いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼

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24.模索

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レイモンド邸に戻ってきた後、アーサーの書斎で話を聞いた。
あまりにも衝撃且つ悲痛な内容に私は言葉が出てこなかった。

応接のソファーに座り、首を垂れて俯いて黙ったしまったアーサーに何て言葉を掛けていいか分からない。

暫く沈黙が続いた。

沈黙を先に破ったのはアーサーだった。

「ローゼ・・・。無理しなくてもいい・・・。私なんか見限って、他の・・・、新しい人と一緒になった方が幸せなのは分かっているのだから・・・」

顔も上げず、辛そうにそう言った。

ああ・・・、なんか、めちゃめちゃネガ男になってる・・・。
それもそうか。こんなにもヘビーな話をした上に、聞いた私が沈黙しているのだから。私が助長しているんだわ。

「いいえ、アーサー様。それは違いますわ」

私は首を振った。

「ごめんなさい。こんなに重い話をさせてしまって・・・。お辛かったでしょう?」

「ローゼ・・・」

アーサーはそっと顔を上げて、向かいに座る私を見た。

「でも、私は嬉しいですわ。秘密を共有してくれて。私を信頼してくれてのことでしょう?」

私はそんなアーサーに微笑みかけると、立ち上がった。
ゆっくりと歩く私を戸惑うように目で追うアーサー。自分の隣に座った私を困惑した表情で見た。だが、その瞳の奥に歓喜の光が浮かんだのは見間違いではない。

「事情は分かりました。アーサー様」

私は手を伸ばしそっとアーサーの両手を取った。ビクッと彼の肩が揺れる。

「結論から申し上げますと、私は離婚に応じません」

「しかし・・・」

「私は貴方から逃げませんし、離れません」

「ローゼ・・・」

「私は貴方を諦めません! 絶対に!」

両手に包んだ彼の手をギュッと握りしめた。

「もちろん、死にたくもありませんわ。それは自分のためだけでなく、アーサー様に重い十字架を背負って生きていくことになって欲しくないから。お義父様たちのように」

お義父様や過去の当主はどれほど苦しんだだろうか。
己の欲の為に愛する人の命を奪ったのだ。無我夢中で貪るように。
化け物と化した自分にどれほど絶望しただろう?
自分の犯した罪を許せず、後を追って自死したいほど苦しんだに違いない。

「私はアーサー様にはそんな思いはさせません。約束しますわ。だから私を傍に置いてください、ね?」

私はアーサーの顔を覗き込んだ。
彼の揺れる瞳から一筋の涙が流れ落ちた。

「一緒に生きていく道を模索しましょう」

「ローゼ・・・、本当に・・・?」

私は大きく頷いた。

「まずはゆっくり私に慣れてくださいね。そこから始めましょう」

「ありがとう・・・。ローゼ・・・、ありがとう・・・。」

男泣きするアーサーを抱きしめたかったが、ここは我慢して握る手に力を込めるだけに留めた。





翌朝、私は久々に朝食を食べにサロンを訪れた。
テーブルには既にアーサーが座っており、朝食を食べていた。

「おはようございます。アーサー様」

にっこりと微笑んで挨拶する私に、アーサーはビックリした顔をして固まっている。
何でそんなに驚く? 

「え? もしかしてお邪魔でした??」

「ち、違う!」

アーサーは慌てたように立ち上がると、フイっと顔を背けた。

「その・・・、来てくれるとは思わなくて・・・」

モジモジとした感じが、長身で凛とした彼に似つかわしくなく、思わず口元が緩んでしまう。

「あら? どうしてですか? 昨日やっと理解し合ったというのに?」

マイクに引かれた椅子に座りながら、わざと首を傾げて見せる。

「そうだが・・・」

アーサーはコホンと軽く咳払いして座り直すと、チラリと私を見た。

「貴女と共に食事をしなくなってかなり経つから・・・」

「まあ、そんな嫌味をおっしゃるなんて。意地悪だわ、アーサー様ったら」

ふふふと笑って見せると、アーサーの顔がパッと赤くなった。

「ねえ? そう思わない? マイク」

私の前に皿を置いたマイクに話しかける。

「旦那様は少々素直でないところがございますので」

満面の笑みを浮かべて私を見る執事の瞳の端にはキラリと光るものがある。
あれ? 涙ぐんでるわ。ごめんね。今まで心配かけて。

「ふふふ。ですって。アーサー様」

アーサーに振り向くと、彼は片手で口元を押さえ、横を向いていた。
だが、ゆっくりと私の方へ視線を戻すと、

「貴女には敵わない・・・」

手を降ろし、フッと微笑んだ。
その笑顔はとても柔らかかった。


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