いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

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47.悪魔

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私は悪魔の召喚に成功した。
目の前にその悪魔が立っている。そしてそれはじっと私を見つめている。それどころか睨んでいる。
しかし、その姿は・・・。

「ちっちぇーな、おい・・・」

思わず呟くほど小さいのだ。
いやいや、聞いてましたけどね、小さいって。でも本当に小さい。だって手のひらサイズだ。

「おい! 人間!」

その言葉にハッと我に返る。

「聞いてんだろ? お前が俺を呼び出したのか? 答えろよ!」

悪魔はビシッと私を指差した。
尖った耳にグロテスクな緑がかった灰色の肌。背中には翼があり、尻からは細長い尻尾が生えている。
そんな悪魔がふんぞり返って胸を張り、真っ赤に光った目で私に睨みを利かせている。でも、小さいせいで威圧感が全く無い。

「何だ? 黙り込んで。フンっ、怖気づいてるのか、貴様? ハハハ! ハ、ハ、ハックシュっ!」

偉そうに笑ったかと思ったら、ブルブルっと震えてくしゃみした。

「あ、ごめん! 水が冷たかったわね。今拭いてあげるね~、待ってね~」

私はポケットからハンカチを取り出すと、悪魔を優しく拭いてあげた。

「お、おい! 何すんだっ!」

「ごめん、ごめん。まさか、まんまポチャンって水に落ちるなんて思わなかったから~」

拭き終わるとそのままそのハンカチで体を包んであげた。

「だって、羽だって・・・いや、翼だってあるし落ちるなんて。飛べるんでしょ? どんくさいのね、あなたって」

「んだとぉ!?」

「もしかして飛べないの? その翼って飾り物?」

「んなわけあるか!」

「よね~。でも、落ちるって分かっていたらお湯にしてあげればよかったわね。そこまで気が回らなかったわ」

はあ~?と怪訝な顔をする悪魔。だが、フルフルっと頭を振って、キリッとした顔になる。
そして、包んであげたハンカチをまるでマントのように翻し、再び私を指差した。

「俺を呼び出したのはお前か?!」

私はうっかり半目になった。無言で後ろを振り返る。当然誰もいない。

「・・・他に誰がいるってのよ? 見りゃ分かるでしょ・・・」

呆れたように言う私に、悪魔は目を丸めた。

「それとも召喚された時の決め台詞なわけ? それって。格好つけて言わなきゃいけないやつ?」

「え? えっと、別に・・・」

「もしかしてあなた、召喚され慣れてるの? 私は初心者なんだけど、慣れてるならありがたいわ」

「え? い、いや・・・」

「違うの? もしかして初めて?」

「・・・」

「あ~、なるほど。言ってみたかったってやつ?」

「う、うるさい! うるさい! うるさぁーい!」

悪魔はその場でドンドンを足踏みしながら、羽織っているハンカチを両手で掴んで翼のようにバタバタと煽る。
何こいつ、照れてんの? 超可愛いんだけど!

「あはは! ごめん、ごめん! ちょっと揶揄っちゃった。機嫌直して!」

私は悪魔の頭をぐりぐりと撫でた。彼はその行動が意外だったようだ。ピタッと動きを止めた。

「確かに召喚しておいて自己紹介しないなんて失礼よね。あなたはその機会を与えて下さったのよね」

ふふふと笑いながら彼から手を放すと、私は改まって優雅にお辞儀をした。

「私の名はローゼ・レイモンド。卑しき人間の分際でありながら恐れ多くも悪魔様をお呼び奉りましたことをお許しくださいませ。どうか我が願いを叶えて頂きたく」

「フン! いいだろう。だが、それには代償があるぞ。いいんだな?」

チラリとみると、悪魔は偉そうに腕を組み、ふんぞり返っている。
機嫌が直ったようだ。

「それは何でしょうか?」

私は頭を上げ、姿勢を正した。

「お前の血だ。血の雫、一滴」

「お安い御用でございます」

「じゃあ、よこせ」

「は?」

「何だ? 願いを聞いて欲しいんだろ?」

「いやいやいや、だってそれって対価の代わりでしょ? だったらそっちが先に願いを聞いてからでしょうが! 後払いに決まってんでしょ! 何言ってんの?」

「チッ・・・」

悪魔は小さく舌打ちした。さっきは可愛いと思ったのに、全然憎たらしいじゃん。

「じゃあ聞くが、お前の願いは?」

上から目線でふんぞり返る悪魔。
その態度に今度は私の方が舌打ちしたくなるが、グッと堪えて、わざとらしくコホンとせきをすると、

「私の願いはですね、あなた方悪魔のお一人が過去に我が家に掛けた呪いを解いて頂くことです」

そう言ってまた優雅に頭を下げた。

「呪い?」

「はい。呪いです。四代前から代々我が家の子息に掛けられた呪いです。人の血を欲する忌まわしい呪い」

「・・・なるほど・・・。呪いか・・・」

「はい」

顔を上げ悪魔を見る。奴は顎に手を当て何やら思案顔だ。
そして、チラッと私を見ると首を横に振った。

「それは無理だ」

「はい?」

「呪いは掛けた本人でしか解くことは出来ないからだ」

「は?」

「それが原則だから」

「・・・」

「だから、俺には無理」

はあああ? 何言ってんのぉ!?
めっちゃ役立たずなんですけど! こいつ~!
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