親友のフリして生きていたらその親友が転生してきたので自分の手で育てることにしました

冷涼スグリ

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セレスト12歳。

24 心が読める腕輪【後編】

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「あれ、セレスト遅かったな。今日は見回りだけじゃなかったっけ」
「ごめんね、ちょっと寄り道してたら遅くなっちゃったんだ」

『セレストが道草を食うなんて珍しいこともあるもんだなあ』

(やっぱり…蒼の声が聴こえるのに、口は動いてない…)

つまり、この呪具は本物で…今自分は己に向けられた感情を全部知ることが出来てしまうというわけだ。これはとんでもないものを手に入れてしまったと、額に汗が流れた。

「セレスト、今日のごはん何にする?確か魚が余ってた気がするからそれでいいか?」

良かったところと言えば己に向けられた感情のみしか分からないという点だろうか。もしこれで無差別に周りの人間の心の声が聞こえて来たりしたらさすがに精神的に参ってしまうだろう。

それにしても心の声と本人の発言を聞き間違えて返事してしまいそうでそれだけが唯一不安だ。この呪具は悪用されればきっと良くない効果を及ぼす。だから無闇矢鱈に人に話さない方がいい。それに蒼に知られるのはもっての外、蒼が何を考えてるのか気になってつけているのに間違っても本人には知られちゃいけない。それにこれを持ってる事で僕にやましい事情があると疑われたりでもしたら……

「おーい、セレスト?聞いてたか?」
「…え、あごめん、もう一回言ってもらえる?聞いてなかった」

いけないいけない、考え込むと周りが見れなくなるのは僕の悪い癖だ。

『どうしたんだろう。さっきから様子がおかしいけど調子でも悪いのかな。』

「いや、だから今日の晩御飯どうする?って。魚でいいか?」
「ああ、うん。蒼の作るご飯はなんでも美味しいから楽しみだよ。」
「はいはい。世辞はいいよ」
「もう、お世辞じゃないってば!」

蒼ってば昔から本当に自己評価が低いんだから。本心で言ってるのに伝わらないもどかしさにぷくっと頬を膨らまして抗議してみるが「はいはいかわいいかわいい」と適当にいなされて終わった。

『良かった、元気そうだ』

そんな、ただの昔のような気心の知れたやり取りでしかないはずなのに。
心の声はあまりにも優しい声音でそういうものだから、思わず動揺してがくりと姿勢を乱してしまった。

『おいっ!?やっぱり体調悪いのか!?』

「おいお前、ちょっと休んだ方がいいんじゃ…」
「いやいや別になんともないから!体調悪い訳じゃなくて今のはその…とにかく、なんでもないから!ほら、僕も手伝うからご飯作ろ?」
「おい押すなって!」

『本当に大丈夫なのか…?』
「ほんとになんともないから!」




暫くこのまま過ごしてみたが、案外人は対峙して話でもしなければ僕のことなんか考えてないらしく声が二重にかぶって聞き取りづらいことがたまにあるくらいで特に不便なこともなかった。



そもそもどうやら10メートルほど近くにいなければ声は聞こえないらしい。

ただ、そう。僕はまだこの体は12歳であるわけだし、蒼は一応保護者なわけだから基本的には傍から離れることは少ない。それにココ最近は僕単体に寄せられる用事もほとんどなく、蒼の隣の部屋で仕事の手伝いをしていた。そんな中で、もちろん蒼の声はずっと聞こえてくる。
おかしいなと思うだろう。だってこの腕輪は自分に向けられた感情しか分からないはずなんだから。しかし、蒼の声はずっと聞こえてくるのだ。…一人で隣の部屋にいるはずなのに。

このおやつ美味しいな、みたいな一見僕に関係ないことが聞こえてきた時はなんだろうと思ったが、その後に確実に「セレストも喜んでくれるかな」と続く。そんな一連の流れを僕は既に10回以上聞いていた。

『あ、この紅茶美味しい』

蒼の声、本当にずっと聞こえるなあ…
つまり、それはずっと僕のことを考えて過ごしてるって事だ

『後味もスッキリしてて、セレストが好きそう』

後に続いた言葉にもはや苦笑いしか出ない。
本当にセイジ、君ってひとは…

(たまには自分のことも考えてよ!君はほんとになんでも僕に結び付けるんだから…!)


…同じように、自分もずっと相手のことしか考えてないということを、セレストは自覚していなかった。



□□□□□□□


「これはこれは騎士団見習いさん。腕輪は満足いただけましたかね?」
「こ、これは少々自分の手には余るようなので…!お返し致します…!!」

こうして3日間褒め言葉漬けにされたセレストは後にとうとう耐えきれず、顔を真っ赤にして店へ腕輪を返しに来たのだった。

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