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セレスト12歳。
番外 ① 犬猿の仲?/敗残兵と戦死者
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【犬猿の仲?】
「…何て読むのこの文字。モグラ?」
潜良の漢字を見て、読めなかった白辺がそう口にしたのが全ての始まりだった。これは潜良の生きてきた中では、初対面の印象としては最悪の部類に入る。
そしてその後ちゃんと潜良は訂正したにもかかわらず、白辺は潜良のことをモグラと呼び続けたし、そのせいですっかり十二騎士団の中で浸透してしまって訂正すら億劫になってしまった。そんなこともあって、潜良は白辺のことを苦手に思っていた。
それは傍から見ても顕著で、二人とも潜入、調査という仕事上必ず関わらないといけない関係なため関係を絶つことこそ叶わなかったが、プライベートでは決して視界に入らないという徹底ぶりだ。あの二人は仲が悪いのだと、一般兵たちにも知られているほど有名であった。
しかしその関係が変わったのは、とある若者…蒼が騎士団に入ってきてからだった。
「え、私が教育係に…ですか」
潜良は目の前の王と情佐から告げられた言葉に目を丸くした。
「そうさ。数年ぶりの新しい隊長入りだからね。暗殺の部隊になるわけだし、将来関わることの多い君とは親しくなっておいて損は無いだろう?」
「それは…そう、ですね」
王の命令なのだから素直に受け入れれば良いのだが、潜良は多少不安があった。それは、一番の新入りである自分が果たして人を指導するに足りる存在なのかということだ。
貴族育ちの自分は昔から価値観がどこか人とズレているとはよく言われていた。それに、部下以外に教育などしたことも無いため不安だ。
素直にその旨を王に伝えると「お主は充分やってくれている。大丈夫だ、それに蒼はそんなに手に余る者では無いよ」と言ってくださったのだった。
そうして教育係として、少し前に入った先輩として。潜良は蒼という青年と初対面を果たした。
「蒼です。よろしくお願いします」
「…潜良です。あなたの教育係になりました。何かわからないことがあればすぐに聞いてくださいね」
自己紹介をすると、蒼は少し首を傾げる。その首あたりまで伸びた緑の髪がフワリと揺れた。
「…センラ、さん?」
「どうかしましたか?」
「…いや…てっきりあなたの名前はモグラだとおもっていたので…」
騎士団の方々がみんなそう呼んでいたので、てっきり。
それを聞いて潜良はガクッと項垂れる。それに驚いたように蒼が一歩後ろに下がった。
「…それは、勝手に呼ばれている…あだ名のようなものです。本名はこちらなので、ぜひこちらで呼んで頂きたく」
「は、はい。分かりました」
多少呆れを滲ませた潜良の声に蒼は驚いた様子だったが、深く聞くことはせず素直に受け入れた。
こうして、騎士団隊長の中で唯一潜良のことをセンラと呼んでくれる人間が生まれたのだった。
そして、しばらくしてお互い中が深まった頃。そのあだ名の経緯を話す機会があった。潜良は白辺のことをチクチクいいながら伝えたつもりであったが、蒼から帰ってきたセリフは予想外のもので。潜良は思わず飲み物を飲む手を止めた。
「…でも僕は最初、いい名前だなって思ったんだけどね。潜入調査をする人間にモグラという名前がついていたものだから、なんてぴったりな名前なんだろうって」
…単純なことだが、潜良はその言葉をきっかけに、少しだけ白辺への見方が変わった。
(確かに、初めは彼にも悪気はなかったわけで。勝手に苦手意識で避けていたけれど、決して悪い人間では無い)
彼はその育ちゆえか明るい性格からか、国民たちとも距離が近く、多くの人に慕われている。
そして貴族出身の自分が、平民から選ばれた彼と価値観が合わないのは至極当然のことなのではないか、と思うようになったのだ。
潜良は蒼を教育する過程で、彼のそういう素直なところに触れることで、自身も精神的に成長していった。
「…シラべ。」
「…っ!?なに、珍しーじゃんそっちから声掛けてくんの」
そうしてしばしの逡巡の後、シラべともう少し距離を詰めてみるべきかと思ったセンラは、任務帰りのシラべを捕まえてこう誘った。
「共に。お茶会でもしませんか」
…この決死のお誘いが後にシラべに「仲良くなるきっかけがアフタヌーンティーって!さすがにお貴族様すぎるだろ!」と笑われ一生ネタにされることとなったのだが。
飲みの席でそんな話が出来るくらいには、彼らはすっかり仲が良くなったのだった。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□
【敗残兵と戦死者】
「シラべさんって、なんだかお兄ちゃんみたいだ」
セレストに色んな部屋を案内してる中言われた言葉に、白辺は一瞬驚いて足を止めた。その後にんまりと笑ってセレストの頭を撫でる。
「んはは。ボク、こう見えて結構歳上だよ?蒼はもちろん、モグラよりもオニーサンなんだから」
「えっそうなの?」
「そうそう。ボク実は騎士団の中でも結構年上組なんだよ」
シラべは幼少期満足に栄養を取れなかったことから、その身長はほかよりも低い。そしてノリが若いため勘違いされやすいが、実は20代前半が多い騎士団の中ではまあまあ年上の部類に属するのだった。
「だから、アオに頼りにくいこととかあったら年上のボクに頼ってくれてもいいんだからね。」
「うん!じゃあ、何かあったらお願いしますシラべおにーさん!」
「わわ、年上として扱われたの久しぶりすぎ~!いいねえ存分に頼りなさい!」
そうしてわしわしとセレストの頭を撫でてくれるこそばゆさに目を細めつつ、セレストはシラべのこういった気安いところが民に慕われるんだろうなあと思った。
(……やっぱり、もしかして。)
……セレストは思い出す。
センラ達よりも年上だという話を聞いて、自分がかつて騎士団をめざしていたかつての戦争で、自分と同じ隊長候補生の中にいくつか年上の白の髪色をした候補生がいたことを。
(ああ、この人。ちゃんと…生き残ってくれたんだ)
かつての戦争で候補生も見境なく全線に送られていたことを思い出したセレストは……アオは、もしかしたら年の離れた同期となっていたかもしれないその男と、十年以上の年の差を抱えて再会したのだった。
(もしあなたと共に王に仕えていたら、僕達の関係性はどんな風になっていたのかな)
「…何て読むのこの文字。モグラ?」
潜良の漢字を見て、読めなかった白辺がそう口にしたのが全ての始まりだった。これは潜良の生きてきた中では、初対面の印象としては最悪の部類に入る。
そしてその後ちゃんと潜良は訂正したにもかかわらず、白辺は潜良のことをモグラと呼び続けたし、そのせいですっかり十二騎士団の中で浸透してしまって訂正すら億劫になってしまった。そんなこともあって、潜良は白辺のことを苦手に思っていた。
それは傍から見ても顕著で、二人とも潜入、調査という仕事上必ず関わらないといけない関係なため関係を絶つことこそ叶わなかったが、プライベートでは決して視界に入らないという徹底ぶりだ。あの二人は仲が悪いのだと、一般兵たちにも知られているほど有名であった。
しかしその関係が変わったのは、とある若者…蒼が騎士団に入ってきてからだった。
「え、私が教育係に…ですか」
潜良は目の前の王と情佐から告げられた言葉に目を丸くした。
「そうさ。数年ぶりの新しい隊長入りだからね。暗殺の部隊になるわけだし、将来関わることの多い君とは親しくなっておいて損は無いだろう?」
「それは…そう、ですね」
王の命令なのだから素直に受け入れれば良いのだが、潜良は多少不安があった。それは、一番の新入りである自分が果たして人を指導するに足りる存在なのかということだ。
貴族育ちの自分は昔から価値観がどこか人とズレているとはよく言われていた。それに、部下以外に教育などしたことも無いため不安だ。
素直にその旨を王に伝えると「お主は充分やってくれている。大丈夫だ、それに蒼はそんなに手に余る者では無いよ」と言ってくださったのだった。
そうして教育係として、少し前に入った先輩として。潜良は蒼という青年と初対面を果たした。
「蒼です。よろしくお願いします」
「…潜良です。あなたの教育係になりました。何かわからないことがあればすぐに聞いてくださいね」
自己紹介をすると、蒼は少し首を傾げる。その首あたりまで伸びた緑の髪がフワリと揺れた。
「…センラ、さん?」
「どうかしましたか?」
「…いや…てっきりあなたの名前はモグラだとおもっていたので…」
騎士団の方々がみんなそう呼んでいたので、てっきり。
それを聞いて潜良はガクッと項垂れる。それに驚いたように蒼が一歩後ろに下がった。
「…それは、勝手に呼ばれている…あだ名のようなものです。本名はこちらなので、ぜひこちらで呼んで頂きたく」
「は、はい。分かりました」
多少呆れを滲ませた潜良の声に蒼は驚いた様子だったが、深く聞くことはせず素直に受け入れた。
こうして、騎士団隊長の中で唯一潜良のことをセンラと呼んでくれる人間が生まれたのだった。
そして、しばらくしてお互い中が深まった頃。そのあだ名の経緯を話す機会があった。潜良は白辺のことをチクチクいいながら伝えたつもりであったが、蒼から帰ってきたセリフは予想外のもので。潜良は思わず飲み物を飲む手を止めた。
「…でも僕は最初、いい名前だなって思ったんだけどね。潜入調査をする人間にモグラという名前がついていたものだから、なんてぴったりな名前なんだろうって」
…単純なことだが、潜良はその言葉をきっかけに、少しだけ白辺への見方が変わった。
(確かに、初めは彼にも悪気はなかったわけで。勝手に苦手意識で避けていたけれど、決して悪い人間では無い)
彼はその育ちゆえか明るい性格からか、国民たちとも距離が近く、多くの人に慕われている。
そして貴族出身の自分が、平民から選ばれた彼と価値観が合わないのは至極当然のことなのではないか、と思うようになったのだ。
潜良は蒼を教育する過程で、彼のそういう素直なところに触れることで、自身も精神的に成長していった。
「…シラべ。」
「…っ!?なに、珍しーじゃんそっちから声掛けてくんの」
そうしてしばしの逡巡の後、シラべともう少し距離を詰めてみるべきかと思ったセンラは、任務帰りのシラべを捕まえてこう誘った。
「共に。お茶会でもしませんか」
…この決死のお誘いが後にシラべに「仲良くなるきっかけがアフタヌーンティーって!さすがにお貴族様すぎるだろ!」と笑われ一生ネタにされることとなったのだが。
飲みの席でそんな話が出来るくらいには、彼らはすっかり仲が良くなったのだった。
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【敗残兵と戦死者】
「シラべさんって、なんだかお兄ちゃんみたいだ」
セレストに色んな部屋を案内してる中言われた言葉に、白辺は一瞬驚いて足を止めた。その後にんまりと笑ってセレストの頭を撫でる。
「んはは。ボク、こう見えて結構歳上だよ?蒼はもちろん、モグラよりもオニーサンなんだから」
「えっそうなの?」
「そうそう。ボク実は騎士団の中でも結構年上組なんだよ」
シラべは幼少期満足に栄養を取れなかったことから、その身長はほかよりも低い。そしてノリが若いため勘違いされやすいが、実は20代前半が多い騎士団の中ではまあまあ年上の部類に属するのだった。
「だから、アオに頼りにくいこととかあったら年上のボクに頼ってくれてもいいんだからね。」
「うん!じゃあ、何かあったらお願いしますシラべおにーさん!」
「わわ、年上として扱われたの久しぶりすぎ~!いいねえ存分に頼りなさい!」
そうしてわしわしとセレストの頭を撫でてくれるこそばゆさに目を細めつつ、セレストはシラべのこういった気安いところが民に慕われるんだろうなあと思った。
(……やっぱり、もしかして。)
……セレストは思い出す。
センラ達よりも年上だという話を聞いて、自分がかつて騎士団をめざしていたかつての戦争で、自分と同じ隊長候補生の中にいくつか年上の白の髪色をした候補生がいたことを。
(ああ、この人。ちゃんと…生き残ってくれたんだ)
かつての戦争で候補生も見境なく全線に送られていたことを思い出したセレストは……アオは、もしかしたら年の離れた同期となっていたかもしれないその男と、十年以上の年の差を抱えて再会したのだった。
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