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11.お誘い
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私は会場から抜け出し、人気のいないバルコニーで一人、手すりに寄り掛り、夜空を見上げていた。
「今日は三日月ね・・・、細・・・」
通常の三日月よりもずっと細い。明日は新月かな?
そんなことを思いながら呆けていると、背後から声が掛かった。
驚いて振り向くと、本日の主役のクロードが立っていた。
「クロード様・・・?」
なぜ、彼がこんなところに・・・?
私は首を傾げた。来客の挨拶に疲れたとしても一休みするには早すぎるでしょう?
「すいません。夫人がバルコニーに出たのを見かけたので、つい・・・」
彼は気まずそうに俯いた。
「その・・・。先ほどの無礼を謝りたいと思いまして・・・」
あ~、こいつ、顔を逸らしたことを一応悪いと思ってるんだ? ホント、失礼しちゃうわよ。いきなり顔を逸らすなんて。
『こちらこそ不細工晒して悪うございましたねぇ!』
と言ってやりたいが我慢。
ここは大人の対応を。私の方が10歳も年上・・・、いや違った、2つも年上なんだから。
「何のことでしょうか?」
私は気が付かなかった体を装い、にっこりと微笑んだ。
クロードは私の笑顔を見ると、またフイっと顔を逸らした。
・・・って、おい・・・。あんた、その態度を謝ろうとしたんじゃないの? なに同じ態度取ってんの? そんなに私の顔を見たくないならわざわざ来なきゃいいじゃない!
キーっと歯ぎしりしそうになった時、
「その・・・、貴女がいつもと雰囲気が違って・・・」
彼は恥ずかしそうに頭を掻いた。
は・・・?
「いつも美しい方だと思っていましたけど・・・、その・・・、今日はあまりにも可愛らしくて・・・。眩しくて顔を逸らしてしまいました」
「・・・」
私は想定外の彼の言葉に、あんぐりと口を開けてしまった。
クロードは言ってしまった気恥ずかしさからか、片手で口を覆い、横を向いている。
これはどう返せばいいんだ?
仮にも人妻。こんな告白めいた言葉、まともに受けては不味くないか?
「まあ! お褒めに預かって光栄ですわ。いつもと嗜好を変えてみたので、そのように褒めて頂いて素直に嬉しいです」
とりあえず、気にしないよう平静を装い、サラッとお礼を述べた。
しかし、振り向いたクロードの顔は薄暗い中でも何となく熱を持っているのが分かり、私は焦りを感じた。
「ローゼ様・・・」
クロードがこちらに一歩近づいてきた。私は思わず、一歩下がった。
「こ、このドレスはアーサー様からの贈り物で、大変気に入っておりますの! なので、似合っているという言葉が一番嬉しく思いますわ!」
『アーサーからの贈り物』という言葉に、クロードの顔が変わった。冷静さを取り戻したようだ。
「そうですか。アーサー様から・・・」
「ええ! アーサー様から!」
私は大きく頷いた。そして、ちょっと頭の後ろを見せて、髪飾りを指差した。
「この髪飾りもアーサー様から頂きましたのよ! 可愛らしいでしょう? 私のお気に入りなんです!」
得意気に自慢する真似をしてみたが、そんな私見てクロードはフッとどこか意味ありげに笑った。
「・・・そうですね。とても可愛らしい。貴女に良く似合っています」
「あはは・・・。ありがとうございます・・・」
「・・・」
「・・・」
気まずい沈黙が流れる。
どうしよう・・・。何か話題はないかしら? この空気を変えないと・・・。
焦る私よりも先にクロードが口を開いた。
「私の杞憂だったようですね」
「へ?」
「貴女とアーサー様との仲です。いろいろと・・・噂を耳にしましたから・・・」
「・・・っ!」
私は言葉に詰まった。
そりゃ、噂になっているでしょうね。毎回、夜会であれだけぞんざいな扱いを受けていれば・・・。嫌われていることなんか世間にバレバレだわ。
だからと言って、ここで『はい、そうです』と答えるのは私の自尊心が許さないし、何よりも立場的にNGだ。
ましてや、目の前で少し色香を漂わせている男には絶対に言ってはいけない。
「私は噂を存じ上げないので、何とも・・・」
「でも、ここで寂しく一人でいるのは、強ちすべて杞憂ではないと思うのですが」
私の言葉を遮ってクロードはさらに一歩近づいてきたと思ったら、優雅にお辞儀をした。
「ローゼ様。私と一曲踊って頂けませんか?」
そう言って、恭しく私に手を差し出した。
「今日は三日月ね・・・、細・・・」
通常の三日月よりもずっと細い。明日は新月かな?
そんなことを思いながら呆けていると、背後から声が掛かった。
驚いて振り向くと、本日の主役のクロードが立っていた。
「クロード様・・・?」
なぜ、彼がこんなところに・・・?
私は首を傾げた。来客の挨拶に疲れたとしても一休みするには早すぎるでしょう?
「すいません。夫人がバルコニーに出たのを見かけたので、つい・・・」
彼は気まずそうに俯いた。
「その・・・。先ほどの無礼を謝りたいと思いまして・・・」
あ~、こいつ、顔を逸らしたことを一応悪いと思ってるんだ? ホント、失礼しちゃうわよ。いきなり顔を逸らすなんて。
『こちらこそ不細工晒して悪うございましたねぇ!』
と言ってやりたいが我慢。
ここは大人の対応を。私の方が10歳も年上・・・、いや違った、2つも年上なんだから。
「何のことでしょうか?」
私は気が付かなかった体を装い、にっこりと微笑んだ。
クロードは私の笑顔を見ると、またフイっと顔を逸らした。
・・・って、おい・・・。あんた、その態度を謝ろうとしたんじゃないの? なに同じ態度取ってんの? そんなに私の顔を見たくないならわざわざ来なきゃいいじゃない!
キーっと歯ぎしりしそうになった時、
「その・・・、貴女がいつもと雰囲気が違って・・・」
彼は恥ずかしそうに頭を掻いた。
は・・・?
「いつも美しい方だと思っていましたけど・・・、その・・・、今日はあまりにも可愛らしくて・・・。眩しくて顔を逸らしてしまいました」
「・・・」
私は想定外の彼の言葉に、あんぐりと口を開けてしまった。
クロードは言ってしまった気恥ずかしさからか、片手で口を覆い、横を向いている。
これはどう返せばいいんだ?
仮にも人妻。こんな告白めいた言葉、まともに受けては不味くないか?
「まあ! お褒めに預かって光栄ですわ。いつもと嗜好を変えてみたので、そのように褒めて頂いて素直に嬉しいです」
とりあえず、気にしないよう平静を装い、サラッとお礼を述べた。
しかし、振り向いたクロードの顔は薄暗い中でも何となく熱を持っているのが分かり、私は焦りを感じた。
「ローゼ様・・・」
クロードがこちらに一歩近づいてきた。私は思わず、一歩下がった。
「こ、このドレスはアーサー様からの贈り物で、大変気に入っておりますの! なので、似合っているという言葉が一番嬉しく思いますわ!」
『アーサーからの贈り物』という言葉に、クロードの顔が変わった。冷静さを取り戻したようだ。
「そうですか。アーサー様から・・・」
「ええ! アーサー様から!」
私は大きく頷いた。そして、ちょっと頭の後ろを見せて、髪飾りを指差した。
「この髪飾りもアーサー様から頂きましたのよ! 可愛らしいでしょう? 私のお気に入りなんです!」
得意気に自慢する真似をしてみたが、そんな私見てクロードはフッとどこか意味ありげに笑った。
「・・・そうですね。とても可愛らしい。貴女に良く似合っています」
「あはは・・・。ありがとうございます・・・」
「・・・」
「・・・」
気まずい沈黙が流れる。
どうしよう・・・。何か話題はないかしら? この空気を変えないと・・・。
焦る私よりも先にクロードが口を開いた。
「私の杞憂だったようですね」
「へ?」
「貴女とアーサー様との仲です。いろいろと・・・噂を耳にしましたから・・・」
「・・・っ!」
私は言葉に詰まった。
そりゃ、噂になっているでしょうね。毎回、夜会であれだけぞんざいな扱いを受けていれば・・・。嫌われていることなんか世間にバレバレだわ。
だからと言って、ここで『はい、そうです』と答えるのは私の自尊心が許さないし、何よりも立場的にNGだ。
ましてや、目の前で少し色香を漂わせている男には絶対に言ってはいけない。
「私は噂を存じ上げないので、何とも・・・」
「でも、ここで寂しく一人でいるのは、強ちすべて杞憂ではないと思うのですが」
私の言葉を遮ってクロードはさらに一歩近づいてきたと思ったら、優雅にお辞儀をした。
「ローゼ様。私と一曲踊って頂けませんか?」
そう言って、恭しく私に手を差し出した。
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