親友のフリして生きていたらその親友が転生してきたので自分の手で育てることにしました

冷涼スグリ

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セレスト8歳。

15 記憶喪失のアオ【後編】

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「なあ…おいモグラ、どういうことなんだよこれ」
「…蒼の容態については機密事項として取り扱うとジョウサは言っていましたが…」

先程から一般兵の食堂が騒がしく、顔を出して見れば何やら話題の中心は蒼のことだった。どこからともなく「毒が…」だとか「記憶を…」と言った声が聞こえてくる。

「ジョウサが機密漏らすなんて考えられないでしょ。情報管理部隊のやつがやらかしでもしたの?それやばくない?」
「しかしここで噂を否定すれば事実だと認めてるようなもの…一度この話題は持ち帰って会議で相談しましょう」

そうしてそそくさと帰った二人は、その時食堂の隅に隠れる小さな影に気が付かなかった。

□□□□□□□□

「そう、それでね。蒼様はいま……」
「ええっマジかよ!?」

セレストが蒼に頼まれたのは、一般兵見習いの振りをしてあえて蒼の容態についての噂を流すことだった。食堂は兵士たちの情報交換場所だ。そこで語れば自ずとそこら中に広がる。

もし、そこそこの地位にこの事態を引き起こした犯人がいるとすれば毒を盛ったあとの結果が気になって仕方ないはず。
そして、あえて噂の内容は大袈裟にして、記憶に障害が出るほどの重傷で暫くは自室のベッドで寝たきりだろう。という内容にしていた。
そうすればもう噂には尾びれ背びれ、気がつけば相当重症な様子の蒼の姿が広まっていることだろう。
あえて身動きが取れないという情報を入れることで、犯人は近々確実に蒼を殺そうとするはず。無害な一般兵たちは騙すことになって申し訳ないとは思うが、あまり時間をかけずに犯人を炙り出したかった。


セレストは蒼の自室に帰り、そっと周りを確認して扉を占める。任せられた仕事を全うできたのが嬉しかったのか、弾んだ声で「やってきたよ!」と言いながら変装用の茶髪のウィッグを外した。

一方蒼は王様との対峙が終わったあと帰ってきており、若干疲れた様子にも見える。セレストはそれに疑問を抱いたが特に体調が悪そうなわけではなかったため気にしなかった。

「よくやった、セレスト。これできっと思うようにことが進めば今日中にカタをつけることができる。」
「さっきも思ったんだけど、アオはなんでそんなに今日終わらせようとしてるの?きちんと正式な手順で捜査すれば犯人もすぐ見つかりそうなのに」
「それじゃ遅いんだよなあ」

蒼は腕を組みながら遠くを見つめるようにボソッと呟いた。

「俺は休んだ後に回ってくる仕事が怖い」

それを聞いたセレストはなるほど、と納得して眉を下げて困ったように笑った。

□□□□□□□□□□


その夜に開かれた会議。蒼が不在の今回の会議はいつもより少しだけ荒れていた。

「だぁかーら、なんでアオのことが一般兵に漏れてんのって話!」
「知らないよそんなの。うちの部隊は少なくとも確実に無罪だと主張したいんだけどね。僕は生半可な教育は行っていない」

責め立てられた情佐はイラついたように答える。今回の件については情佐にも想定外の事だったからだ。

(クソ、ほんとに誰なんだ一体。ドクターが患者の情報を易々と言うわけもない。このまま長引かせると兵たちの士気に拘ってしまうし困ったな。)

そうしていつもよりギスギスした雰囲気の会議が進む中、突然会議室の扉が開いた。
そこに立っていたのはセレストで、大きく息を吸うと全員に聞こえるよう声を張り上げる。声変わり前の高めの声は騒がしい室内にもそれなりに響いた。

「みなさん!アオの部屋に、犯人が襲撃しにきました!」

それを聞いた途端、みんな揃って慌てて部屋を出て駆けだしていく。
みんなの頭の中を占めるのはひとつの思いだった。

(今のアオは記憶がなく、無力も同然!今襲われたのなら死んでしまう…!)


そうして誰一人…いや、王様とその護衛、そしてセレストを残して誰もいなくなった室内。王様はこれで任務完了と言わんばかりに胸を張る姿のセレストに声をかけた。

「…して、犯人はどうなった?」

その問いに、セレストはにっこりとその顔に笑みを浮かべ誇らしげに胸を叩いた。

「全員、既に確保済みです!!」


部屋にたどり着いた全員は中の惨状を見て思わず声を失ってしまった。そこに繰り広げられていたのは、想像していたように抵抗することも出来ずボロボロに痛めつけられた蒼の姿ーーーーーー

ではなく。
襲撃犯たちが縄で縛られてそこら辺に転がされ、それを片足で逃げないようおさえながら優雅に本を読んでいる蒼の姿だった。

「あ、みんな。おそかったね」

後にこれは、一般兵の中で語られる蒼最強伝説の一節に刻まれることとなる。
こうして、蒼の記憶喪失騒動は本人の狙い通りその日のうちに終息したのだった。
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