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アオ20歳。
5 かつての密約
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「そうか…蒼は逝ってしまったか…。若者が戦で命を落とすというのは、何度見ても本当に辛いことだ。ご苦労だったな若い兵士よ」
救護室からそのまま出て来たのだろうか、駆け込むように遺体安置所へとやってきた蒼の最期を見届けたという若葉色の髪の兵士を労り王はそう言った。
十二騎士団の隊長達は王の側近でありいわば手足だ。そのため欠けた場合や理由があって辞める騎士がいたとして長い間その席を空けておくことは出来ない。その場合、新たな隊長は副隊長から繰り上げられることもあれば、王自らが選出することもある。
そしてこの蒼という少年は、その優秀さと人望の厚さなどから異例の若さにも関わらず王が特別に目をかけていた十二騎士団の隊長候補生の一人だった。
「会わないうちに、蒼も随分成長していたのだな」
生きているうちに、もう少し話せていればよかったのだろうが。
王が蒼の藍色の少し癖のある髪をひとつ撫でて、ぽつりと呟いた。
王と蒼が最後に出会ってから既に二年。久々に見た顔が死に顔になるはめになるととはあの時は思っていなかった。
あの時育ち盛りの少年だと思っていた蒼は既に青年の面影をその顔に宿し始めていた。
「髪も随分と伸びていたんだな」
戦場で焼き切れた毛先が痛々しい。せめて今は安らかであるようにと王は祈った。
しばらく無言の時が流れたが、ずっと俯いて蒼を暗い眼差しで眺めていた少年が、ぽつりと呟いた。
「……髪、邪魔じゃないのかっていつも聞いてたけど、こいつは願掛けだって言ってた。何を願ってたのかは教えてくれなかったけど、多分王様のことだ」
「…私の?」
「蒼は多分十二騎士団に入れるように、王様を傍で守れるようにって…髪を伸ばして願ってたんだと思う。多分、十二騎士団になったら切るつもりだったんだ」
「そうだったのか……」
二人の間に沈黙が落ちる。セイジはこの時王様相手に不敬な物言いをしている自覚はあったが、たとえそれで罰を与えられたとしても構いはしなかった。
そして、蒼から聞く話で王様はそんなことを気にするようなお人でないことも知っていた。
「…俺も、伸ばそうかな」
しばらく無言で蒼の顔を見つめていた二人だったが、セイジがふとしたように呟いた。
「……王様。俺、これからもっと訓練頑張るよ」
「?」
「それでもっと強くなって、蒼みたいに候補生になって…いつか十二騎士団に入る」
「…ほう」
「だから、だから王様。俺がいつか強くなったら…俺を十二騎士団に入れてくれよ。蒼が果たせなかった願いを、俺が変わりに叶えたいんだ。」
その声を振り絞るような静かな叫びを聞いて王は目を見開くと、ここで初めてセイジの瞳を見た。
「…少年、君はいつも蒼の隣に居た子だな。名は、なんという」
「俺の名前はセイジ…
いや、蒼。俺は今から…蒼って名乗る」
蒼は決意に満ちた瞳で王を見つめた。
「お前はそれでいいのか。死者の影を追うとなると…いつか耐えきれぬ苦しみに苛まれることもあろう。時と共に忘れるのも、また死者への弔いぞ」
「いいんだ…いえ、いいんです、王よ。お…僕は、蒼が掴むはずだった輝かしい未来を天国の彼に見せてやりたい。蒼はすごいやつだから…生きていくべき、人間だったから。だからもう、凡人のセイジはいらないんです。この国に必要なのは、蒼の方だ。」
「おぬしが、そこまで言うのなら…」
「王様、この事はどうか…俺達だけの秘密に」
救護室からそのまま出て来たのだろうか、駆け込むように遺体安置所へとやってきた蒼の最期を見届けたという若葉色の髪の兵士を労り王はそう言った。
十二騎士団の隊長達は王の側近でありいわば手足だ。そのため欠けた場合や理由があって辞める騎士がいたとして長い間その席を空けておくことは出来ない。その場合、新たな隊長は副隊長から繰り上げられることもあれば、王自らが選出することもある。
そしてこの蒼という少年は、その優秀さと人望の厚さなどから異例の若さにも関わらず王が特別に目をかけていた十二騎士団の隊長候補生の一人だった。
「会わないうちに、蒼も随分成長していたのだな」
生きているうちに、もう少し話せていればよかったのだろうが。
王が蒼の藍色の少し癖のある髪をひとつ撫でて、ぽつりと呟いた。
王と蒼が最後に出会ってから既に二年。久々に見た顔が死に顔になるはめになるととはあの時は思っていなかった。
あの時育ち盛りの少年だと思っていた蒼は既に青年の面影をその顔に宿し始めていた。
「髪も随分と伸びていたんだな」
戦場で焼き切れた毛先が痛々しい。せめて今は安らかであるようにと王は祈った。
しばらく無言の時が流れたが、ずっと俯いて蒼を暗い眼差しで眺めていた少年が、ぽつりと呟いた。
「……髪、邪魔じゃないのかっていつも聞いてたけど、こいつは願掛けだって言ってた。何を願ってたのかは教えてくれなかったけど、多分王様のことだ」
「…私の?」
「蒼は多分十二騎士団に入れるように、王様を傍で守れるようにって…髪を伸ばして願ってたんだと思う。多分、十二騎士団になったら切るつもりだったんだ」
「そうだったのか……」
二人の間に沈黙が落ちる。セイジはこの時王様相手に不敬な物言いをしている自覚はあったが、たとえそれで罰を与えられたとしても構いはしなかった。
そして、蒼から聞く話で王様はそんなことを気にするようなお人でないことも知っていた。
「…俺も、伸ばそうかな」
しばらく無言で蒼の顔を見つめていた二人だったが、セイジがふとしたように呟いた。
「……王様。俺、これからもっと訓練頑張るよ」
「?」
「それでもっと強くなって、蒼みたいに候補生になって…いつか十二騎士団に入る」
「…ほう」
「だから、だから王様。俺がいつか強くなったら…俺を十二騎士団に入れてくれよ。蒼が果たせなかった願いを、俺が変わりに叶えたいんだ。」
その声を振り絞るような静かな叫びを聞いて王は目を見開くと、ここで初めてセイジの瞳を見た。
「…少年、君はいつも蒼の隣に居た子だな。名は、なんという」
「俺の名前はセイジ…
いや、蒼。俺は今から…蒼って名乗る」
蒼は決意に満ちた瞳で王を見つめた。
「お前はそれでいいのか。死者の影を追うとなると…いつか耐えきれぬ苦しみに苛まれることもあろう。時と共に忘れるのも、また死者への弔いぞ」
「いいんだ…いえ、いいんです、王よ。お…僕は、蒼が掴むはずだった輝かしい未来を天国の彼に見せてやりたい。蒼はすごいやつだから…生きていくべき、人間だったから。だからもう、凡人のセイジはいらないんです。この国に必要なのは、蒼の方だ。」
「おぬしが、そこまで言うのなら…」
「王様、この事はどうか…俺達だけの秘密に」
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