親友のフリして生きていたらその親友が転生してきたので自分の手で育てることにしました

冷涼スグリ

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セレスト8歳。

13 記憶喪失のアオ【前編】

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とある日の昼下がり。仕事中のため職務室を離れられない蒼のためにセレストは今日も食堂から二人分のお茶を受け取り運んできていた。
扉をノックすると中から朝から働き詰めでくたびれた様子の蒼が顔を出してくる。それにセレストはとびきりの笑顔を向けてトレーを差し出した。

「アオ、持ってきたよ!」
「おーありがとう。じゃあそろそろ休憩にするかあ」

そのまま机の上を片付けて置き、いつも通りカップに手をかけて中の液体を飲み干そうとした蒼だったが、なにかに気づいたかのようにぴくりと動きを止める。そして数秒ほどカップの縁を見て目を細めたかと思うと、ガチャンと音を立ててソーサーに置いた。

「…セレスト。お前はこのお茶飲んでないよな?」
「え、うん。僕まだ飲んでないよ。」
「よし、絶対飲むんじゃないぞ。というかそもそもティーカップにも触らない方がいい。」

そのただならぬ反応にセレストは恐る恐ると言った様子でカップを覗き込んだ。しかし、特に変わった様子は無い。
蒼はそのままどうしたもんかと呟き顎に手を当てて考え込む。

「よし、セレスト。これから俺は一芝居打つ。それに協力してくれるか?」
「…うん!僕は何をすればいいの?」

耳を貸せというジェスチャーに従って素直に顔をこちらに寄せるセレストに蒼は内緒話をする時のように口に手を当ててとある作戦を話した。

□□□□□□□

️「…あれ…?」

かすかにアルコールの匂いが漂う白い部屋。目を覚ました男は、ベッドから天井を見上げて一言呟く。

「……ここは、一体どこなんだろう。」

部屋の中には現在誰もいないのか、その言葉に返事が返ってくることはない。
やがて医者らしき人間が扉を開く音を立てて部屋に入ってくるまで、蒼は小さな窓から外の景色を眺めることに務めた。それくらいしか目を向ける場所がなかったからだ。

………………
…………
……


「アオ!目を覚ましたの!?」
「良かった、お前部屋でぶっ倒れたらしいじゃないか!セレストが慌てて俺たちを呼びに来たから良かったけどよ。お前が目を覚まさなきゃ原因も分からないしでこっちはてんやわんやしてたんだ」
「目が覚めてよかったよ~。どうしたの?また寝不足?」
「兎にも角にも起きてくれてほんとに良かった~これで部下たちも安心でしょ」

医務室には、蒼の目が覚めたとの知らせを受けてセレストと十二騎士団の隊長達のうちで手が空いてるものたちが駆けつけていた。
しかし、皆各々言いたいことを言っていくうちに、やがてその蒼がやけに静かなことに白辺が気づいた。

「……アオ?どうしたの、さっきから黙っちゃって。」
「その…」
「申し訳ありません、私たちがうるさくしすぎてしまいましたか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「…アオ?」

蒼が微かに脅えを宿した瞳で部屋の中を見渡す。そんな目を向けられる覚えの無い面々は怪訝な顔をしてアオの次の言葉を待った。
そんな彼らを前に蒼は困ったように引き攣った笑顔を浮かべると、恐る恐る口を開いた。

「君たちは一体…だれ、なのかな…?」



「はぁ?アオの使ってたティーカップに毒が塗られてたぁ!?」
「しかもそれが脳に影響を及ぼし人を廃人にさせるような強力な毒だったなんて…」

その後、蒼の台詞を聞いて医務室に絶叫を轟かせドクターにお叱りを受けた十二騎士団達だったが、それのせいでより蒼が脅えの色を強くしたのを見て反省し、あまり大人数でいてもこれ以上怯えさせるだけだと比較的人当たりがいい潜良と白辺、そしてずっと心配げな表情を浮かべて蒼の裾を掴んでいるセレストにあとを任せ名残惜しげにその部屋を後にした。

そのまま何も知らない様子の蒼に請われるままにこの国の話や十二騎士団の説明をしていた白辺と潜良だったが、後から医務室にやってきた情報管理部隊隊長の情佐ジョウサに告げられた言葉を聞いて
二人は驚愕を顕にした。

「アオ君は摂取した量が少なかったのか、幸いなことに記憶を失うだけで済んだみたいだけどね。たまたま僕のところにその毒に近い成分の薬のデータがあったからよかったけど、この国では普及してないモノだからもしそれがなかったらその毒がどんな効果なのかすら分からなかっただろう。非常に巧妙な手口だ。」
「えー、誰だよ十二騎士団に手を出そうなんて考えたやつ。絶対うちの国の奴じゃないでしょ。」
「勘が鋭いね、シラべ君。僕もこれは敵国からのスパイによる行為かなと踏んでいるよ。でもなあ、実際それで騎士団の隊長格を一人を使い物にならなくされちゃあ困っちゃうよねえ。初犯だから油断してるところをやられたといえばその通りなんだけど…よりによってアオ君かあ。」

悩ましげにメガネの縁を弄りながら「アオ君がいないと敵国相手に優位にたつのが難しくなっちゃうから困るんだよねぇ」と呟く情佐だったが、それを聞いた記憶のない蒼が困ったように「なんか…ごめんね?」と首を傾げるのを見て「いやいや、君は悪くないさ。何の話か分からないだろうにすまないね。まあなんとかなる大丈夫大丈夫」と蒼に余計な心配をかけないようにかはたまた素なのかあっけらかんと軽い調子で返した。

「それで、ジョウサ。それを聞いた私たちは何をすればいいんですか?」
「あーまあとにかく、今後十二騎士団は事が落ち着くまで食堂での食事は禁止ね。…あー、あとセレスト君もね。もしかしたら狙われたのは君の可能性も捨てきれない。少なくとも兵士専用の食堂に入れる地位を持った奴が相手ってことだからさ、念には念を入れて。それでアオ君に関してはもう頑張って薬の効果が切れるか記憶を自発的に思い出してもらうまでは安全なところに匿っておくべきかなと思うよ。きっと敵の目的は人間を使い物にならなくした上での戦力の無力化だからね。」
「アオは一応戦闘系統の部隊だし、それが無力化されたのは痛いよね」
「そうそう。それにしても記憶か~あっぶなほんと僕じゃなくて良かったー。僕が記憶失った時に戦争仕掛けられたらこの国終わっちゃうでしょ~あはは。」

脳内が国家機密の塊と言っても過言では無い情佐は軽い調子で笑い事にならないことを言うが、それを呆れたように見ていたドクターは、それらの話をぽかんとした表情を浮かべてずっと聞いていた蒼に視線を向けてこう告げた。

「とにかく、蒼様はこれから記憶が戻ることがないか経過観察を設けることと、自室から原則出ないようにお願い致します。そして念の為王様並びに十二部隊長、それとセレスト様以外とは出会わないように。」
「えっと…うん。とりあえず、僕は部屋から出なければ…いいんだよね?」
「はい。なにか不足があれば室内業務が多い私やシラべを呼んでいただければ直ぐに手助けしますからね。」
「小さいセレストに世話全部任せるのは申し訳ないし、ボクらになんでも頼っちゃって!普段アオってばしっかりしてるから頼られるのレア感あるからさ」

潜良と白辺が頼もしくそう言うと、蒼はセレストと二人に目線を向け「それじゃあ…」と遠慮がちに口を開いた。

「早速で悪いんだけど…君たちは僕の部屋の場所とかって…知ってる?」

「ああそっか、そこからかあ……」
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