19 / 27
セレスト12歳。
18 不思議な夢
しおりを挟む
「う…」
隣に眠る蒼を起こさないように起き上がり、痛む頭を押さえ息を整える。
「一体、なんなの……この夢は…」
ここ数日、セレストはとある夢に悩まされていた。
□□□□□□□□□
「んー、おはようセレスト…」
「おはよう。今日は僕がご飯用意しといたから、まだゆっくりしてていいよー」
「ほんとうか?もう一人ですっかりこなせてすごいなあ、ありがとう。」
ふにゃりと笑う蒼に頭を撫でられ、それで赤くなった顔を見られたくなくて「僕もそろそろ自立する歳なんだからね。」と言って腕を抜け出して配膳の準備に戻った。
蒼が寝起きに弱いと知ったのはごく最近だ。昔は幼い自分のために無理して朝早く起きて朝の支度をしてくれていたらしい。それを知ってからは蒼の仕事が忙しそうな時は自分が朝食を作ってできるだけ長く寝かせてあげることをするようにしている。自分は幸いにも朝は辛くない方なので負担もないし、朝を作るとその日の夜ご飯は蒼の手料理が食べられるのでセレストにとってはいい事づくめなのだ。
…まあ、今日早く起きてしまったのはそういう理由ではなく、あの夢のせいなのだけど。
セレストは料理を盛り付けながら、脳裏で今日見た夢の内容を思い返していた。
……
…
いつもその夢を見る時、セレストはいつの間にかシアターの中央の席に座らされていて目の前の大きな画面に投影される映像を眺めていた。
大きなモニターに映し出された映像は、音声も効果音もなかったが、まるでひとつの映画を見ているような感覚になり目を離すことが出来なかった。
内容は、今のところどうやら主人公らしき人間の一人称視点で全て展開されているらしく、最初に見たのは産まれたばかりのふくふくとした己の両手と、それを伸ばした先にいる両親らしき姿。
夢というのは記憶を元に作られるという。しかしセレストは修練にあけくれていたせいで民の娯楽である映画などはあまり見た記憶がなかった。その人物に見覚えはあるだろうかとしっかりと顔を見ようと覗き込んだところで、しかし映像は無慈悲にも次のシーンにうつり変わってしまった。
しかし奇妙なことに、先程までぼんやりとながらもしっかり映っていた映像が激しく乱れ、砂嵐のような画面になってしまう。
そのまま長い間ずっと砂嵐の画面を見続けているといつしか、映画が終わったのだろうか。やがて不意に目が覚めた。
「なんだったんだ、一体……」
そしてその奇妙な夢はもう既に何度も繰り返している。気づいたのは、その夢を見る度に砂嵐の部分がほんの少しずつ形を取り戻して人間の姿や風景が写り始めているということだった。
最後まで見えるようになったら一体何が起こるのか。薄ぼんやりとした不安に襲われるものの特に害がある訳でもなく、悪夢という訳でもない。そんなわけで、セレストはこの夢のことについて誰にも相談できないままでいた。
ぼうっとしたままだったが手は動かしていたのでいつの間にか配膳は終わっていた。そのまま冷める前にと蒼を呼びに行くと、もう目は覚めていたらしく布団の上で腕を伸ばして伸びをしていた。
「…ふぁあ、セレスト。ごめんなあ全部任せて」
「ううん。別にこのくらいなんてことないよ。ゆっくり休めた?」
「うん。お前のおかげでな。」
蒼はまだ寝ぼけているのかそのまま伸びをした腕をこちらに伸ばしてきて、セレストの小さな体に覆い被さるように抱きついてくる。その体格差で少しよろけてしまうが、セレストも最近は鍛えていることもあってそれをさして重いとは思わなくなっていた。そもそも寝起きの蒼は結構こうしてすがりついてくることが多いので、こういう時はそのまま机に移動してしまうとすんなり着席してくれる。
「ほら、アオ。これとか自信あるんだけどどうかな」
今日上手くいったと思った副菜をスプーンにのせて差し出すと、それを一口食べた蒼は目を見開いて感嘆の声を漏らした。
「すごいじゃないかセレスト。めちゃくちゃ美味しい。お店で出てきてもおかしくないぞこれ」
「もう、大袈裟だよ」
それでも褒められて悪い気はしない。脳内で上手くいった料理リストにチェックをつけながら、セレストは朝食を口に運んだ。
隣に眠る蒼を起こさないように起き上がり、痛む頭を押さえ息を整える。
「一体、なんなの……この夢は…」
ここ数日、セレストはとある夢に悩まされていた。
□□□□□□□□□
「んー、おはようセレスト…」
「おはよう。今日は僕がご飯用意しといたから、まだゆっくりしてていいよー」
「ほんとうか?もう一人ですっかりこなせてすごいなあ、ありがとう。」
ふにゃりと笑う蒼に頭を撫でられ、それで赤くなった顔を見られたくなくて「僕もそろそろ自立する歳なんだからね。」と言って腕を抜け出して配膳の準備に戻った。
蒼が寝起きに弱いと知ったのはごく最近だ。昔は幼い自分のために無理して朝早く起きて朝の支度をしてくれていたらしい。それを知ってからは蒼の仕事が忙しそうな時は自分が朝食を作ってできるだけ長く寝かせてあげることをするようにしている。自分は幸いにも朝は辛くない方なので負担もないし、朝を作るとその日の夜ご飯は蒼の手料理が食べられるのでセレストにとってはいい事づくめなのだ。
…まあ、今日早く起きてしまったのはそういう理由ではなく、あの夢のせいなのだけど。
セレストは料理を盛り付けながら、脳裏で今日見た夢の内容を思い返していた。
……
…
いつもその夢を見る時、セレストはいつの間にかシアターの中央の席に座らされていて目の前の大きな画面に投影される映像を眺めていた。
大きなモニターに映し出された映像は、音声も効果音もなかったが、まるでひとつの映画を見ているような感覚になり目を離すことが出来なかった。
内容は、今のところどうやら主人公らしき人間の一人称視点で全て展開されているらしく、最初に見たのは産まれたばかりのふくふくとした己の両手と、それを伸ばした先にいる両親らしき姿。
夢というのは記憶を元に作られるという。しかしセレストは修練にあけくれていたせいで民の娯楽である映画などはあまり見た記憶がなかった。その人物に見覚えはあるだろうかとしっかりと顔を見ようと覗き込んだところで、しかし映像は無慈悲にも次のシーンにうつり変わってしまった。
しかし奇妙なことに、先程までぼんやりとながらもしっかり映っていた映像が激しく乱れ、砂嵐のような画面になってしまう。
そのまま長い間ずっと砂嵐の画面を見続けているといつしか、映画が終わったのだろうか。やがて不意に目が覚めた。
「なんだったんだ、一体……」
そしてその奇妙な夢はもう既に何度も繰り返している。気づいたのは、その夢を見る度に砂嵐の部分がほんの少しずつ形を取り戻して人間の姿や風景が写り始めているということだった。
最後まで見えるようになったら一体何が起こるのか。薄ぼんやりとした不安に襲われるものの特に害がある訳でもなく、悪夢という訳でもない。そんなわけで、セレストはこの夢のことについて誰にも相談できないままでいた。
ぼうっとしたままだったが手は動かしていたのでいつの間にか配膳は終わっていた。そのまま冷める前にと蒼を呼びに行くと、もう目は覚めていたらしく布団の上で腕を伸ばして伸びをしていた。
「…ふぁあ、セレスト。ごめんなあ全部任せて」
「ううん。別にこのくらいなんてことないよ。ゆっくり休めた?」
「うん。お前のおかげでな。」
蒼はまだ寝ぼけているのかそのまま伸びをした腕をこちらに伸ばしてきて、セレストの小さな体に覆い被さるように抱きついてくる。その体格差で少しよろけてしまうが、セレストも最近は鍛えていることもあってそれをさして重いとは思わなくなっていた。そもそも寝起きの蒼は結構こうしてすがりついてくることが多いので、こういう時はそのまま机に移動してしまうとすんなり着席してくれる。
「ほら、アオ。これとか自信あるんだけどどうかな」
今日上手くいったと思った副菜をスプーンにのせて差し出すと、それを一口食べた蒼は目を見開いて感嘆の声を漏らした。
「すごいじゃないかセレスト。めちゃくちゃ美味しい。お店で出てきてもおかしくないぞこれ」
「もう、大袈裟だよ」
それでも褒められて悪い気はしない。脳内で上手くいった料理リストにチェックをつけながら、セレストは朝食を口に運んだ。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……
おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?!
ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。
凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま

王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる