丈夫か?」
アレクが心配そうに私の肩を両手で揺する。だが、私はそれに応える余裕がない。頭の中は真っ白だ。真っ白なのに瞳からは後から後から涙が溢れてくる。
「なあ、ローゼってば! 泣くなよぉ!」
アレクが私の肩をユサユサ揺する。それでも答えないので、今度は頭を撫で始めた。両手で必死に撫でてくれる。その優しさが心に沁みて嬉しいのに、どうしてか切なさを倍増させ、もっと涙を誘う。ヒック、ヒックと喉が鳴るのを抑えられないほど泣き崩れてしまった。
「おい! おっちゃん! ローゼに何してくれるんだよ!」
「ほう、お前はそいつの肩を持つのか?」
「ローゼはいい奴なんだぞ! 呪いぐらい解いてやればいいじゃんかよ! もしかしてできないのか?」
「何?」
「自分で鍵かけておいて解き方忘れたのか? もしかしてボケてんのか?」
「なんだと!? ガキが!」
悪魔の怒気の籠った声に、私は嫌な予感がして顔を上げた。
次の瞬間、悪魔の指先から鋭い光が飛び出したと思うと、アレクに向かって飛んできた。アレクはその光をヒョイッと避けた。
「何すんだよ! ジジイっ!」
「ダメよ! アレク!」
私は反撃しようとするアレクに飛び付いた。捕まえると自分の胸の中に隠すように抱きしめ、悪魔に向き直った。
「ごめんなさい! この子は私のことを思ってくれただけなんです。この子は悪くないの!」
「放せよ、ローゼ! やり返してやる!!」
「ダメよ! いい子にしてちょうだい! ね?」
私の胸の中でジタバタ暴れるアレクを必死に宥める。
「女、お前は悪魔を庇うのか・・・?」
「え?」
独り言のような小さな言葉に顔を上げると、悪魔は私たちのやり取りを悪魔は訝しそうに見ていた。
「ふん、面白い女だな・・・。いいだろう。呪いを解いてやる」
「え・・・?」
私は一瞬耳を疑った。目を丸めて悪魔を見つめた。
悪魔はそんな私を意地悪そうに見返すと、
「もちろん、代償はある。当然だ」
そう言って私のもとにフワリと飛んできた。
「それはお前自身に払ってもらう。覚悟はあるか?」
私は息を呑んだ。
呪いを解いてやると言われたのに、私を見つめる悪魔の目を見ると、諸手を挙げて喜べない。
さっきまでずっと欲しい言葉だというのに、心臓が嫌な鳴り方をして止まない。
「わ、私に払えるものであれば・・・」
アレクを抱きしめる力が無意識に強くなる。
「はっ! やはり、そんな程度か! さっきは大層な口ぶりだったくせに、自分の命を投げ打つほどの気概はないということだな」
軽蔑を込めた眼差しが私に刺さる。
私は唇を噛んだ。
「・・・お恥ずかしながら、その通りです。何故なら、私が死んでしまったら意味がないので」
そうだ、いくら呪いを解く為とは言え、私が死ぬわけにはいかないのだ。
もし、死んでしまったら残されたアーサーはどうなる?
私が死なないために・・・、私を殺さないために、アーサーは必死に呪いと対峙していたというのに、それこそ本末転倒だ!
どれだけ後悔の念に苛まれるかしれない。それだけは出来ない。そんな思いはさせないと約束したのだから!
そう思う一方で別の考えも浮かぶ。
ただレイモンド家を未来に繋いでいくためだけならば、ここで命を散らしても後妻を迎えればいいのだ。そうして生まれた命にはもう呪いは無い。それこそ未来永劫に・・・。
でも、私だって死にたくはない!
アーサーのためだけじゃない。私自身のために! 私は自分を犠牲にできるような聖者なんかじゃないんだ!
頭の中がグルグル回る。
悪魔の真っ赤な目が、私の弱い部分を見透かしているようで恥ずかしくなる。
「ふん、弱い奴め」
ズバリ胸中を言い当てられ、私は俯いた。
「別に命まではいらん。お前の血肉を寄こせ」
「血肉・・・?」
チラッと顔を上げて悪魔を見た。
「ああ。お前の腕を一本」
「う・・・で・・・?」
「それだけの血肉があれば、俺の体は蘇る」
私は再び凍り付いた。
私は床に額を擦らせた状態のまま、身動きが取れなかった。
悪魔の言葉は至極当然であり、それでいてあまりにも残酷だった。私の体は完全に固まってしまった。言い返す言葉など全く浮かばない。
「ローゼ、ローゼ、大丈夫か?」
アレクが心配そうに私の肩を両手で揺する。だが、私はそれに応える余裕がない。頭の中は真っ白だ。真っ白なのに瞳からは後から後から涙が溢れてくる。
「なあ、ローゼってば! 泣くなよぉ!」
アレクが私の肩をユサユサ揺する。それでも答えないので、今度は頭を撫で始めた。両手で必死に撫でてくれる。その優しさが心に沁みて嬉しいのに、どうしてか切なさを倍増させ、もっと涙を誘う。ヒック、ヒックと喉が鳴るのを抑えられないほど泣き崩れてしまった。
「おい! おっちゃん! ローゼに何してくれるんだよ!」
「ほう、お前はそいつの肩を持つのか?」
「ローゼはいい奴なんだぞ! 呪いぐらい解いてやればいいじゃんかよ! もしかしてできないのか?」
「何?」
「自分で鍵かけておいて解き方忘れたのか? もしかしてボケてんのか?」
「なんだと!? ガキが!」
悪魔の怒気の籠った声に、私は嫌な予感がして顔を上げた。
次の瞬間、悪魔の指先から鋭い光が飛び出したと思うと、アレクに向かって飛んできた。アレクはその光をヒョイッと避けた。
「何すんだよ! ジジイっ!」
「ダメよ! アレク!」
私は反撃しようとするアレクに飛び付いた。捕まえると自分の胸の中に隠すように抱きしめ、悪魔に向き直った。
「ごめんなさい! この子は私のことを思ってくれただけなんです。この子は悪くないの!」
「放せよ、ローゼ! やり返してやる!!」
「ダメよ! いい子にしてちょうだい! ね?」
私の胸の中でジタバタ暴れるアレクを必死に宥める。
「女、お前は悪魔を庇うのか・・・?」
「え?」
独り言のような小さな言葉に顔を上げると、悪魔は私たちのやり取りを悪魔は訝しそうに見ていた。
「ふん、面白い女だな・・・。いいだろう。呪いを解いてやる」
「え・・・?」
私は一瞬耳を疑った。目を丸めて悪魔を見つめた。
悪魔はそんな私を意地悪そうに見返すと、
「もちろん、代償はある。当然だ」
そう言って私のもとにフワリと飛んできた。
「それはお前自身に払ってもらう。覚悟はあるか?」
私は息を呑んだ。
呪いを解いてやると言われたのに、私を見つめる悪魔の目を見ると、諸手を挙げて喜べない。
さっきまでずっと欲しい言葉だというのに、心臓が嫌な鳴り方をして止まない。
「わ、私に払えるものであれば・・・」
アレクを抱きしめる力が無意識に強くなる。
「はっ! やはり、そんな程度か! さっきは大層な口ぶりだったくせに、自分の命を投げ打つほどの気概はないということだな」
軽蔑を込めた眼差しが私に刺さる。
私は唇を噛んだ。
「・・・お恥ずかしながら、その通りです。何故なら、私が死んでしまったら意味がないので」
そうだ、いくら呪いを解く為とは言え、私が死ぬわけにはいかないのだ。
もし、死んでしまったら残されたアーサーはどうなる?
私が死なないために・・・、私を殺さないために、アーサーは必死に呪いと対峙していたというのに、それこそ本末転倒だ!
どれだけ後悔の念に苛まれるかしれない。それだけは出来ない。そんな思いはさせないと約束したのだから!
そう思う一方で別の考えも浮かぶ。
ただレイモンド家を未来に繋いでいくためだけならば、ここで命を散らしても後妻を迎えればいいのだ。そうして生まれた命にはもう呪いは無い。それこそ未来永劫に・・・。
でも、私だって死にたくはない!
アーサーのためだけじゃない。私自身のために! 私は自分を犠牲にできるような聖者なんかじゃないんだ!
頭の中がグルグル回る。
悪魔の真っ赤な目が、私の弱い部分を見透かしているようで恥ずかしくなる。
「ふん、弱い奴め」
ズバリ胸中を言い当てられ、私は俯いた。
「別に命まではいらん。お前の血肉を寄こせ」
「血肉・・・?」
チラッと顔を上げて悪魔を見た。
「ああ。お前の腕を一本」
「う・・・で・・・?」
「それだけの血肉があれば、俺の体は蘇る」
私は再び凍り付いた。
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