45 / 62
45.ヒント
しおりを挟む
私は倒れたままの態勢で目をパチパチしながらその小さな扉を見つめた。
これって・・・。
「もしかして隠し棚?!」
私は叫びながら飛び起きると、その扉に噛り付いた。
「くそ~! 鍵が掛かってる~!」
ガチャガチャと乱暴に取手を動かしてもビクともしない。よく見ると鍵穴は無く、金庫のようにダイヤル式の鍵だ。うわ~、最悪だ! こんなの開きっこないじゃん!
ん・・・? でも、待てよ・・・?
ここはウィリアムの研究室で、これはウィリアムの秘密の棚。そしてそんなウィリアムの宝物・・・。
それは彼の最愛にして唯一無二の存在。そして彼を愚行に走らせた大元。
「奥方の誕生日かも! 有うる!」
私は急いで研究室を飛び出した。周り本の山などお構いなしに走ったので、それらの山は総崩れ。バラバラと倒れる本の塔など見向きもしなかった。
★
走って辿り着いたのはレイモンド家自慢の書庫だ。
私は一目散に家系図の本棚に走り寄った。一冊手に取ると、乱暴にページをめくる。すぐに目的の欄を見つけると、その本を片手に屋根裏部屋へ駆け足で戻った。
埃まみれで髪を振り乱し、廊下や書庫を走り回っている私を、使用人たちは何も見なかったように華麗にやり過ごしてくれた。
研究室に駆け込むと、急いで隠し棚のもとに向かう。本の山を蹴散らして飛び出してきた為、障害物が散乱しているところに、息も切れ切れでヨロヨロの私はなかなか隠し棚に辿り着けない。
やっとの思いで辿り着くとその場にへたり込んでしまった。
懸命に息を整え立ち上がる。暫くして息は落ち着いてきたが、今度は緊張で気持ちの方が落ち着かなくなってきた。
ドキドキと心臓が早鳴りする。それを鎮めるように心臓を叩き、大きく深呼吸する。
いざ!
緊張で震える手でダイヤルをゆっくり回す。一つ一つ番号を合わせる度にカチリカチリと小さく音が鳴り、確実に手ごたえを感じる。それが益々緊張を煽る。
最後の番号を合わせた時、ガチャリと音が鳴ったと同時にダイヤルを持つ指先から解錠された振動が伝わった。
「ふわぁ・・・!」
私は感動して変な悲鳴が漏れた。心臓の早鳴りがピークを迎える。
さっきよりも震える手で取手をとると、ゆっくりと、本当にスローモーションのように扉を開いた。
だが・・・。
そこはもぬけの殻だった。
嘘・・・。何? ここまでしてこの結末・・・。
あーあーあー、よくあるよね! 見たことあるよ! テレビで!
古い由緒ある家の開かずの金庫を鍵マスターゴッドハンドみたいな人が開ける番組!
CMでやたら引っ張っておいて、実際開けると空のパターンってね!
「まさか、ここもかよ~~!」
私は半泣き状態で空の棚に両手を差し入れ、底の床をポカポカ叩いた。するとなんだかとても軽く柔らかい音がする。
「え?」
私は改めてちゃんと叩いてみた。やはり軽い音。念のため棚の側面を叩いてみる。それはとても堅い音だ。硬い壁と分かる。
これは底に空間がある証拠だ。きっと二重構造になっているのだ! 底の板は蓋になっているに違いない。
「どうやって開けるの?!」
私は底をポカポカ叩いたり、摩ったりして開けるようと試みるがちっとも動かない。何やらカラクリがあるのだろう。
そんなカラクリいらないから! どこまで面倒掛けてくれんだ、ウィリアムのジジイめ!
私は目を皿のようにして隅々まで見渡した。そしてやっと手前の床の隅の一角だけ板の色が違うところを見つけた。1cmほどの正方形。もしやと思い、その箇所を人差し指で押してみた。
すると、カタンと床が中央で割れ、僅かに持ち上がったのだ。私はすぐにその板を外した。
思った通り二重構造になっており、底の下には空間が広がっていた。
そしてそこには一冊の古い本と、一冊のノートが入っていた。
★
私は場所を机に移すと、古い本をめくってみた。
相当古い本だ。中の文字はすべて古文で書かれていて、容易に読めない。
ただ、装丁から想像するに薬草の本では無さそうだ。
今度はノートを手に取って中を開いた。
何やら細かい小さな字で隙間なく埋め尽くされている。こちらは現代文だ。
「わ~、超読みづらぁ~・・・」
ゆっくりと人差し指で文字を追いながら読み進めていくうちに、どんどんと自分の血圧が下がっていくのが分かった。
冷えた手でさっきの本を手に取る。
「これ・・・禁書だ・・・」
残っていた。一冊だけ。
そしてノートは・・・ウィリアムの手によって書かれた現代語訳だ。
私はもう一度ノートに目を落とす。一行目に書かれた文字。
『悪魔の呼び出し方』
やっと・・・、やっと見つけた。ヒントを。
これって・・・。
「もしかして隠し棚?!」
私は叫びながら飛び起きると、その扉に噛り付いた。
「くそ~! 鍵が掛かってる~!」
ガチャガチャと乱暴に取手を動かしてもビクともしない。よく見ると鍵穴は無く、金庫のようにダイヤル式の鍵だ。うわ~、最悪だ! こんなの開きっこないじゃん!
ん・・・? でも、待てよ・・・?
ここはウィリアムの研究室で、これはウィリアムの秘密の棚。そしてそんなウィリアムの宝物・・・。
それは彼の最愛にして唯一無二の存在。そして彼を愚行に走らせた大元。
「奥方の誕生日かも! 有うる!」
私は急いで研究室を飛び出した。周り本の山などお構いなしに走ったので、それらの山は総崩れ。バラバラと倒れる本の塔など見向きもしなかった。
★
走って辿り着いたのはレイモンド家自慢の書庫だ。
私は一目散に家系図の本棚に走り寄った。一冊手に取ると、乱暴にページをめくる。すぐに目的の欄を見つけると、その本を片手に屋根裏部屋へ駆け足で戻った。
埃まみれで髪を振り乱し、廊下や書庫を走り回っている私を、使用人たちは何も見なかったように華麗にやり過ごしてくれた。
研究室に駆け込むと、急いで隠し棚のもとに向かう。本の山を蹴散らして飛び出してきた為、障害物が散乱しているところに、息も切れ切れでヨロヨロの私はなかなか隠し棚に辿り着けない。
やっとの思いで辿り着くとその場にへたり込んでしまった。
懸命に息を整え立ち上がる。暫くして息は落ち着いてきたが、今度は緊張で気持ちの方が落ち着かなくなってきた。
ドキドキと心臓が早鳴りする。それを鎮めるように心臓を叩き、大きく深呼吸する。
いざ!
緊張で震える手でダイヤルをゆっくり回す。一つ一つ番号を合わせる度にカチリカチリと小さく音が鳴り、確実に手ごたえを感じる。それが益々緊張を煽る。
最後の番号を合わせた時、ガチャリと音が鳴ったと同時にダイヤルを持つ指先から解錠された振動が伝わった。
「ふわぁ・・・!」
私は感動して変な悲鳴が漏れた。心臓の早鳴りがピークを迎える。
さっきよりも震える手で取手をとると、ゆっくりと、本当にスローモーションのように扉を開いた。
だが・・・。
そこはもぬけの殻だった。
嘘・・・。何? ここまでしてこの結末・・・。
あーあーあー、よくあるよね! 見たことあるよ! テレビで!
古い由緒ある家の開かずの金庫を鍵マスターゴッドハンドみたいな人が開ける番組!
CMでやたら引っ張っておいて、実際開けると空のパターンってね!
「まさか、ここもかよ~~!」
私は半泣き状態で空の棚に両手を差し入れ、底の床をポカポカ叩いた。するとなんだかとても軽く柔らかい音がする。
「え?」
私は改めてちゃんと叩いてみた。やはり軽い音。念のため棚の側面を叩いてみる。それはとても堅い音だ。硬い壁と分かる。
これは底に空間がある証拠だ。きっと二重構造になっているのだ! 底の板は蓋になっているに違いない。
「どうやって開けるの?!」
私は底をポカポカ叩いたり、摩ったりして開けるようと試みるがちっとも動かない。何やらカラクリがあるのだろう。
そんなカラクリいらないから! どこまで面倒掛けてくれんだ、ウィリアムのジジイめ!
私は目を皿のようにして隅々まで見渡した。そしてやっと手前の床の隅の一角だけ板の色が違うところを見つけた。1cmほどの正方形。もしやと思い、その箇所を人差し指で押してみた。
すると、カタンと床が中央で割れ、僅かに持ち上がったのだ。私はすぐにその板を外した。
思った通り二重構造になっており、底の下には空間が広がっていた。
そしてそこには一冊の古い本と、一冊のノートが入っていた。
★
私は場所を机に移すと、古い本をめくってみた。
相当古い本だ。中の文字はすべて古文で書かれていて、容易に読めない。
ただ、装丁から想像するに薬草の本では無さそうだ。
今度はノートを手に取って中を開いた。
何やら細かい小さな字で隙間なく埋め尽くされている。こちらは現代文だ。
「わ~、超読みづらぁ~・・・」
ゆっくりと人差し指で文字を追いながら読み進めていくうちに、どんどんと自分の血圧が下がっていくのが分かった。
冷えた手でさっきの本を手に取る。
「これ・・・禁書だ・・・」
残っていた。一冊だけ。
そしてノートは・・・ウィリアムの手によって書かれた現代語訳だ。
私はもう一度ノートに目を落とす。一行目に書かれた文字。
『悪魔の呼び出し方』
やっと・・・、やっと見つけた。ヒントを。
0
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~
バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。
幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。
「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」
その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。
そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。
これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。
全14話
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~
瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】
ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。
爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。
伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。
まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。
婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。
――「結婚をしない」という選択肢が。
格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。
努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。
他のサイトでも公開してます。全12話です。
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる