21 / 27
セレスト12歳。
20 紅茶に揺れる記憶
しおりを挟む
カンカン、ガチャガチャ、トントン、何かを貼る音ちぎる音。その部屋の中では今日の朝からずっと今に至るまで、様々な音が鳴り響いていた。
不意に一つの音が止む。作業を中断したシラべは額に滲んだ汗を袖で拭い、ふう、と息をついた。
「よし、こんなもんかな。」
「シラべ様!こちらの飾り付け終わりました~!」
「お、いいね~おっけーおっけー!じゃあ君はこっち調整するときちょっと端支えてて!それで…あー、そこのやることなさそうなモグラは壁飾り付けでもしといて~」
「ちょっと、シラべ。私はついさっきまで作業してたんですけど…見て分からなかったんですか。それにあまり大きな声出さないでくださいよ…彼等の部屋はここから遠くないんですから」
いつもより声の調子をいくらか落としたセンラは指を口の前で立ててしー、とジェスチャーをすると不安げに眉をひそめた。
賑やかに花や紙の飾りで飾られたここは、蒼の職務室。今は書類の一枚も見当たらず、仕事部屋にふさわしく厳かな空気を放っていた普段の様子とはかけ離れた姿になっていた。
センラの言葉を聞いて梯子の上に腰掛けて飾りをつけていたシラべは振り返る。
「大丈夫、このくらいの声なら通らないって。それにアオが部屋で引き止めてるんだから多少音立ててでも今晩のうちに終わらせないといけないでしょ。だって、明日はセレストの誕生日会なんだから!」
□□□□□□□
…一方その頃。蒼とセレストは珍しく急ぎの用事も仕事もない夜ということで、読書をしたり武器の整備をしたりと思い思いに過ごしていた。蒼は自身のナイフを布で磨きながらも考える。
そもそもは俺とセレストの二人だけでひっそりとお祝い会を終わらせる予定だったのだが、うっかりそれをシラべに言ったところ「そういうのはもっと盛大にやらなきゃダメじゃん!」と言われ、何故か途中で増えたセンラも含め何人かの部下たちとお祝いの準備をしてくれることになったのだった。
そして準備は最初は勿論俺も手伝うはずだったんだが、君にはセレストを引き止める役目があるなんて言われて強制的に休みを与えられて…部屋に返されたわけで。まあ、いつも寝る時くらいしか一緒にいれないセレストと久々に夜の時間をゆっくり過ごせるのは確かにちょっとありがたかった。
当のセレストはそんなことももちろん知らず、先程から本に熱中してる様子だが…喉は渇いていないんだろうか。
気になった俺だったが、そうだこれはちょうどいいと特別なときのために取っておいたモノをここで使ってしまうことにした。
「セレスト、紅茶飲むか?いい茶葉が手に入ったんだが…きっとお前は気に入ると思うんだ」
「え、ほんと?それなら僕が入れるよ」
「あーいや、なんかこの紅茶は入れ方にコツがあって…それにいつも貰ってばかりで悪いからさ。今日くらいは俺にお茶を入れさせてくれよ」
「そう?…ふふ、じゃあお願いしようかな」
蒼の入れた紅茶楽しみだ。と頬を緩ませるセレストに任せておけとこたえて暫く。準備を終え、ポットからティーカップに紅茶を注ぐ。
「あれ、なんだかこの紅茶…いつものより赤い?」
「ああそれはこの茶葉の特徴なんだ。これは植物が生えにくい標高の高い場所で育つからか色も普通のより濃くなるらしくてなあ。その分香りも深くて美味しいんだよ」
「そうなんだ。それを聞いたらより楽しみになったよ」
「ほら、できた。」
ふたつのカップに注ぎ終わって片方をセレストに近づけると、彼は感激した様子でそのカップの中をのぞき込む。
「ねえ、もう飲んでもいいの?」
「もちろん」
「じゃあ、いただきます……へえ、確かに香りだかくて…おいしくて…」
(どこか…懐かしいような…?)
紅茶を一口飲んだとたん動きを止めたセレストに蒼がもしかして何かミスをしてしまっただろうかと密かに内心で焦っていると、セレストが「ああ!」と手のひらを拳で打った。
「そうだ。僕確か昔からこの紅茶好きだったんだよね…………え、?」
そうしてすんなりと出てきた自身の言動に驚いたように目を丸めるセレストとそれに怪訝な表情をうかべる蒼の心の思いは、奇しくも揃っていた。
あれ、飲んだことあったっけ?
飲ませたこと、あったっけ?
この茶葉は前世で蒼が好きだった紅茶で、良く頻繁に飲んでいるのを見ていた。しかし希少な茶葉を使っているため昔はともかく現在ではなかなか手に入れられない。だからセレストのお祝いに飲ませてあげようと思って何ヶ月も前から融通してもらって準備していたものだった。
それをセレストはまるで以前飲んだことがあったかのように言う。
しかも、本人もそれに気づいて怪訝そうな顔をしている。
一体、どういうことなんだ。
その瞬間、蒼はセレストに出会った時から疑っていたとあるひとつの可能性が頭をよぎった。
やはり、君は…もしかして……それに、まさか記憶が……?
セレストは赤く揺れる紅茶の表面を見ながら静かに呟く。
「なんで…?僕は、この紅茶の味を初めて味わったはずなのに…」
まるで昔から知っているように感じてしまったんだろうか
不意に一つの音が止む。作業を中断したシラべは額に滲んだ汗を袖で拭い、ふう、と息をついた。
「よし、こんなもんかな。」
「シラべ様!こちらの飾り付け終わりました~!」
「お、いいね~おっけーおっけー!じゃあ君はこっち調整するときちょっと端支えてて!それで…あー、そこのやることなさそうなモグラは壁飾り付けでもしといて~」
「ちょっと、シラべ。私はついさっきまで作業してたんですけど…見て分からなかったんですか。それにあまり大きな声出さないでくださいよ…彼等の部屋はここから遠くないんですから」
いつもより声の調子をいくらか落としたセンラは指を口の前で立ててしー、とジェスチャーをすると不安げに眉をひそめた。
賑やかに花や紙の飾りで飾られたここは、蒼の職務室。今は書類の一枚も見当たらず、仕事部屋にふさわしく厳かな空気を放っていた普段の様子とはかけ離れた姿になっていた。
センラの言葉を聞いて梯子の上に腰掛けて飾りをつけていたシラべは振り返る。
「大丈夫、このくらいの声なら通らないって。それにアオが部屋で引き止めてるんだから多少音立ててでも今晩のうちに終わらせないといけないでしょ。だって、明日はセレストの誕生日会なんだから!」
□□□□□□□
…一方その頃。蒼とセレストは珍しく急ぎの用事も仕事もない夜ということで、読書をしたり武器の整備をしたりと思い思いに過ごしていた。蒼は自身のナイフを布で磨きながらも考える。
そもそもは俺とセレストの二人だけでひっそりとお祝い会を終わらせる予定だったのだが、うっかりそれをシラべに言ったところ「そういうのはもっと盛大にやらなきゃダメじゃん!」と言われ、何故か途中で増えたセンラも含め何人かの部下たちとお祝いの準備をしてくれることになったのだった。
そして準備は最初は勿論俺も手伝うはずだったんだが、君にはセレストを引き止める役目があるなんて言われて強制的に休みを与えられて…部屋に返されたわけで。まあ、いつも寝る時くらいしか一緒にいれないセレストと久々に夜の時間をゆっくり過ごせるのは確かにちょっとありがたかった。
当のセレストはそんなことももちろん知らず、先程から本に熱中してる様子だが…喉は渇いていないんだろうか。
気になった俺だったが、そうだこれはちょうどいいと特別なときのために取っておいたモノをここで使ってしまうことにした。
「セレスト、紅茶飲むか?いい茶葉が手に入ったんだが…きっとお前は気に入ると思うんだ」
「え、ほんと?それなら僕が入れるよ」
「あーいや、なんかこの紅茶は入れ方にコツがあって…それにいつも貰ってばかりで悪いからさ。今日くらいは俺にお茶を入れさせてくれよ」
「そう?…ふふ、じゃあお願いしようかな」
蒼の入れた紅茶楽しみだ。と頬を緩ませるセレストに任せておけとこたえて暫く。準備を終え、ポットからティーカップに紅茶を注ぐ。
「あれ、なんだかこの紅茶…いつものより赤い?」
「ああそれはこの茶葉の特徴なんだ。これは植物が生えにくい標高の高い場所で育つからか色も普通のより濃くなるらしくてなあ。その分香りも深くて美味しいんだよ」
「そうなんだ。それを聞いたらより楽しみになったよ」
「ほら、できた。」
ふたつのカップに注ぎ終わって片方をセレストに近づけると、彼は感激した様子でそのカップの中をのぞき込む。
「ねえ、もう飲んでもいいの?」
「もちろん」
「じゃあ、いただきます……へえ、確かに香りだかくて…おいしくて…」
(どこか…懐かしいような…?)
紅茶を一口飲んだとたん動きを止めたセレストに蒼がもしかして何かミスをしてしまっただろうかと密かに内心で焦っていると、セレストが「ああ!」と手のひらを拳で打った。
「そうだ。僕確か昔からこの紅茶好きだったんだよね…………え、?」
そうしてすんなりと出てきた自身の言動に驚いたように目を丸めるセレストとそれに怪訝な表情をうかべる蒼の心の思いは、奇しくも揃っていた。
あれ、飲んだことあったっけ?
飲ませたこと、あったっけ?
この茶葉は前世で蒼が好きだった紅茶で、良く頻繁に飲んでいるのを見ていた。しかし希少な茶葉を使っているため昔はともかく現在ではなかなか手に入れられない。だからセレストのお祝いに飲ませてあげようと思って何ヶ月も前から融通してもらって準備していたものだった。
それをセレストはまるで以前飲んだことがあったかのように言う。
しかも、本人もそれに気づいて怪訝そうな顔をしている。
一体、どういうことなんだ。
その瞬間、蒼はセレストに出会った時から疑っていたとあるひとつの可能性が頭をよぎった。
やはり、君は…もしかして……それに、まさか記憶が……?
セレストは赤く揺れる紅茶の表面を見ながら静かに呟く。
「なんで…?僕は、この紅茶の味を初めて味わったはずなのに…」
まるで昔から知っているように感じてしまったんだろうか
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
過食症の僕なんかが異世界に行ったって……
おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?!
ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。
凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる