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4.消えた恋心
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医者に診察してもらった後、軽く食事を取ると、再びベッドに横になった。
医者からも体調は問題ないと言われ、しっかりと食欲のある私を見て、父も母も安堵したようだ。私にしっかり休むように言うと部屋から出て行った。
マリアンヌも下がり、再び部屋には誰もいなくなると、私はムクリと起き上がり、ベッドから這い出た。
そして、鏡の前に立った。
「ローゼはなかなかどうして、可愛い顔をしているじゃないの」
自分の頬を摩り、鏡に見入る。
見慣れている自分の顔なのに、他人のお嬢さんを見るような気持で冷静に評価できる自分がいる。
こんな可愛い娘でも愛せないと堂々と言ってのけるアーサー。奴は一体何様だ?
奴のこの上ないほどの上からな態度に、今更ながら怒りを覚える。
まあ、確かに高身長で、ローゼが一目ぼれしたほどのお顔の持ち主だ。ハンサムであるのは認めよう。
だが、それはローゼの趣味。前世の私はさして面食いではない。
もちろん私はローゼであり、彼女の心も記憶もしっかり持っている。なのに、今は思い出した前世の記憶や思考の方が強く、現在の私のかなりの部分を占めているようだ。
ローゼの失恋による絶望と前世の私の好みと相まってか、アーサーに対する恋心は完全とはいかないまでも八割、いや九割ほど無くなっている気がする。
とは言っても、嫁に行くことは覆せない。
「愛されたいという期待も希望も気持ちもぜーんぶ捨ていこう。もう愛されなくたってどうでもいい。こうなったら軽い気持ちで嫁に行こう。深く考えないほうがいいわ」
貴族社会に生まれた以上、政略結婚が当たり前。自分の意思など無いようなもの。
立派な家に嫁ぎ、その家との繋がりを確固たるものにして、家の安泰を図ることが使命。
「そうよ、親孝行の為に嫁に行こう」
この世界では行かず後家が一番親不孝だ。
ああ、でも、それは前世でも多少通じるものがあるかな?
『いつまでお嫁に行かないつもり?』なんておばあちゃんに言われてたなあ・・・。
お母さんは『今時、まだまだ28なんて早いわよ~』なんて応戦してくれてたけど。
お父さんも笑って頷いていたけど、本当は孫を見たかっただろうなあ。
前世のお父さん、お母さん。
私、一応嫁には行けそうです。幸せになるかどうかは分かりませんが・・・。
愛されなくても、せめて現世のお父様とお母様に孫を抱かせられるように頑張りますね。
★
そして迎えた結婚式当日。
天までも私たちを祝福しているのかと思うほどの晴天に恵まれ、美しく厳かな教会で私たちの結婚式が行われた。
恋焦がれた婚約者からこの先愛さないと宣言されたローゼ。
ローゼだけの記憶しかなかったら、絶望の中、この場をどう乗り切ったか分からない。
でも、幸いにして今の私は八割前世の私で出来ている。
美しく綺麗に化粧を施され、清楚でありながら可憐なウエディングドレスに身を包み、気持ちは高揚していた。
自分で言うのもなんだが、ウエディング雑誌の表紙を飾ってもおかしくないと思うほどの美しい出来栄えに、もう気持ちは上がりまくり、お相手のアーサーに嫌われていることなど頭から抜けていた。
聖堂の扉が開き、バージンロードが目に入る。
窓から明るい光が差し込み、ロード脇を美しく飾り立てた花々が輝いている。
父の腕を取り、厳かなバージンロードをゆっくり歩く。私を見る招待客から感嘆の溜息が聞こえる。美しさを称えるその溜息に、私のボルテージは最高潮に達した。
その奥には愛おしい新郎が待っている。
逆光に照らされ、彼の顔は見えない。でも、幸福絶頂にいる私はそんなこと気にならなかった。
神父の祝福を受け、誓いの言葉の後、初めて彼と向かい合った時になって、やっと現実に引き戻された。
そして、私はここで、完全にアーサーに対する恋心は消えた。
なぜなら、神の前での誓いのキス。
本来ならば唇に口づけなはずなのに、なんと、奴はでこちゅーをしてきたのだ!
唖然とする私。そして、見逃さなかった奴のその後の仕草。
自分の唇を拭ったのだ。まるで汚いものにでも触れたかのように。
それを見た時、私の中でザザザーっと波音を立てて何かが引いて行った。
僅かに残っていた恋心はその引き波に攫われ、どこかへ消えてしまった。
ここで私は確信する。
ここまで触れるのを嫌がるほど私を嫌いなのであれば、これはきっと「白い結婚」になると。
そして、世継ぎに恵まれない私は非難され、上手く離縁を迫られることになるだろうと。
その時、絶対に泣き寝入りなどするものか!
子供のできない欠陥女というレッテルを貼られないように、「白い結婚」を大々的に暴露してやる! どうせ他に愛人を作るだろうから、徹底的に不貞を暴いてやる!
そうしてガッツリ慰謝料もぎ取ってやる!
私はそう心に誓い、目の奥にメラメラと炎を燃やしながら、新郎の腕を取り、フラワーシャワーの中を歩いていた。
医者からも体調は問題ないと言われ、しっかりと食欲のある私を見て、父も母も安堵したようだ。私にしっかり休むように言うと部屋から出て行った。
マリアンヌも下がり、再び部屋には誰もいなくなると、私はムクリと起き上がり、ベッドから這い出た。
そして、鏡の前に立った。
「ローゼはなかなかどうして、可愛い顔をしているじゃないの」
自分の頬を摩り、鏡に見入る。
見慣れている自分の顔なのに、他人のお嬢さんを見るような気持で冷静に評価できる自分がいる。
こんな可愛い娘でも愛せないと堂々と言ってのけるアーサー。奴は一体何様だ?
奴のこの上ないほどの上からな態度に、今更ながら怒りを覚える。
まあ、確かに高身長で、ローゼが一目ぼれしたほどのお顔の持ち主だ。ハンサムであるのは認めよう。
だが、それはローゼの趣味。前世の私はさして面食いではない。
もちろん私はローゼであり、彼女の心も記憶もしっかり持っている。なのに、今は思い出した前世の記憶や思考の方が強く、現在の私のかなりの部分を占めているようだ。
ローゼの失恋による絶望と前世の私の好みと相まってか、アーサーに対する恋心は完全とはいかないまでも八割、いや九割ほど無くなっている気がする。
とは言っても、嫁に行くことは覆せない。
「愛されたいという期待も希望も気持ちもぜーんぶ捨ていこう。もう愛されなくたってどうでもいい。こうなったら軽い気持ちで嫁に行こう。深く考えないほうがいいわ」
貴族社会に生まれた以上、政略結婚が当たり前。自分の意思など無いようなもの。
立派な家に嫁ぎ、その家との繋がりを確固たるものにして、家の安泰を図ることが使命。
「そうよ、親孝行の為に嫁に行こう」
この世界では行かず後家が一番親不孝だ。
ああ、でも、それは前世でも多少通じるものがあるかな?
『いつまでお嫁に行かないつもり?』なんておばあちゃんに言われてたなあ・・・。
お母さんは『今時、まだまだ28なんて早いわよ~』なんて応戦してくれてたけど。
お父さんも笑って頷いていたけど、本当は孫を見たかっただろうなあ。
前世のお父さん、お母さん。
私、一応嫁には行けそうです。幸せになるかどうかは分かりませんが・・・。
愛されなくても、せめて現世のお父様とお母様に孫を抱かせられるように頑張りますね。
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恋焦がれた婚約者からこの先愛さないと宣言されたローゼ。
ローゼだけの記憶しかなかったら、絶望の中、この場をどう乗り切ったか分からない。
でも、幸いにして今の私は八割前世の私で出来ている。
美しく綺麗に化粧を施され、清楚でありながら可憐なウエディングドレスに身を包み、気持ちは高揚していた。
自分で言うのもなんだが、ウエディング雑誌の表紙を飾ってもおかしくないと思うほどの美しい出来栄えに、もう気持ちは上がりまくり、お相手のアーサーに嫌われていることなど頭から抜けていた。
聖堂の扉が開き、バージンロードが目に入る。
窓から明るい光が差し込み、ロード脇を美しく飾り立てた花々が輝いている。
父の腕を取り、厳かなバージンロードをゆっくり歩く。私を見る招待客から感嘆の溜息が聞こえる。美しさを称えるその溜息に、私のボルテージは最高潮に達した。
その奥には愛おしい新郎が待っている。
逆光に照らされ、彼の顔は見えない。でも、幸福絶頂にいる私はそんなこと気にならなかった。
神父の祝福を受け、誓いの言葉の後、初めて彼と向かい合った時になって、やっと現実に引き戻された。
そして、私はここで、完全にアーサーに対する恋心は消えた。
なぜなら、神の前での誓いのキス。
本来ならば唇に口づけなはずなのに、なんと、奴はでこちゅーをしてきたのだ!
唖然とする私。そして、見逃さなかった奴のその後の仕草。
自分の唇を拭ったのだ。まるで汚いものにでも触れたかのように。
それを見た時、私の中でザザザーっと波音を立てて何かが引いて行った。
僅かに残っていた恋心はその引き波に攫われ、どこかへ消えてしまった。
ここで私は確信する。
ここまで触れるのを嫌がるほど私を嫌いなのであれば、これはきっと「白い結婚」になると。
そして、世継ぎに恵まれない私は非難され、上手く離縁を迫られることになるだろうと。
その時、絶対に泣き寝入りなどするものか!
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そうしてガッツリ慰謝料もぎ取ってやる!
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