上 下
26 / 62

26.口づけと・・・

しおりを挟む
熱い瞳に捉えられて、私の鼓動が一気に早くなった。
吸い寄せられるように彼の瞳に見入る。

お互い無言で見つめ合っていたが、アーサーが我に返ったようにハッと小さく息をして目を逸らした。

「い、いや・・・、その、今は昼間だし、その上、新月で・・・、理性の方が勝っているから、その、耐えられるのではと・・・」

顔を逸らして慌てていい訳を始めた。
湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしている。

「いや・・・、すまない。聞き流してくれ・・・」

片手で顔を覆うと、私から離れようとした。私は逃げようとする彼の腕をしっかりと捕まえた。
驚いたようにこちらを振り向いたアーサーに手を伸ばして両頬を包んだ。そして、そのままそっと引き寄せ、唇を合わせた。

目を開けてアーサーを見ると、彼は両目をまん丸に開いたまま固まっていた。
私はにっこりと微笑むと、もう一度そっと口づけをした。

二度目のキスでやっと我に返ったアーサーは、グイっと私を引き寄せると、奪うように口づけてきた。
わずかの隙間も許さないように強く押し付けてくる口づけから私への募る思いが伝わり、胸も瞳も熱くなる。
さらに今までの想いをぶつけるように、口づけがどんどん深くなっていく。口内に彼の吐息と熱を感じ、それに必死に応えているうちに自分の体の奥がじりじりと熱くなってきた。
そんな私の熱を感じ取ったかのように、腰に添えていたはずのアーサーの手が撫でるように私の体を伝い、大きな手のひらが私の胸を包んだ。
優しい刺激に思わず吐息が漏れる。それに煽られるようにアーサーの口づけは激しくなり、胸を触る力も強くなる。

「ん、あ・・・ん・・・、ちょ・・・、ちょっと、まって・・・」

快楽に流されそうになる自分に鞭を打って、アーサーの胸を押し返した。
流石に外じゃ・・・。

「!!」

アーサーはバッと私を放すと、腕で口元を押さえ、数歩さがった。

「す、すまない・・・っ!」

「違うんです! 違うんです! 嫌なわけではないんです!」

私は慌てて、顔に熱は孕んだまま申し訳なさそうに顔を伏せているアーサーに近づくと、手を取った。

「ここは外ですので・・・、その・・・もし誰かが来たら・・・」

「すまなかった、歯止めが効かず・・・! もう戻ろう。ローゼ」

アーサーは必死に私を見ないようにしている。

「お仕事に? 嫌ですわ、まだ二人きりでいたいです!」

「っ!」

アーサーは目を丸めてこちらを見た。そして困った顔して、

「これ以上は・・・、私の忍耐が・・・」

そう呟くが、私はそれを無視するように、彼の両手を私の腰へ添えさせ、自分の両手を彼の首に回した。

「!!!」

アーサーはさらに驚愕したように私を見ている。
私はにっこりと彼に微笑んだ。

「私の血への欲求はありました? 吸いたいと思いましたか?」

彼は小さく頷いた。

「でも、大丈夫でしたわね?」

「・・・別の欲求の方が強かったから・・・」

「そちらの欲求は我慢する必要はありませんのよ?」

「でも・・・」

困惑気味に私を見る。私に拒否されたことの意味が分かっていないらしい。

「場所を移せばいいでしょう? 人目のない場所に・・・二人きりになれる場所に」

「な・・・っ」

見る見る真っ赤になるアーサー。

「はしたない女って呆れていらっしゃる? でも今だと思うのです。だって、好条件がそろっているではないですか? 今日は新月でしょう? そして昼間は血への欲求は夜よりずっと弱い」

「そうだが・・・」

「情事が夜のものって誰が決めたのですか?」

「!!」

「今、私を抱かなかったら、いつまで経っても私を抱けませんわよ、きっと」

「~~~っ」

アーサーは耐えられないとばかりに私の肩に顔を埋めた。

「貴女って人は・・・」

「ふふ、呆れてますね?」

私はそっとアーサーの頭を撫でた。
アーサーは私の腰に添えていた手を背中に回し、ギュッと私を抱きしめた。

「貴女が欲しい。喉から手が出るほど。でも、不安が拭えない。この香りが甘過ぎて・・・。我を忘れてしまいそうで」

「では、もし貴方が私の血を吸いそうになったら、そうですわね。思いっきり突き飛ばして差し上げますわ、今度は私が」

アーサーはバッと顔を上げた。

「あ、あれは! あの時は本当にすまなかった! あの夜は・・・」

「満月でしたわね。今なら理解できます」

真っ赤な顔から一転して真っ青になっているアーサーに私は吹き出しそうになるのを抑えて、彼の鼻先にチュッとキスをした。途端に真っ赤に戻る。

アーサーは、はあ~~~と長い溜息を付くと、再び私の肩に顔を埋めた。

「貴女には格好悪い姿ばかり見られているな・・・」

ボソボソと呟くアーサーの頭をよしよしと撫でる。
だが、次の瞬間、フワリと体が浮いた。横抱きに抱き上げられたのだ。

「このまま貴女を攫っていいだろうか?」

私はもちろんという返事の代わりに彼の唇にキスを落とした。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~

バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。 幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。 「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」 その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。 そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。 これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。 全14話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...