22 / 27
セレスト12歳。
21 こうして彼の記憶は
しおりを挟む
廊下の角にある行ったことのない部屋が武器庫であることを知っていた、部屋の本棚にあるいくつかの古い本の内容を覚えていた、飲んだことがなかった紅茶の味を懐かしいと、感じた。
そんな小さな違和感は、積もり積もって。
セレストは夢の中にいた。
いつものように、映画館で映像を見ていた。ただ、今日がいつもと違うのは砂嵐による邪魔が一切入らないことだった。
クルクルとまるで写真のように場面を切りとった映像が断片的に流れる。その映像の中で、視点の主と蒼によく似た少年はどんどん仲を深めていった。
毎日共に食事をして、同じ部屋で寝起きして、組手をして戦略を考えて寝る前には今日あったことを報告して。音声がなくとも、2人が互いを己の半身のように思い始めていることがよくわかった。蒼によく似た少年は、よく笑った。視点の主の隣にいる時の彼は太陽のような笑顔を浮かべてこちらに話しかけていた。
今みたいに優しい微笑みを浮かべてたまに寂しそうに笑う蒼とはまるで別人だった。
くるり。視点が変わる。
目の前には今よりも少し若々しい見た目の王様が居た。こちらに向かって笑いかけ、頭を撫でている。なにやらこの視点主は王様に褒められたらしい。
(王様、今みたいにやつれてない…)
この国は12年前の大敗以前は無敗の国家だったと聞いた。負けてから、王への周辺国からの圧力が強くなったのだと。そのせいで王様は大変気苦労をおわれているのだと。昔の王様はこんなに朗らかに笑う人だったのか。
また暗転。視点が変わる。
今度は、意外なことに何も無かった。
目の前にひろがる蒼天だけが視界に映っていた。
周りには、たくさんの死体。燃える王城。逃げ惑う味方の兵士。
最後に見たのは泣きそうな君の顔とその藍色の…
「ああ、嗚呼…そうだ……」
目が覚めた。
「全部、思い出したよ」
蒼。それは以前の僕の名前。そして今蒼と名乗っている彼の名前は…セイジ。
彼が何を思って自分の名前を名乗って振る舞いを真似ているのかは分からない。けれど、とにかく今は彼に伝えないといけないことがある。
ベッドから布団をはねのけて、蒼の部屋の扉を大きな音を立ててバンッと開いた。中にはぽかんと呆気に取られている蒼。髪を結んでいる途中だったのだろうか、髪ゴムを手に持って朝の支度をしている姿があった。
「どうしたんだよセレスト、そんなに慌てて…」
「アオ!…いや、セイジ…!」
「ん、な……んでその名前……」
彼は理解しきれない様子で、顔を驚愕に染めてこちらをみてくる。
その目をよく見ようと顔を近づけると、彼の震えた手が僕の頬に触れた。
彼に僕もまた手を伸ばす。その勢のまま抱きついて、首筋に顔を埋めた。
「セイジ、長い間待たせてごめんね」
「あ、お……?」
泣きそうに顔をくしゃりと歪めた彼はその目から大粒の涙を流し、こう言った。
「何年待ったと思ってるんだ、バカ…!」
そんな小さな違和感は、積もり積もって。
セレストは夢の中にいた。
いつものように、映画館で映像を見ていた。ただ、今日がいつもと違うのは砂嵐による邪魔が一切入らないことだった。
クルクルとまるで写真のように場面を切りとった映像が断片的に流れる。その映像の中で、視点の主と蒼によく似た少年はどんどん仲を深めていった。
毎日共に食事をして、同じ部屋で寝起きして、組手をして戦略を考えて寝る前には今日あったことを報告して。音声がなくとも、2人が互いを己の半身のように思い始めていることがよくわかった。蒼によく似た少年は、よく笑った。視点の主の隣にいる時の彼は太陽のような笑顔を浮かべてこちらに話しかけていた。
今みたいに優しい微笑みを浮かべてたまに寂しそうに笑う蒼とはまるで別人だった。
くるり。視点が変わる。
目の前には今よりも少し若々しい見た目の王様が居た。こちらに向かって笑いかけ、頭を撫でている。なにやらこの視点主は王様に褒められたらしい。
(王様、今みたいにやつれてない…)
この国は12年前の大敗以前は無敗の国家だったと聞いた。負けてから、王への周辺国からの圧力が強くなったのだと。そのせいで王様は大変気苦労をおわれているのだと。昔の王様はこんなに朗らかに笑う人だったのか。
また暗転。視点が変わる。
今度は、意外なことに何も無かった。
目の前にひろがる蒼天だけが視界に映っていた。
周りには、たくさんの死体。燃える王城。逃げ惑う味方の兵士。
最後に見たのは泣きそうな君の顔とその藍色の…
「ああ、嗚呼…そうだ……」
目が覚めた。
「全部、思い出したよ」
蒼。それは以前の僕の名前。そして今蒼と名乗っている彼の名前は…セイジ。
彼が何を思って自分の名前を名乗って振る舞いを真似ているのかは分からない。けれど、とにかく今は彼に伝えないといけないことがある。
ベッドから布団をはねのけて、蒼の部屋の扉を大きな音を立ててバンッと開いた。中にはぽかんと呆気に取られている蒼。髪を結んでいる途中だったのだろうか、髪ゴムを手に持って朝の支度をしている姿があった。
「どうしたんだよセレスト、そんなに慌てて…」
「アオ!…いや、セイジ…!」
「ん、な……んでその名前……」
彼は理解しきれない様子で、顔を驚愕に染めてこちらをみてくる。
その目をよく見ようと顔を近づけると、彼の震えた手が僕の頬に触れた。
彼に僕もまた手を伸ばす。その勢のまま抱きついて、首筋に顔を埋めた。
「セイジ、長い間待たせてごめんね」
「あ、お……?」
泣きそうに顔をくしゃりと歪めた彼はその目から大粒の涙を流し、こう言った。
「何年待ったと思ってるんだ、バカ…!」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……
おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?!
ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。
凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま

王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる