親友のフリして生きていたらその親友が転生してきたので自分の手で育てることにしました

冷涼スグリ

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セレスト8歳。

6 どんな夢かなんて訊かないでくれ

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「…また、今年もあの夢か。」

ベッドから勢いよく状態を起こし、額に流れる汗を袖でぬぐい取る。目はしっかり覚めたが、それとは別に今すぐにでも内蔵全部をひっくり返して吐いてしまいたい気分だ。はっきりと言葉にできない不快感が寝起きのこの体を支配していた。

詰まった空気と不快感を体の外へ逃がすように、セイジは重苦しくため息を吐いた。

何があったかと言えば、何も無い。強いて言うのなら、蒼の影を追うことに少々疲れてしまったとでも言うべきだろうか。
元々蒼と俺は正反対の性格で、だからこそ仲良くなれたというのはあるものの決して趣味嗜好が合うというわけじゃなかった。あいつは読書が好きで、俺は外で遊ぶ方が好きだった。あいつは理知的で穏やかな人間だったが、俺はどちらかと言うと感情的で怒りっぽい方だった。

俺が蒼になって、少しでもあいつに近づくためにと色んなことをした。自室に大きな本棚を置いた。感情を抑えるようになった。いつも穏やかに笑って、何をされても怒らないように。自分のことで手一杯のくせに人の面倒を親身にみて、騎士団として不足がないように毎晩一人で特訓して、寝不足を隠すために化粧を覚えた。

こんな生活を、一体何年続けた?幸い身体だけは丈夫だったおかげで、ガタが来たことは無かった。嘘をつくのは得意だったから、多少辛くても平気なフリをした。
心を許せる友はもう居ない。だから、一人で耐えた。耐えた。耐え続けた。

そうしていたら、心が先に疲れてしまったらしい。毎年この時期のこの時間。俺は悪夢を見るようになった。

十二騎士団の人間たちは一番後輩の自分に随分と良くしてくれているが、それは蒼の仮面を被っているからだ。蒼は誰にでも慕われる人間だったから。自分の素の姿を見たらみんなきっと失望してしまうだろう。


(蒼。あお。俺の親友、片割れ。)

なんで、死んでしまったんだ。俺はお前と一緒に、未来を歩みたかったよ。

「…ごはん、作らないと。」

蒼がいなくなってから、自分一人で作る料理は味気ない。お前の隣で見ていたものを、同じ味になるように作ったはずなのに。
また、一緒に隣でお前の手料理を食べられたらいいのに。

あいつが死んで、八回目の命日。カレンダーの今日の日付に俺は大きくバツをつけた。


□□□□□□□□□□


薄暗い地下に、たくさんの子供たちの啜り泣く声が響く。
【商品】と書かれた檻の内側で、セレストは自分よりひとまわり小さい子供を膝に抱え、背を撫でながらなだめすかしていた。

「大丈夫、大丈夫だから。みんな、絶対おうちに帰れるからね。諦めないで。こんな行いをこの国の王様が許すはずないんだ、きっと誰かが助けに来てくれる……」

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