親友のフリして生きていたらその親友が転生してきたので自分の手で育てることにしました

冷涼スグリ

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セイジと蒼。15歳

1 全ての始まり

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「はーっはっは!十二騎士団の隊長を討ち取ったぞ!これで三人目だァ!このまま十二の首、全て我が国王に献上してくれようぞ!!」

地面に転がる首を掴み、持ち上げた男が得意げに叫ぶ。それを見て周りの敵の兵士たちが下衆びた笑い声をあげた。俺たちはそれを死体の陰に隠れながら息を殺して見ていることしか出来なかった。

我がシアン王国と隣国であるカーマイン王国の領土をかけた戦い。この数十年間で幾度と繰り返し、常に優勢を保ち続けてきた我が国。今回も負けるはずないと兵のほとんどはそう思っていた。
しかし、長年変わらぬ劣勢状態に嫌気が差したのだろう。今回に至って敵は卑劣な手段を用いてきた。シアン王国内にスパイを仕込み、情報を奪って有利な布陣を先取ってからの宣戦布告。去り際には兵士の飲水に毒を流した。
それにより我が軍はかってないほどの劣勢を強いられていた。

国を守護する最後の砦であるはずの十二騎士団も殆どが前線に投下された。しかし状況は改善されず既に三人もの騎士たちが討ち取られ、それを聞く度に一般兵たちの士気は段々と下がっていく。そのせいもあって既に大半の部隊が壊滅状態になっていた。そんな状態でここから戦況を巻き返すのはほぼ不可能に近かった。

既に民衆や兵士のほとんどが王が降伏宣言を出すのを待っている。これ以上犠牲を増やさないでくれと大切な人を失った者たちが悲痛な叫びを城に向ける。
皮肉なことに、敵味方の全てが我が国の敗北を望んでいるのが今の現状であった。

「セイジ、もうこっちは全滅だ。僕も腹をやられた、もう助からない。せめて軽傷な君だけでも安全なところに逃げるんだ」

適の兵士が近くから退いたのを確認して詰めていた息を吐いた蒼は、苦しげに患部を抑えながらそのグリーントパーズの瞳でこちらを見た。俺は堪らず蒼の肩に掴みかかるようにしてその顔を睨みつけた。

「…なんでそんなことを言うんだよ!無理だ、蒼を置いて逃げるなんて俺にはできない。今すぐ治療すればお前だって助かるはずだ!諦めるなよ、頼むから…」
「…もういい、もういいんだ。心優しい我らが王のことだから、民衆の願いに応えて降伏宣言が出るまできっとそう時間はかからない。だからそれまで、せめて君だけでも生きのびてくれ…。ろくに動けない僕なんかを戦場で連れていると、足でまといになってしまう。…頼むよ、君には生きていて欲しいんだ。」
「い、やだ…!諦めてたまるか!!お前は、蒼は︎︎生きるべき人間だろうが…っ!民衆に慕われて、王にも期待されていて、輝かしい未来が目前にあったんだ!そんなお前が死んでいいはずがない…!あの時蒼天の下で、共に支え合って生きていこうと約束したのを忘れたのか…!?今こそがその支え合う時なんじゃ無いのか…?」

涙が溜まって目の前の蒼の姿が歪む。喉を引き絞って叫ぶように言ったその言葉は情けないことに震えていた。

こぽり、蒼が口から血の塊を吐く。

「は、はは。忘れてるはず…ないだろう」

そのままこちらに倒れ込みそうになるのを慌てて支えて、静止の声を無視し患部に触らないよう気をつけながら彼を背負う。口ではずっと置いていけと抵抗していたが、そんなの聞いてやるものかと無視をした。
しかしもう既に体に力も入らないようでされるがままだ。その様子に彼の限界が感じ取れて、ギリリと音がなるほどに歯を食いしばった。

「でも、もう…約束は、果たせそうに…ないなあ」

ゴホゴホと苦しげに咳をしたあとぐったりともたれかかる蒼を、決して落とさないようにしっかりと抱え直す。背中から戦場で良く感じとる死の匂いがすることにゾッとした。

(嗚呼、なんで俺が無事で蒼が死にかけてるんだ。なんで次期騎士団としてこれから国を支えていくはずだった蒼が死にそうで、いくらでも替えがきく俺なんかが五体満足で生きてるんだよ…!)

蒼はその真面目な気性と飛び抜けた実力から、いたく王に気に入られていた。兵士たちと酒を飲み交わしながら 「お前がこのままいつか十二騎士団に入ったら、その部下に俺たちは喜んでなってやるのに」と言われているのを聞いた。

俺はそんな蒼のことが親友として誇らしくて、このまま輝かしい未来を進んでいく蒼を後ろから眺めていられたらそれで良かった。いつか隣に並んでやると、追いついてやると努力して、未来で肩を組んで笑っていられたらそれで…

視界がぼやける、食いしばった歯の隙間から血が流れる。自分一人でも立ってるだけでやっとの情けない足は人1人背負ったおかげでもうガクガクだ。
でもここで、歩みを止める訳には行かない。歩みを止めたら、蒼が死んでしまう。

耳元で聞こえる呼吸がだんだんか細くなっていくことに絶望を感じながら、俺は味方の血で染まった戦場を歩き続けた。

…歩き続けて、どれほど経っただろうか。
はくり。耳元で息を吸う音が聞こえる。蒼が、蚊の鳴くような声で囁いた。

「最期に、君の顔が見たいな」

その掠れた声が、あまりにも聞いているこっちが耳を塞ぎたくなるような哀しい響きを持っていて…でもそこに隠れる愛しさに気づいてしまったから。
俺はもうそれ以上進むことなんてできなくて、その場で立ち止まった。彼を背中から下ろしてそっと地面に横たえる。

改めてしっかりと見た彼の顔は血の気が失せて真っ白で、吐血のせいだろう血にまみれながら苦痛に歪んでいた。でも、俺の目を見た途端、痛みなんて全部忘れたようにふわりと笑う。

(なんで、こんな状況で笑うんだよ)

それは俺が大好きな、蒼の笑顔だった。
覗き込んだ彼の顔に水滴が落ちる。蒼はその水滴の出処を辿るように目を少し彷徨わせると、吐息と間違わんばかりの小さな声で静かに笑った。

「はは、そんなに泣いたら目が溶けちゃうよ。君の瞳は、本当に綺麗な…青色の宝石なんだから…。ねえ、もっと…近づいて見せて…ごめんね、もうあんまり目が見えなくて…」

焦点が合わない翠色の瞳がこちらを見る。いつもはキラキラと輝いているグリーントパーズが濁っていた。俺は堪らなくなって、蒼に縋り付くように抱き抱えた。血が通っていないように冷たい。これは死人の温度だ。

「っやだ、嫌だよ蒼…!死なないでくれよ、俺はお前がいない世界でどう生きていけばいいんだ…!いつも俺たち一緒に生きてきたじゃないか、騎士団にお前が選ばれても、いつかお前のところに絶対に追いついてやるってあの時誓ったのに…!」
「…約束、破ってごめんね…」
「俺は…お前が居なけりゃなにも…」

「……セイジ。」
「なんだ、あお。」
「…だい…すき、だよ…。」
「…俺もだよ…」
「ふふ。君はまだしんじゃ、ダメだからね…」
「蒼…!あお、あお…!」

「未来は、きっと明るい、から…さ。ぜつぼうしちゃ、 いけないよ…」

僕との新しい約束。

そう言い残して、蒼は微笑みながら目を閉じた。その姿が、血塗れた戦場に似合わないほど安らかで…俺は、蒼の遺体を掻き抱いて子供のように泣きわめく事しか出来なかった。
その声で敵に見つかってしまうかもなんて、考える余裕はもうなかった。
俺はただひとりの半身を失ってしまったのだ。

「ああ、…酷いよ、蒼。お前が死んだのに、俺には絶望してはダメだと言うんだから…お前は本当に酷いやつだ…」


……

それから先の記憶は酷く曖昧だ。あのあと泣き疲れた俺は蒼の亡骸に縋りながら気絶したらしく、味方の救護施設で目を覚ました。
その後は色んな人に無理を言って、蒼の亡骸は俺が引き取って城の外れにある海の見える崖に埋めさせてもらった。蒼は…ここから見える景色が1番好きだったから。

……

「さて、それじゃあ今日も頑張ろうかな。」

あれから数年。僕は、自らを蒼と名乗るようになった。振る舞いも一人称も、彼の影を追うように変えた。
共通の知り合いは僕の変化を見て驚いていたけれど、みんな物言いたげな顔をするだけで直接は何も言ってこなかった。僕にとっては都合がいいことこの上ない。

「僕が十二騎士団に入って初日の任務だ。張り切っていこう。」

そしてあの日戦場で失われた三人の穴を埋めるためだろうか、僕は…〝蒼〟は、意外なほどすんなりと十二騎士団に入ることが出来たのだった。
しかも、王下直属の暗殺部隊の隊長として。

ぼくら〟がかつて望んだ輝かしい未来は、もう既にこの手の内にある。

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