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セレスト8歳。
9 もしかするとこの子は
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「あなたは…本当に他の子達と一緒に行かなくてよかったのですか?」
「う、うん。僕、アオと一緒に居たいから…」
そう言った後、ざっくばらんに切られた藍色の髪の少年は馬車の揺れで眠くなったのかふわぁ、と欠伸をひとつこぼした。
それに気がついた蒼が思わずと言ったようにその顔を綻ばせると、その少年の頭を優しく撫でた後自身の膝をぽんと軽く叩く。
「眠いのなら僕の膝でおねむり。王都まではまだ遠いし、今日は色々あって疲れたろう。」
「うん…いますごく、ねむい…」
子供らしく拙い様子で素直に膝に横になる少年を蒼と潜良は微笑ましく見守り、やがて寝息が聞こえてきたところでずっと言葉を発さず見守りに徹していた潜良が口を開いた。
「すっかり蒼に懐いていますね。先程は警戒した子猫のようでしたが」
「あの時はほかの子供たちを守るために気を張っていたんだろう。あ…いや、セレストはきっと元々素直な優しい子供だったんだ。この髪も…元々伸ばしていたらしいけど、他の子が危害を加えられそうだった時に自分から代わりにこれを売ってくれとわざわざ切ったらしいからね」
先程ほかの子供たちに聞いた話を思い返す。藍色はこの国では富の象徴だ。人身売買なんて手がける悪趣味な人間たちにはさぞ高く売れた事だろう。
吐き捨てるように小さく呟いた蒼はその少年がどんな覚悟で伸ばしていた髪を手放したのか想像し、痛ましげに目を細めた。そっと起こさないように気をつけながら癖のある藍色の髪を手で梳かす。
「そんな優しい心を持った少年を…いいのですか、蒼。いくら彼自身も望んだことだとしても…あなたの養子にだなんて。」
その声音には僅かに非難の色が乗っていたが、蒼はその言葉の裏に宿る意味を理解しつつも先程決まったその決断について譲るつもりは無かった。
「分かっているよ。十二騎士団の隊長である僕が養子を取るとなると、それは跡取りの意味を含むようになる。セレストの将来の道は、僕の息子になった時点でこの国の兵士として生きるしかなくなる…優しい子にそれは酷だと君は言いたいんだろう。」
「そこまで分かっていながら、何故。ほかの子供のように施設に預けた方が彼の将来の道は選べたはずです。正直な話、あまりあなたらしくない決断だと思いました。そんなにこの子供の何を気に入ったと言うのですか」
そう問われて蒼はしばらく目を伏せて考えていたが、やがてなにかの決意をともした瞳で潜良を射抜いた。
「彼は、きっと将来王を…この国を支える大きな存在になるはずなんだ。と言っても、これはただの勘なんだけど…」
だって、こんなにも蒼によく似た子供。見た目も、大人相手に物怖じしないその態度も、雑談の過程で出た読書が好きだという言葉も。何もかもが記憶の上での親友の姿をなぞっていった。
蒼にはこの少年との出会いは運命だとしか思えなかった。もちろん、何も知らない潜良相手にそこまで口に出すことは無かったが。
しかし、何故かこのこの手を離してはならないと。子供たちの送迎用の馬車に乗ろうとしなかった彼に服の裾を掴まれたあの瞬間、自分は強くそう思ったのだった。
(もしかしたら、本当に…)
蒼、なのかもしれない。なんて。そんなこと期待しちゃいけないのかもしれないけど。
「う、うん。僕、アオと一緒に居たいから…」
そう言った後、ざっくばらんに切られた藍色の髪の少年は馬車の揺れで眠くなったのかふわぁ、と欠伸をひとつこぼした。
それに気がついた蒼が思わずと言ったようにその顔を綻ばせると、その少年の頭を優しく撫でた後自身の膝をぽんと軽く叩く。
「眠いのなら僕の膝でおねむり。王都まではまだ遠いし、今日は色々あって疲れたろう。」
「うん…いますごく、ねむい…」
子供らしく拙い様子で素直に膝に横になる少年を蒼と潜良は微笑ましく見守り、やがて寝息が聞こえてきたところでずっと言葉を発さず見守りに徹していた潜良が口を開いた。
「すっかり蒼に懐いていますね。先程は警戒した子猫のようでしたが」
「あの時はほかの子供たちを守るために気を張っていたんだろう。あ…いや、セレストはきっと元々素直な優しい子供だったんだ。この髪も…元々伸ばしていたらしいけど、他の子が危害を加えられそうだった時に自分から代わりにこれを売ってくれとわざわざ切ったらしいからね」
先程ほかの子供たちに聞いた話を思い返す。藍色はこの国では富の象徴だ。人身売買なんて手がける悪趣味な人間たちにはさぞ高く売れた事だろう。
吐き捨てるように小さく呟いた蒼はその少年がどんな覚悟で伸ばしていた髪を手放したのか想像し、痛ましげに目を細めた。そっと起こさないように気をつけながら癖のある藍色の髪を手で梳かす。
「そんな優しい心を持った少年を…いいのですか、蒼。いくら彼自身も望んだことだとしても…あなたの養子にだなんて。」
その声音には僅かに非難の色が乗っていたが、蒼はその言葉の裏に宿る意味を理解しつつも先程決まったその決断について譲るつもりは無かった。
「分かっているよ。十二騎士団の隊長である僕が養子を取るとなると、それは跡取りの意味を含むようになる。セレストの将来の道は、僕の息子になった時点でこの国の兵士として生きるしかなくなる…優しい子にそれは酷だと君は言いたいんだろう。」
「そこまで分かっていながら、何故。ほかの子供のように施設に預けた方が彼の将来の道は選べたはずです。正直な話、あまりあなたらしくない決断だと思いました。そんなにこの子供の何を気に入ったと言うのですか」
そう問われて蒼はしばらく目を伏せて考えていたが、やがてなにかの決意をともした瞳で潜良を射抜いた。
「彼は、きっと将来王を…この国を支える大きな存在になるはずなんだ。と言っても、これはただの勘なんだけど…」
だって、こんなにも蒼によく似た子供。見た目も、大人相手に物怖じしないその態度も、雑談の過程で出た読書が好きだという言葉も。何もかもが記憶の上での親友の姿をなぞっていった。
蒼にはこの少年との出会いは運命だとしか思えなかった。もちろん、何も知らない潜良相手にそこまで口に出すことは無かったが。
しかし、何故かこのこの手を離してはならないと。子供たちの送迎用の馬車に乗ろうとしなかった彼に服の裾を掴まれたあの瞬間、自分は強くそう思ったのだった。
(もしかしたら、本当に…)
蒼、なのかもしれない。なんて。そんなこと期待しちゃいけないのかもしれないけど。
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