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第一章 爺さん旅立ち編

チャプター6 爺さん装備を整える

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「石頭さん、我々と下界に行ってみませんか?」
 
 これは提案でもあり賭けでもありました。行かないと言われてしまえばそれでですし、行きたいと言ってもらえればロックがかかってしまったスキルを外す方法が下界で見つかるかもしれません。

「ほぉ下界か、いいのぅ。温泉はあるんかいのぅ」

「温泉ですね。泉質の優れている温泉がある村を存じていますのでご紹介出来ますよ」

「ほんとうかのぅ!温泉好きじゃよ、今すぐに連れて行ってくれんかのぅ」

 いい感じの一本釣りの成功です。
 私は更に踏み込んだお願いをしてみました。

「それでは、下界については私とサルエルが詳しいのでお供として連れて行ってくれませんか?」

「おぉ、勿論ええじゃてのぅ。よろしく頼んます」

 爺さんは満面の笑みでアゴの髭を撫でる。
 どうやら私の思惑通りに物事が進んだようです。
 私が安堵の息をついているとサルエルが私の耳元で「いいんですか、天界おざなりで」と囁きます。
 
 おざなりも何も、私は苦笑して答えます。

「愚問ですねサルエル、目的あってのお供ですよ。解っているとは思いますが、私たち天使は今や異世界ヒエラルキーの中でも最底辺に存在します。かつての私たちが占めていたポジションには今や爺さんが君臨しています。つまり私たち天使は今や爺さんの下僕な訳です。それがどうゆう事か解りますね?」

 サルエルは不機嫌そうに眉をしかめ、解っているような解っていないような不思議な表情になります。

「爺さんが温泉に行きたいといえば同行し、背中を流して欲しいと言えば背中を流し、温泉の温度が高ければフーフーして冷ます。つまりこれを」

「これを?」

 聞き返すサルエルに私は真顔で答えます。

「これを、使と言います」

 サルエルは呆れたように溜息をつき、私は爆笑します。
 何だか今日はとても愉快な気分です。
 この世界の存在そのものを握っていた自分が、今やただ空を飛ぶ事しか取り柄がない落ちぶれた天使となり、その逆になんの変哲もない爺さんが世界最強のチート爺さんとなりこの世界を握っている。
 
 とても面白いです。とにかく私は愉快でした。
 もう私を怯えるものはこの世界には存在しないでしょう。
 怯え疎まれる事から解放された事が愉快なのではなく、自分のちっぽけさが愉快でたまらないのです。

 爺さん専用下僕天使としての日々の始まりです。
 さぁ、心して楽しんでいくとしましょうかね。

                     ☆☆☆

「それでは石頭さん旅立ちの前に装備を整えましょう」

 そうミカエルに誘われワシは商店街のような場所にやってきた。
 天使達でごった返したその場所にはとにかく沢山の商店のようなものが存在したのじゃ。

「そこのショップは天界グミに、マチック草といった、いわゆる回復アイテムを扱っているショップになります」

 ほぅほぅ。なにやらカラフルな色をしたグミが並んでおるのぅ。
 リンゴや桃、イチゴと様々なフルーツの形をしたグミはどれも美味しそうじゃった。
 その横にはビン漬けにされた藻のようなものがあるのぅ。これがマチック草というものじゃろうか。

「で、ですね。右手に見えますのは武器屋でございます」

「ほぅ」

 右側には何やら強面な男が鋭利な刃物をブンブン降っておった

「これはゴブリンなら一刀両断に出来る秘剣安くしとくぜ!」

 そう声をかけられたが物騒でおっかないものを購入する気にはなれんかった。
 ミカエルの袖を掴みながら

「ワシはあんなおっかないものはいらん」

 と正直に答えおった。
 するとミカエラが

「そうですよね。ワタシもそう思っていました。ではこれなんかどうでしょう」

 値札には『神々の杖』1000ゴールドと書かれておった。

「でも、ワシお金もっておらんし……」

「ワタシが買いますよ転生のお祝いに」

「そ、そうかのぅ」

 でも杖があると道中腰が痛い時に便利じゃて、ワシはミカエルの提案を素直に喜んだのじゃ。

「悪いのぅミカエル、じゃあその杖を買ってもらおうかのぅ」

「いいんですよお気になさらず」

 さすが天使じゃ。仏様のような奴じゃ。爺さん大感謝じゃて。
 ミカエルが金貨を渡すと強面の店員が「へい!まいどあり!」と歯をニッと出して笑った。
 
 ミカエルから「どうぞ」と杖を渡され早速手にすると、とても軽い杖じゃった。
 元の世界でも息子夫婦からプレゼントされた事はあるが、プラスチック製だったりして温もりの感じられない杖じゃったがこの杖はええぞ、木製で木の温もりが感じられ匂いも森林浴をしているかのように木の良い香りが漂ってくるのぅ。
 ゴツゴツした造りになっていて、握る部分に凹凸おうとつがありツボが刺激され身体の血行が良くなるようじゃ。
 まさに爺さんの為に製造された爺さんの為の杖じゃ。感動じゃ。

「ミカエルすまんのぅ。感謝しておる感動じゃ」

 ワシは目元の涙を拭う。今までで最高のプレゼントじゃ。

 さらに天使達をかき分け歩いておると、何やら大盛況している店を発見したのじゃった。

「あれは、神獣ガチャのショップです」

「シンジュウ?」

 聞きなれない言葉に目が点になり聞き返す。
 ミカエルが天使達でごった返しているお店を一瞥し続ける。

「神獣というのは、神々の力が宿った獣の事を言います。神獣は神々が与えたと言われている固有のスキルを所有しています。先天的にスキルを発動できる個体もいれば後天的な要素、例えば学習する事や決定的な出来事によって習得し発動する事が出来るようになる神獣もいると言われています。一体いると便利なのでガチャってみますか?」

「いいんかのぅ」

 嬉しさのあまり眉がピクリと動いてしもうた。

「いいんですよ、この専用コインで1回引く事ができます」

 ミカエルから白銀色に輝くコインを手渡される。
 ワシはその白銀色のコインを握り締め列に並んだ。

 次の方どうぞーと青年天使に呼ばれ、自販機のような機械にコインを入れると機械が上下に激しく揺れ稲光が発生する

「おめでとうございます!レア度UPの稲光が発生しました出現するのはどんな神獣でしょうか!」

 受け付けのお姉さん天使のアナウンスがあり、その場にいた皆の衆が固唾をのむ。

 ガシャンッという音と共に取り出し口から稲光に包まれたカプセルが転がり落ちてきよった。
 しばらくしてカプセルが開き、眩い光を放ちながら何かが姿を現しおった。

 クルクルクルっと空中で回転し着地したその生き物は自らをこう名乗ったのじゃった

「ボクは神獣のククル。ジイさんはボクの金づるだよ、よろしくネ☆」

――しゃ、しゃべりおった!

 喋ったという事に驚き気を取られておったが、その見た目はなんとも愛らしかったのじゃ。
 クルクルと撒かれたシッポを伸ばしては丸める動作を繰り返し、クリクリとした黒いお目目は初孫が初めて目を開けた時のような感動を称えておった。
 猫のようでも犬のようでもない不思議な生き物じゃった。
 しいていうならば狐のような妖艶さもあるが、タヌキのような可愛らしさもある生き物じゃった。
 イタチのように長い胴体をもち手足は短く心許ない。
 そのアンバランスでちぐはぐな感じがとても愛らしかったのじゃて。

 ククルはワシの腕をひょいひょいと駆け上がりワシの肩の上に乗ると

「ジイさんはボクの金づるよろしいくネ!」

 と合言葉のように唱えた。
 なんとストレートかつメッセージ性の強い言葉なんじゃ。その素直な生き物ぶりに爺さんメロメロじゃて。

 ――ククルが仲間になりました――
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