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セレスト12歳。
17 秘密を知った人
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「ふうん。」
山積みにされた書類に囲まれた机。その中心で数枚に纏められた紙束を見つめながら情佐は一人呟いた。
□□□□□□□□□
「さて、とりあえず来てもらった理由を説明する前に…セレストくんの新しい副隊長就任おめでとう。最年少だった君にも右腕となる存在ができるのだと思うとお兄さんは嬉しいよ」
パチパチ、と手を鳴らした後にわざとらしく泣き真似をしてくる彼に「はは、ありがとう」と思わず乾いた笑いを返した。
今回俺は珍しく情佐から話があると言われて情佐の職務室に呼び出されたらいきなりこれだったのだから、どうしたものか分からず多少冷めた反応になってしまった。まあ最年長のジョウサは別にその程度のこと気にしないのは分かってるのでそこまで気にしなくていいのだろうが。
「それでジョウサ、今日は一体何のようなんだい?任務は最近は入ってなかったし、まさか忙しい君がお祝いをするためだけに呼び出すわけもないだろうし…」
「ウンウン、君は話が早くて助かるよ。と言ってもそんなに大した話では無いんだけどね。僕は今回はただ事実確認をするためだけに呼んだだけだから。」
事実確認…?心当たりのないそれに疑問符を浮かべているのがわかったのだろう。「まあとりあえず聞いてよ」と言ってジョウサは手元の紙をペラリと一枚捲った。
「君も知ってのとおり、我が国ではみな国民は王様の子も同然という考えのもと王様の一族以外は苗字を持っていないよね。」
「うん、そうだね…?それがどうかした?」
突然あまりにも当たり前のことを話し出したジョウサに呆気に取られていると、ジョウサはそのまま紙に目線を向けたまま口を動かした。
「そして肉親に文字を与えられることで名付けは完了する。…これが、古来より続く我が国の名付けの儀式だ。もちろん細かいとこは略してはいるけどね。そして、この儀式に付属して生まれた縛りがひとつ。名前の音は貰えても肉親以外から文字を貰うことは許されていない。…分かるね?つまり文字をもたない国民はみな幼いうちに親と離れてしまった孤児なのさ。身近なところで言うとセレストくんがいい例だね。」
ジョウサが普段は柔らかく開いている目を僅かに細め、こちらを射抜くように見つめた。
「まあこんなことわざわざ言わずともセイジくん。君も同じだったのだから当然わかるか。…おや、そんな顔をしてどうしたんだい。なんで元の名前を知ってるのかって?…ふふ、僕はこの国の全ての情報を司ってるんだ。知らないことなんてないよ」
突然その口から放たれた己のかつての名前に動揺して言葉が紡げなくなっていると、構うものかと言ったようにジョウサは口を動かし続ける。いつもは自分たちをまとめてくれる頼もしいその口を今すぐにでも塞いでやりたいと思ったのは初めてだった。
「王の特例により後に名前ごと変わり文字までも貰った人間…実に興味深い。僕はそういう面白いことが大好きでね。勝手に調べさせてもらったのさ。まあ調べたあとの君と蒼くんの情報に関してはきちんと王様と僕以外見れないようになってるから安心したまえ。」
「…一体何が目的?」
「目的?特にないよ。言っただろう?僕はただ事実確認がしたかったのだと。ほら、これが僕が独自に調べた資料さ。間違いがないか確認しておくれよ」
そうしてジョウサは先程まで手元で弄んでいた紙束をこちらに投げるように渡してきた。慌てて受け取ると、そこには自身と蒼のプロフィールや経歴がズラっと箇条書きで並んでいた。その精密さに若干顔を青くしながら読み進めていく。完璧だ。完璧に、俺の人生の全てがここに記されている。そうして捲っていき、やがて薄くなってきたところに書いてあった文字を見て思わず手が止まる。
生き残ったセイジは蒼を己の名として新たに____
そこまで読んで、紙をグシャリと握りつぶした。その後ろにはきっと十二騎士団に入ってからの己の行動が記されているのだろう。
自分が読んででいる間邪魔することも無くこちらを見守っていたジョウサに改めて警戒心を顕にして視線を向けた。
「こんなことをわざわざ調べて……。何が目的かって…そっか、事実確認、だったかな。全部あってるよ、全部。余すことなく全て自分の経歴だ。恐ろしいほどに。」
「そうかそうか、それは良かった!いやあ君の情報はほとんど空白だったり色んなところに散らばってたりして本当に探すのに苦労したんだ。間違ってる情報を管理するのは僕のポリシーに反するからね。」
「…それで、本当にそれだけ?調べて、はい終わりですなんてことになるとは思えないんだけど」
本当に何が目的なのか全く読めずにいると、顎に手を当てていたジョウサが首を傾げながら呟いた。
「うーん。いや、まあそれだけなんだけど……アレだね。ひとつあるとしたら、もうここまでバレてるんだから部隊長の中での最年長くらい頼りなさいってことだよ。最年少くん。」
「……は」
「だから特に深い意味も理由も、君を糾弾するつもりも脅すつもりもないよ。僕は好奇心のままに調べて、君の……君たちの秘密を知ってしまって。何か困ってたら力になってあげることもできるんじゃないかなって思っただけなんだけどなあ」
だって僕、情報に関することならどんなことだってできちゃうからさ。なんて言いながら口をとがらせるジョウサのあまりに含みの無い様子に毒気が抜かれて思わず緊張が解ける。
そうだった、この人はそういう人だった。
「……ジョウサ…君って本当に胡散臭いんだよねいちいち。本当は普通にしてればただのいいひとなのに」
「なんだと。それは心外な。僕は普通にしてるつもりなんだがね」
それで、どうする?と手を差し出されながら続けられ、脱力したままその手を握った。
「……まあ、確かに力を借りたいことはあるけれど。」
「ふふ、まあ君が望んでいることなんて分かっているとも。今まで僕が事情を知らないからと頼めなかった、アレだろう?」
セレストくんと蒼くんの血縁関係を調べて欲しいんだよね。
そんなことはお見通しだと言うふうに自慢げにウインクされ、思わず握っている手をさらに強く握りしめて悲鳴を上げさせてしまったが、これに関しては自分は悪くないと思う。
山積みにされた書類に囲まれた机。その中心で数枚に纏められた紙束を見つめながら情佐は一人呟いた。
□□□□□□□□□
「さて、とりあえず来てもらった理由を説明する前に…セレストくんの新しい副隊長就任おめでとう。最年少だった君にも右腕となる存在ができるのだと思うとお兄さんは嬉しいよ」
パチパチ、と手を鳴らした後にわざとらしく泣き真似をしてくる彼に「はは、ありがとう」と思わず乾いた笑いを返した。
今回俺は珍しく情佐から話があると言われて情佐の職務室に呼び出されたらいきなりこれだったのだから、どうしたものか分からず多少冷めた反応になってしまった。まあ最年長のジョウサは別にその程度のこと気にしないのは分かってるのでそこまで気にしなくていいのだろうが。
「それでジョウサ、今日は一体何のようなんだい?任務は最近は入ってなかったし、まさか忙しい君がお祝いをするためだけに呼び出すわけもないだろうし…」
「ウンウン、君は話が早くて助かるよ。と言ってもそんなに大した話では無いんだけどね。僕は今回はただ事実確認をするためだけに呼んだだけだから。」
事実確認…?心当たりのないそれに疑問符を浮かべているのがわかったのだろう。「まあとりあえず聞いてよ」と言ってジョウサは手元の紙をペラリと一枚捲った。
「君も知ってのとおり、我が国ではみな国民は王様の子も同然という考えのもと王様の一族以外は苗字を持っていないよね。」
「うん、そうだね…?それがどうかした?」
突然あまりにも当たり前のことを話し出したジョウサに呆気に取られていると、ジョウサはそのまま紙に目線を向けたまま口を動かした。
「そして肉親に文字を与えられることで名付けは完了する。…これが、古来より続く我が国の名付けの儀式だ。もちろん細かいとこは略してはいるけどね。そして、この儀式に付属して生まれた縛りがひとつ。名前の音は貰えても肉親以外から文字を貰うことは許されていない。…分かるね?つまり文字をもたない国民はみな幼いうちに親と離れてしまった孤児なのさ。身近なところで言うとセレストくんがいい例だね。」
ジョウサが普段は柔らかく開いている目を僅かに細め、こちらを射抜くように見つめた。
「まあこんなことわざわざ言わずともセイジくん。君も同じだったのだから当然わかるか。…おや、そんな顔をしてどうしたんだい。なんで元の名前を知ってるのかって?…ふふ、僕はこの国の全ての情報を司ってるんだ。知らないことなんてないよ」
突然その口から放たれた己のかつての名前に動揺して言葉が紡げなくなっていると、構うものかと言ったようにジョウサは口を動かし続ける。いつもは自分たちをまとめてくれる頼もしいその口を今すぐにでも塞いでやりたいと思ったのは初めてだった。
「王の特例により後に名前ごと変わり文字までも貰った人間…実に興味深い。僕はそういう面白いことが大好きでね。勝手に調べさせてもらったのさ。まあ調べたあとの君と蒼くんの情報に関してはきちんと王様と僕以外見れないようになってるから安心したまえ。」
「…一体何が目的?」
「目的?特にないよ。言っただろう?僕はただ事実確認がしたかったのだと。ほら、これが僕が独自に調べた資料さ。間違いがないか確認しておくれよ」
そうしてジョウサは先程まで手元で弄んでいた紙束をこちらに投げるように渡してきた。慌てて受け取ると、そこには自身と蒼のプロフィールや経歴がズラっと箇条書きで並んでいた。その精密さに若干顔を青くしながら読み進めていく。完璧だ。完璧に、俺の人生の全てがここに記されている。そうして捲っていき、やがて薄くなってきたところに書いてあった文字を見て思わず手が止まる。
生き残ったセイジは蒼を己の名として新たに____
そこまで読んで、紙をグシャリと握りつぶした。その後ろにはきっと十二騎士団に入ってからの己の行動が記されているのだろう。
自分が読んででいる間邪魔することも無くこちらを見守っていたジョウサに改めて警戒心を顕にして視線を向けた。
「こんなことをわざわざ調べて……。何が目的かって…そっか、事実確認、だったかな。全部あってるよ、全部。余すことなく全て自分の経歴だ。恐ろしいほどに。」
「そうかそうか、それは良かった!いやあ君の情報はほとんど空白だったり色んなところに散らばってたりして本当に探すのに苦労したんだ。間違ってる情報を管理するのは僕のポリシーに反するからね。」
「…それで、本当にそれだけ?調べて、はい終わりですなんてことになるとは思えないんだけど」
本当に何が目的なのか全く読めずにいると、顎に手を当てていたジョウサが首を傾げながら呟いた。
「うーん。いや、まあそれだけなんだけど……アレだね。ひとつあるとしたら、もうここまでバレてるんだから部隊長の中での最年長くらい頼りなさいってことだよ。最年少くん。」
「……は」
「だから特に深い意味も理由も、君を糾弾するつもりも脅すつもりもないよ。僕は好奇心のままに調べて、君の……君たちの秘密を知ってしまって。何か困ってたら力になってあげることもできるんじゃないかなって思っただけなんだけどなあ」
だって僕、情報に関することならどんなことだってできちゃうからさ。なんて言いながら口をとがらせるジョウサのあまりに含みの無い様子に毒気が抜かれて思わず緊張が解ける。
そうだった、この人はそういう人だった。
「……ジョウサ…君って本当に胡散臭いんだよねいちいち。本当は普通にしてればただのいいひとなのに」
「なんだと。それは心外な。僕は普通にしてるつもりなんだがね」
それで、どうする?と手を差し出されながら続けられ、脱力したままその手を握った。
「……まあ、確かに力を借りたいことはあるけれど。」
「ふふ、まあ君が望んでいることなんて分かっているとも。今まで僕が事情を知らないからと頼めなかった、アレだろう?」
セレストくんと蒼くんの血縁関係を調べて欲しいんだよね。
そんなことはお見通しだと言うふうに自慢げにウインクされ、思わず握っている手をさらに強く握りしめて悲鳴を上げさせてしまったが、これに関しては自分は悪くないと思う。
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