親友のフリして生きていたらその親友が転生してきたので自分の手で育てることにしました

冷涼スグリ

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セレスト12歳。

21 こうして彼の記憶は

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廊下の角にある行ったことのない部屋が武器庫であることを知っていた、部屋の本棚にあるいくつかの古い本の内容を覚えていた、飲んだことがなかった紅茶の味を懐かしいと、感じた。
そんな小さな違和感は、積もり積もって。

セレストは夢の中にいた。
いつものように、映画館で映像を見ていた。ただ、今日がいつもと違うのは砂嵐による邪魔が一切入らないことだった。

クルクルとまるで写真のように場面を切りとった映像が断片的に流れる。その映像の中で、視点の主と蒼によく似た少年はどんどん仲を深めていった。

毎日共に食事をして、同じ部屋で寝起きして、組手をして戦略を考えて寝る前には今日あったことを報告して。音声がなくとも、2人が互いを己の半身のように思い始めていることがよくわかった。蒼によく似た少年は、よく笑った。視点の主の隣にいる時の彼は太陽のような笑顔を浮かべてこちらに話しかけていた。

今みたいに優しい微笑みを浮かべてたまに寂しそうに笑う蒼とはまるで別人だった。

くるり。視点が変わる。
目の前には今よりも少し若々しい見た目の王様が居た。こちらに向かって笑いかけ、頭を撫でている。なにやらこの視点主は王様に褒められたらしい。

(王様、今みたいにやつれてない…)

この国は12年前の大敗以前は無敗の国家だったと聞いた。負けてから、王への周辺国からの圧力が強くなったのだと。そのせいで王様は大変気苦労をおわれているのだと。昔の王様はこんなに朗らかに笑う人だったのか。

また暗転。視点が変わる。

今度は、意外なことに何も無かった。
目の前にひろがる蒼天だけが視界に映っていた。

周りには、たくさんの死体。燃える王城。逃げ惑う味方の兵士。
最後に見たのは泣きそうな君の顔とその藍色の…

「ああ、嗚呼…そうだ……」

目が覚めた。

「全部、思い出したよ」


蒼。それは以前の僕の名前。そして今蒼と名乗っている彼の名前は…セイジ。
彼が何を思って自分の名前を名乗って振る舞いを真似ているのかは分からない。けれど、とにかく今は彼に伝えないといけないことがある。

ベッドから布団をはねのけて、蒼の部屋の扉を大きな音を立ててバンッと開いた。中にはぽかんと呆気に取られている蒼。髪を結んでいる途中だったのだろうか、髪ゴムを手に持って朝の支度をしている姿があった。

「どうしたんだよセレスト、そんなに慌てて…」
「アオ!…いや、セイジ…!」
「ん、な……んでその名前……」

彼は理解しきれない様子で、顔を驚愕に染めてこちらをみてくる。
その目をよく見ようと顔を近づけると、彼の震えた手が僕の頬に触れた。

彼に僕もまた手を伸ばす。その勢のまま抱きついて、首筋に顔を埋めた。

「セイジ、長い間待たせてごめんね」
「あ、お……?」

泣きそうに顔をくしゃりと歪めた彼はその目から大粒の涙を流し、こう言った。


「何年待ったと思ってるんだ、バカ…!」

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