親友のフリして生きていたらその親友が転生してきたので自分の手で育てることにしました

冷涼スグリ

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アオ20歳。

4 全部忘れてくれないか

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「おや、珍しい。アオが遅刻ですか」

会議室の時計が開始時刻を指しているのを見て、ぽつりと声が落ちた。
部屋の中の王を除く十二の席は、ひとつだけぽっかりと空いている。

「これは珍しい。遅刻なんて彼が就任して初めてのことではないですか?」
「アオは真面目だから、いつもは誰よりも早くこの場にいるのにな」
「そういやさっき食堂で部下たちが何やら騒いでるのを見たぞ」
「あいつの身に何かあったのか?」

そこで蒼の隣の席に座る潜良センラが「私が探しに行きましょうか」という声をあげた瞬間、扉が大きな音を立てて開いた。皆反射的に何事かと立ち上がったが、そこに立っていたのが汗だくの蒼であることに気づくとその滅多に見られない切羽詰まった様子に目を丸くした。

「っはぁ、はぁ…申し訳ないっ……!!会議に遅れてしまうなんて、なんて詫びればいいのか…」

そうしてそのまま自席に着くと、潜良に背中をさすられながら荒い息を整えた。

「アオ、すごい汗ですよ。水を飲みますか」
「おいモグラ、そんなに咳き込んでるとこに水飲ませたらアオが噎せちゃうだろ」
「それもそうですね、アオ。ここに置いておくのでゆっくり飲んでくださいね。」

潜良が蒼の目の前に自身の水を置くと、蒼は一言「すまない」と言って一口飲んだ。それを見届けてから潜良はくるりと野次を入れてきた白辺のほうに振り返った。

「それとシラべ、私の名前はセンラだと何度言ったらわかるのですか。喧嘩なら買いますよ」
「いいじゃんもうみんなそう呼んでんだからさ。諦めなよ。」
「妙なあだ名を広めた張本人は貴方でしょうが」

 モーグラ、と続けてからかう白辺に対して潜良が額に青筋を立てたところで、今回の会議の進行役である戦獄センゴクが「ここでの騒ぎはご法度だぞ」と止めた。

「それにしても、アオはどうしたんだ?寝坊でもしたのか?」
「あの蒼が寝坊?はは、まさか。どうせ兵たちの話を親身に聞いてやっていたら遅れたとかそんなところでしょ。」

「はは、まあそんなところ…かな」

実際は親身にどころかキレた挙句逃げた先で情けないことに盗み聞きをしていた訳だが。

「誰彼構わず世話を焼くのは別に構わないが、それで遅れるのは隊長としての面目が立たないぞ」
「まあまあ、まだ王様もお見えになってないんだしそこら辺にしてあげなよ。蒼が悪気があって遅刻したわけじゃないのはみんな分かるだろう?」
「それはそーだし、そろそろ王様来るんじゃない?ほらほら、みんなで出迎え用意」

白辺がそう言うと、丁度のタイミングで扉が開いた。

  ………


「~なため、β地帯には鉱山が発展しており」
「~~は~なのか?」
「そうだな、それで…………」

 会議が無事始まり、三十分程が経過した。
(……まずい、眠い。)
先程吹き飛んだ眠気がまた襲ってきた。先程からペンで手をチクチクと刺したり太ももを抓ったりとささやかな抵抗をしているが、どれも無駄に終わった。会議特有の厳かな雰囲気がより眠気を助長させる。それに自分の意見の発表が既に序盤で終わっていたことも、今はそれほど重要な内容では無い議論なこともあり集中力が限界に近かった。

目立たないように静かに目を閉じ、それが悟られないよう微かに頭を下げる。
幸い今は隣の席の二人も議論に参加しているためバレる気配は無さそうだった。
ああいけない、抵抗をやめたら本格的な睡魔が襲ってきた。でももう逆に四徹も頑張ったのだから、許してくれないだろうか。

そうしてしばらくの葛藤の後、蒼は静かに意識を落とした。

それから数分後。議論も落ち着いてきたところで、潜良は隣にいる蒼が微動だにしていないことに気づいた。

「……アオ、アオ……?まさか寝ているのですか。起きてください。会議中ですよ……」

顔を覗き込み、静かに語り掛けながら肩を揺らすが余程深く眠っているのか蒼の目が開くことは無い。そんなことをしていると段々周りも気づいてくるもので、皆チラチラと蒼の方を気にしながらも会議を進めていた。そして本格的に最後の議題が終了しそうになった頃。
苛立つように机を指で叩いていた戦獄の堪忍袋の尾がついに切れた。
ガタンッ
戦獄が音を立てて席を立つ。

「センゴク…?」
「……王よ、少しばかり騒がしくすることをお許しください」
「ああ、別に構わんが……もう会議もほぼ終わったようなものだしな」
「ありがとうございます。……おいアオ!!王の御前でお前は何寝こけているんだ!起きろ!!」

戦獄はカツカツと靴を鳴らして蒼の席まで寄ると、服の首元を掴むようにして引っ張りあげた。そんなことをされてはさすがの蒼も目が覚めたらしく、瞼をパチパチと開閉する。

「……」
「起きたか。お前が疲れてるのは分かるが、それにしてもこんなところで寝るなんてお前らしくもなーーー」
「…っるっさいな……」
「…アオ?」
「うるさいなあって言ってるんだ!無理やり叩き起すなよぉ!それに耳元で喚くな頭に響く…!」

「え」
「「「えええええ!!?」」」

到底蒼から飛び出すとは思えない荒い言葉の羅列に、全員が目を剥いて驚く。


「ううう、働き詰めでもうやってらんねえよぉ!四日も寝ずに頑張ったのに、まだ部屋には未処理の書類の山がつみかさなってるんだー…帰って寝させてくれーー!」

堰を切ったようにボロボロと涙を零しながら頭を抱える蒼の周りで王を含めた十三人がオロオロと歩き回る。
予想外の反応に戦獄ももはや怒りなど持続せず、今は蒼の肩を掴んで「ま、まあ落ち着け」と必死に宥める羽目になっている。

「アオ、最近確かに忙しそうにしてたけど……ずっと平気そうな顔してたから大丈夫なのかと思ってた…」
「溜め込むタイプだったのか…」 
「あ、アオがあんなに荒い口調で…怒鳴って……怒りを顕にしてるなんて……」
「あーあ、モグラがあまりのショックに泡吹いちゃってる…」
「こいつは騎士団に入った頃からずっとあいつの世話焼いてたから自分の知らないアオがいることに戸惑いを隠せないんだろうな……」

普段の蒼ならもしうたた寝をしてしまって叩き起されたと知ればすぐにでも「申し訳ありません…!何て無礼なことを……」と周りが気の毒になるくらいには自己反省をして己に罰を与えろとまで言ってくるだろうに、今の蒼は周りにあたるようにして泣きわめくという有り得なすぎる事態。もはや本人も何を言っているのかわかってないのかもしれない。

「うう……おれ、ずっとがんばっでで、働き詰めでねでなくで…うううう」
「わかったから、わかったから泣き止め」

「ボクあんなにうろたえてるセンゴク初めて見たかも……」

しばらくすると、泣き声が次第に小さくなり、やがて鼻をすする音もしなくなった。
戦々恐々と蒼の顔を伺うと、その瞳は閉ざされ、まつ毛に乗った水滴がキラキラと光を反射している。

「王様~蒼が泣き疲れて寝ちゃった……」
「そ、そうか……ふむ。どうしたものか」
「ちょっと俺、アオの部屋行ってくるね。書類がどうとか言ってたし、どんなもんなのか見てくる。あー、あと王様もし良かったら今後蒼の仕事こっちに振っといてよ。どーせ調査部隊系統の仕事も多少入ってるだろうから」
「では私はアオをとりあえず医務室に運んでおきます」


その後蒼の部屋から帰ってきた白辺が会議室に入るなり「なにあの量の仕事!有り得ねー」と吐き捨て「最年少にあんだけの仕事任せたらそうなるって!ボクらで分担しよう」と結論を出したことで一旦自体は収束したのだった。

……

その後、何事も無かったかのように医務室から出てきて「あ、みんなごめんね。うたた寝しちゃったのかな……あんまり記憶が無いんだけど。ほんとうに申し訳ない、わざわざ運んでもらったみたいで」

と平然とした様子の蒼が出てきたので、みんな揃って「あれは夢……?」と宇宙を背負う羽目になったのだった。

まあちなみにその裏ではすべてを忘れたフリをしてなかったことにしようと画策する冷や汗を流す蒼の姿があった訳だが。

(夢かまぼろしとでも思ってくれいっそ)




□□□□□□□□□□□



「セレスト~。あら、また本読んでるの?あなたは本当に読書が好きなのね」
「うん!あのね、ぼく友達と遊ぶのもすきだけど、同じくらい本を読むのも大好き!」
「うちの施設にはあまり本がないからねえ…申し訳ないわあ。」

キラキラと輝くグリーントパーズの瞳が施設の職員を見つめる。そして大きな夢を語るかのように両手を広げ、眩い笑顔をうかべた。

「ぼく…おとなになったら自分の部屋に大きな本棚をつくるんだ!」
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